自分のホームページやブログにも、あるいはここ ALiS にも何度か書いてきましたが、少し前の日本人には発音できない音がたくさんありました。例えば明治生まれの私の祖母は P の音がうまく言えませんでした。
私自身これを発見したのは大きな驚きだったのですが、でも、考えてみれば、恐らく日本人が発音できなかったために表記が曲がってしまった外来語ってたくさんあります。
例えば「ディ」は、昔入ってきた外来語では大抵「デ」または「ジ」に変換されていました。
何故「ディ」が発音できないかはヘボン式のローマ字表記を見れば明らかです。ダ行は da, di, du, de, do と書くのに我々は「ダヂヅデド」と発音しているわけですから。綴りの上では論理的に di や du があっても、その音は昔の日本語では一切使われなかった音なのです。
昭和の時代によくビルの名称に使われていたビルヂングという表記を見ればなんとなく納得がいきます。ダ行イ段はヂであって、決して di ではないのです。
私の親の世代の人たちはみんなディズニーランドではなくデズニーランドと言っていました。
デパートは今もデパートですが、これがもし平成もしくは令和の世に入ってきた外来語であればディパートという発音と表記で落ち着いていたかもしれません。何しろ departure はディパーチャーと書かれているわけですから。
辞書を引いてみると de- で始まる英単語はほとんど di と発音されているのに、日本語ではデになっているケースはたくさんあります。今さかんに使われているオンデマンドなどという表現も、世が世ならオンディマンドになっていたでしょう。
これには単純に外国語の発音に対する耳の悪さという問題もあると私は思っています。
昔の日本人の発音で同じような例を挙げると、例えばキャンデーがあります。今の子供たちは皆キャンディーと言っていますが、昔の親たちは皆キャンデーとかアイスキャンデーとか言っていたものです。
以上は di がデになる例ですが、それよりも驚くのが di がジになる例の多さです。
人名ではアラジン、アルプスの少女ハイジ、ガンジー、モジリアーニ、エジソンなど、みんな本来の音はディなのです。ちなみにガンジーの信奉していたヒンズー教も今ならヒンドゥー教です(これは di でなく du の例ですが)。
地名ではカンボジア、モルジブ、コートジボワール、サウジアラビア、マジソン・スクエア・ガーデン。
同じ Madison でも後に小説や映画で評判になった時には『マディソン郡の橋』になっていました。マジソン・スクエア・ガーデンのロゴ入りボストンバッグの大流行(古すぎるかw)からこの小説の発刊までの間に、恐らく発音できるようになったのだと思います。
高校の化学の時間に習った、化学式に使われるギリシャ語の数詞モノ、ジ、トリ、テトラ...のジ(ジクロルベンゼンなどのジ)もその例です。同じ語源でジレンマというのもあります。
一般名詞でもジーゼル、クレジット、ジオラマ、アルマジロ、ジステンパーなど、古い時代に入ってきた外来語は全部ジと言って過言ではありません。
日本人は昔から外国語の発音が苦手だった、と取るか、日本人は昔から自分たちが使いやすい形にアレンジするのが得意だった、と取るか、さて、あなたはどう感じますか?