このシリーズは2003年の1月以来、何回にもわたって私のホームページとブログの両方に書き散らしてきたものです。今回はこれを(これでもw)短めに編集して ALIS に公開し直すことにしました。
先日東京メトロの某駅でトイレの変な表示を目にしました。トイレの方向を示す矢印が書いてあって、公衆トイレに付き物の男性のマークと女性のマーク、そして車椅子のマークが添えてあります。そこまでは良いのですが、その横に「だれでもトイレ」という文字があるのです。
「だれでもトイレ」って何? まるで誰でも入れる訳ではないトイレがあるみたいじゃないですか?
しかも「だれでもトイレ」の下にはその英訳が載っていて、なんとこれが Multi use toilet。Multi だけが大文字なのも変ですし、multi use と2語に別れているのも変です。toilet というそのものズバリの単語を充てたのも如何なものかと…。
でも、一番おかしいのはマルチユース・トイレと訳した発想じゃないでしょうか? マルチユース・トイレって、えーっと、うんことおしっこと、それから何ができるんだっけ?
意地の悪いこと書いてゴメンナサイね。いや、解るんですよ、車椅子のマークがありますから。でも車椅子の人専用じゃなくて、空いていれば健常者の方も利用してもらっていいですよ──だから、「だれでもトイレ」とまあ、そういう発想なんでしょ?
恐らく『ドラえもん』の「どこでもドア」をもじったんでしょう。考えた人は「やった! なかなかナイスなネーミングだ」と思ったのかもしれません。しかし、「本来は車椅子の方用だけれども空いていれば他の人も」という微妙なニュアンスを「だれでも」というあまりに単純な単語で表すのは無理、と言うかひどいと思います。
私なら文字は書きません。男の人のマークと女の人のマーク、それに車椅子のマークが書いてあれば充分です。それだけで、日本人も外国人も意味は解るはずです。
そもそも「だれでも」なんて名前がついていても、車椅子のマークが付いているところには、よっぽど切羽詰っているんでなければ入りにくいですよ。僕が入っている時に車椅子の人が切羽詰まったらどうしよう、なんて心配なります。
入っても良いということをどうしても知らしめたいのであれば「空いている時は一般の方もご利用ください」などと明確に宣言してあげるべきではないでしょうか?
それを実現したのが、右の写真の「みんなのトイレ」です。説明文まで書いてあるのは丁寧で良いのですが、でも、トイレって本来みんなのもんじゃないんですかね? そこに「みんなの」という名前をつけることにはどうも抵抗があります。
そんなことを考えながら新宿駅で下車して紀伊國屋書店に入ったら便意を催しました。所謂「青木まり子現象」ですよね。本屋さんに入るとどうして便意を催すことが多いんでしょうね?
で、とある階のトイレに入ったら、これまた公衆トイレによくある貼り紙「備え付けの紙以外は流さないで下さい」があり、そこに落書きがしてあります。曰く、
「じゃあ、うんこはどうすればいいのかって聞いてんだよ」
実は私も以前から同じようなことを考えてました。「備え付けの紙以外は…」という表現を厳密に解釈すれば確かに途方に暮れてしまっても仕方ありません。
まあ、でも、日本語は省略の文化なのです。省略できるものは何を省略しても良い言語なのです。そして、省略できるものはどんどん省略する傾向にある言語なのです。では、「省略できるもの」とは何か? それは前提となっている事柄です。
トイレの個室に入って、出るものが出たら流すのが前提です。だから、そのことは措いておいて「備え付けの紙以外は」という表現をしているのであって、日本人であればそれで充分意味が伝わるはずなのです。
出すものを出しながら、日本語の特徴に行き着いた、とても有意義な一日でした。
【追記】
何年前かのある日、旭川空港のトイレに入ったら、またも貼り紙。
「トイレットペーパーは便器に捨て、それ以外のゴミは汚物桶(ゴミ箱)へ。使用後は水を流してください」
まあ、なんと丁寧なんでしょう! きっと私みたいな性格の人が文言を考えたんでしょうね。
で、下には英語ではなく中国語訳が載ってます。中国語だけで他の言語はありません。旭川空港って中国人観光客が多いんでしょうか? 旭山動物園見に来るんでしょうかね(かく言う私も旭山動物園からの帰りだったんですが…)。
こういうところに書いてある外国語は結構間違いだらけである可能性があるので、正しい中国語かどうかわかりませんが、とりあえずそのまま再掲すれば、
「手紙請扔入馬桶 其餘汚物請放入拉圾桶 使用後請沖水」
(文字化けしてたらごめんなさい)
「請」は please ですよね。ほんでもって、はあ、「便器」は「馬桶」、「流す」は「沖」ですか。いや、それよりも驚くのは(と言うか、私は以前何かで読んで知ってたんですが)「トイレットペーパー」は「手紙」なんですよ!
え、じゃあ「手紙」のことはどう言うんだ、って?
「手紙」は「便」ですよ。「郵便」の「便」、「お便り」です。
え、「便」は「うんこ」だろ、って?
いやいや本当にトイレ談義は尽きません。