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造語のアート

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  • yamaeigh
  • 2020/01/11 03:35
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世の中には元からあった単語を誰かが作り変えて新しい表現ができてくることはよくあります。多いのは反意語/対義語の類なんですが、そういうのって、よく考えて作らないと難しいですよね。 

例えば「盛り上がる」の逆の意味で「盛り下がる」って言う人がいますけれど、「盛る」は「高く積む」という意味なので「高く積み上げたのに下がっている」という変な表現になっています。 

これ、「上がる」の反対は「下がる」で良いのですが、後ろ半分しか考えていないのがいけないのです。

となると、「盛る」の反意語は何かと考えるわけですが、「掘る」かなあと思って「掘り下がる」などと言うと、すでに「掘り下げる」という別の意味の単語があるだけに、どうもしっくり来ません。 

「早漏」の反意語で「遅漏」などと言う人もいます(下のほうのネタが嫌いな方、ごめんなさいね)。これも同じで「早」←→「遅」の部分は問題ないのですが、「漏」をちゃんと考えて処理する必要があります。

「漏れる」とは単に「出る」ことではなくて、「出てはいけない場所やタイミングや状況で出てしまう」ことです。だからこそ「早漏」という単語は「まだイッてはいけない時にイッてしまう」というニュアンスを表わしているのですが、「もうイカなければならないのに却々イクことができない」のであれば「漏」という字を使うのは間違いだと言わざるを得ません。 

あと「ドタ参」なんてのもあります。これは「ドタキャン」の反意語で、「ドタキャン」ときれいな韻を踏んでいるところは素敵なのですが、そもそも「ドタキャン」は「土壇場でキャンセル」の略です。「土壇場で参加だからドタ参」で良いような気もしますが、「土壇場」の意味を知っていると、どうも気持ちが悪いのです。

「土壇場」は江戸時代の死刑場、つまり罪人が首を刎ねられる場所のことです。そんな語源の薀蓄知るかっ!と言われそうですが、別に語源を知らなくても良いのです。ただ、語源に付随していたニュアンスはそのまま語感となって引き継がれているはずなのです。 

つまり「土壇場」は単に「間際」という意味ではなく、何かしら追い詰められた雰囲気のある言葉なんです。辞書を引いてみても、ちゃんと「切羽詰った場合」とか「進退窮まった場面」などと書いてあります。

「ドタキャン」にはそのニュアンスがあるから許せるのです。でも「ドタ参」は切羽詰まってなくないですか? 

反意語/対義語だけではなく、強調するために、よりセンセーショナルな新しいことばを作ることもよくあります。

例えば、これは前世紀の事例ですが、篠山紀信という有名な写真家の写真を「紀信激写」と称して掲載した雑誌があって、それ以降この表現はすっかり定着してしまいました。「ただ写したんじゃなくて、激しく撮ったんだ」と、まあ、言いたいことは解りますが、当時から「激しく撮ったら手ブレするだろう」とマジに言っていた人がいたのも事実です。 

「爆睡」も同じようなことばです。「爆発したら眠れんでしょう?」と私なんぞは思ってしまうのですが、より刺激的な表現を求めているうちにこんな表現ができたんでしょうね。でも、「熟睡」で良いじゃないですか? 「熟」と「睡」は相性が良いけれど、「爆」と「睡」では相性が悪すぎる気がします。

かつては「大」や「激」や「超」をつけて強調したものですが、今ではそれでは刺激が弱すぎるということなのか、新しい接頭辞としての「爆」が開発されたように見受けられます。「爆誕」なんてのはその例ですね。

ま、表現なんてものは次々に新しいものが出てくるもので、一時はインパクトのあった表現がすぐに効力を失って、さらにインパクトのある表現が考え出されるのは至極当然なんですが、でも、造語って一種のアートだと思うのです。

アートである限りは均整の取れた美しい表現を考え出してほしいな、と私は感じるのですが、みなさんはそんなことありませんか?

え? そんなことないって? どうでも良いって? 

うーむ、まさに日本人の語感は土壇場に来ているような気がしてなりません(笑)

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