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アメリカン・ポップスと英語の勉強

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  • yamaeigh
  • 2020/10/04 02:50

今回はアメリカン・ポップスと英語の話です。いずれも歴史的名曲ですが、何しろ私の少年時代のヒット曲なので、あまりに古すぎて若い人にはさっぱり分からないだろうな、と思いながら書いています。

その昔、関西ローカルで『クイズ Mr.ロンリー』というテレビ番組がありました。

そのタイトルを耳にした当時の上司(と言っても直属の上司ではなく、取締役)が、「ロンリーは形容詞なのだから、ミスター・ロンリー・マンでないとおかしい」と言い張るのを聞いてものすごくびっくりした記憶があります。

確かに中学で習う英語の文法としては誤りかもしれません(一般的な英語としては全然おかしくないですが)。しかし、これは、おかしいとかおかしくないとかではなく、ほとんどの人に耳馴染みのある表現だ、と私は思っていたのでした。

言うまでもなく『クイズ Mr.ロンリー』というタイトルは、ボビー・ヴィントンによる全米ナンバー1ヒット『ミスター・ロンリー』(Mr. Lonely、1964年)から採られています。

1964年なので、私にとってはリアルタイムではなく後から聞き覚えたスタンダード曲です。むしろこの上司こそ知っていてしかるべき年代だと思うのですが、この人はポップスを聴かずに育ったのでしょうか?

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ボビー・ヴィントンは知らなくても、世代的には『ジェットストリーム』(今は6代目のパーソナリティである福山雅治が司会を務める TOKYO FM系列のラジオ番組、1967年開始)のオープニング・テーマとして知っていても不思議ではないはずです。

私は米英のポップスから英語をたくさん学びました。「中学英語として誤り」の例としては、ビートルズ解散後のリンゴ・スターの曲に It Don't Come Easy (1973年)というのがあって、私はなんで It Doesn't じゃないんだ?と首を傾げました。

そういう俗語の例としては中学では全く教えてもらえない ain't という表現があります。これは am, are, is, have などの打ち消しとして万能的に使える表現で、歌詞にはやたらと出てきます。

サンタナの『孤独のリズム』(ひねった邦題です。原題は No One To Depend On、1971年)の冒頭の歌詞は I ain't got nobody, no one to depend on でした。

アメリカ英語でそんな風に、現在完了的なニュアンスをほぼ失って、have や got と同じ意味で使われる have got ('ve got)も、学校では全然教えてくれませんでした。ヒット曲を通じて憶えた表現です。

キャロル・キングの『君の友だち』(You've Got a Friend、1971年)は「あなたは今友だちを得たところだ」(完了)ではなく、「あなたには過去に友だちができて、その結果今でも友だちである」(継続)というような七面倒臭い表現でもなく、単に「あなたには友だちがいる」、つまり、You have a friend と同じなのです。

got to が gotta になるというのも歌で知りました。You've gotta go = You have to go、つまり、have got が一般動詞 have の代わりになるだけに留まらず、must の意味の have to が have got to になるのです。俗語のほうが長いって不思議でした。

長くならないためか、そこから have が抜け落ちて got to (gotta) だけでも have to の意味になります。ローリング・ストーンズの You Gotta Move(1971年)はその例です。

神様が思し召す時期が来たら、我々は天国に行かなきゃならんのです(Oh when the Lord get ready, you gotta move)。

こんな風に私は歌でいろんな表現を憶えました。

高校の英文解釈の授業で(何しろ大昔なものですから、私の記憶がどれだけ正確か自信はありませんが)all the money I have to give みたいな一節が出てきました。

生徒はこれを「私が差し出さなければならない全てのお金」と訳したのですが、先生はそれを誤訳だと言いました。

上の例では言うまでもなく money の後に関係代名詞 that (あるいは which)が省略されているのですが、all the money に掛かる節は I have to give ではなく I have なのです。

have と to はたまたま繋がっているだけで、must の意味ではありません。つまり、「私」は別にお金を「差し出さなければならない」わけではないのです。

to give は目的を表す不定詞で、all the money I have to give は「私が差し出すべく持っている全てのお金」「差し出すために保持している全額」なのです。

もちろん、持っていなければ差し出せないわけですから、ここでの I have にはそれほど大きな意味合いはなく、「あげようと思っているお金」程度の意味なのですが、口調が良いのでこういう表現はよく使われます。

その授業を受けたちょうど同じ頃に流行っていたカーペンターズの『愛は夢の中に』(I Won't Last a Day Without You、1972年)の中に I can take all the madness the world has to give というのを見つけて、私は「ははあ、これか!」と膝を打ちました。

「私は世界が差し出さなければならない全ての狂気を受け取ることができる」ではなくて「私は世界が私に与えようとして持っている全ての狂気を引き受けることができる」 ⇒ 「世界が私にどんなひどい仕打ちをしても私は耐えられる」の意味です。

そんな風にして、私の日々の暮らしの中で、アメリカン・ポップスと英語の授業はあっちからこっち、こっちからあっちへと何度も行き来をしていました。みんなそうだったのではないかなと思います(上記の上司以外はw)。

カーペンターズと言えば、つかこうへいの戯曲のタイトル『郵便屋さんちょっと』が Please Mr. Postman を訳したものであることは有名ですよね。

つかさんの世代なら多分カーペンターズではなくて、その12年前のビートルズか、あるいはさらに2年前のマーヴェレッツのオリジナルを聴いていたのかもしれません。

いずれにしても、我々の時代は、そして、我々より少し上の世代にとっても、アメリカン・ポップスは常に私たちの英語教師でした。

今はどうなんでしょうか?

 

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