日本人が苦手とする英語の発音はたくさんありますよね? 例えば r と l の区別? あるいは曖昧母音? いや、もっと難しいのありますよね?
それは日本人が苦手とする n の発音です。
え? いや、別に苦手じゃないですよ。n でしょ? ナ行でしょ? 舌を上あごにくっつければ良いんでしょ?──って? ほんとにそんなに単純?
英語でも日本語でも、ひとつの文字が必ずひとつの音を表しているわけではありません。音声学の専門家に言わせると、例えば英語の場合、同じ l でもそれが語頭に来るか語末に収まるかで微妙に違っていて、つまり、lucky の l と pencil の l は違う音なのだそうです。
そこまで細かい分析になってくると素人の私の手には負えないですが、日本語の n なら経験的に分かっています。例えば下の4つの例:
1)運動(うんどう)
2)販売(はんばい)
3)歓迎(かんげい)
4)饂飩(うどん)
1)は、まあ普通の「ん」。意識して発音するまでもないかな。t や d や n の直前に n があるときは日本語も英語もあまり変わりません。舌を上あごにくっつける音。
では2)の場合。同じように舌を上あごにくっつけると、この「ん」は大変発音しにくくなります。「はん」で一旦音が切れちゃうんですよね。我々はこういうケース(後ろに b や p が続く場合)では意識せずに hambai と発音しています。
つまり、表記は同じ「ん」でも発音は m なのです。
続いて3)のケース。これも発音してみて下さい。この「ん」の発音は ng です。
いやいや、その g は「げい」の g でしょう?と思うかもしれませんが、「ん」自体が鼻に抜ける「ん(ぐ)」なのです。その証拠に、このケースでも舌は上あごにくっついていないはずです。
k や g の直前の「ん」の発音は ng です。
4)は語末にあるので3)よりは弱いですが、基本的には3)と同じ ng なのです。我々日本人は語末の「ん」では、舌をちゃんと上あごにくっつけて発音しないことが多いようです。私はこれを「野放図な n 」と呼んでいます。
日本語の「ん」は1文字でこんなにバリエーションがあります。だからこそ、日本人は英語の n が苦手なのです。特に語末の n が野放図になってしまって、きれいに発音できない訳です。
英米では n はあくまで n です。つまり、どの位置にあろうとも舌が上あごにくっつくのです(だから b や p の直前に n が来るような綴りの単語は滅多にありません)。舌が上あごにくっつかず鼻に抜ける n もありますが、この場合は必ず後に k か g の音(「音」であって「綴り」ではありません)を伴っています。
アメリカ人が Japan と言う場合、誇張すれば「ジャパンヌ」と発音するつもりで「ヌ」まで言わずにやめる、みたいな言い方をしています。
n が語頭に来る時も同じで、彼らは日本人よりもより確実に舌を上あごにくっつけてから発音しているようです。だから、例えば neck という単語を文の中で特に強調したい時には「ンネック」みたいな(野放図な n とは正反対の)粘っこい n になっています。
こういったことは、丁寧な発音をする歌手、例えばバーバラ・ストライサンドやホイットニー・ヒューストンの歌(いくらなんでも古すぎるかw)を聴くととても参考になるでしょう。でも、一方でミック・ジャガーやレオン・ラッセル(こっちもレジェンドですいませんw)みたいなものすごく聞き取りにくい発音をする歌手でも、よく聴いてみると、どの n もしっかりと粘っこい n なのに驚くぐらいです。
日頃は意識していないかもしれませんが、発音についても、うーんと考えてみると、却々深いもんです。