「他人の書いた筋書きに惑わされることなく、内なる神の目でこれから始まる未来を見据えてください。」
(出典: リカルド・マーセナスの言葉, 福井晴敏(著者), (2007年)『機動戦士ガンダムUC 1 ユニコーンの日(上)』(小説), 角川コミックス・エース, 角川書店(角川グループパブリッシング), 36~37ページ.)
ぼくは今、「酒天童子」(酒呑童子)という言葉(名称)の由来についての仮説のひとつとして、つぎのような仮説を立てて、それについてかんがえています。
「酒天童子」(酒呑童子)という言葉(名称)は、円珍の護法童子である水天童子に由来する。
中世の時代の比叡山延暦寺において、円珍派(寺門派)と、円仁派(山門派)とのあいだで、派閥争いの対立が激化していた時期があった。
その時期に、円仁派(山門派)に属していた学僧(記家)が、円珍派(寺門派)をおとしめるために、円珍派の宗祖である円珍の護法童子である水天童子を悪鬼に仕立て上げた。
そのようにして、円仁派(山門派)の学僧(記家)が、「酒天童子」という悪鬼(説話の登場人物)をつくりだして、その悪鬼が退治されるという筋書きの説話(物語)をつくった。
もし、上記の仮説が正しかったとすれば、「酒天童子」という悪鬼の説話(物語)は、「円仁派(山門派)が、円珍派(寺門派)のことを、(遠まわしに)ののしるためにつくられた説話(物語)である」という側面もあるといえるかもしれません。
ちなみに、現存最古の酒呑童子説話をいまにつたえている絵巻物である、香取本『大江山絵詞』に描かれている酒天童子の説話の成立には、比叡山延暦寺の学僧(記家)がふかくかかわっているとされています。
(ちなみに、現在は、香取本『大江山絵詞』の絵巻物は、逸翁美術館に所蔵されています。)
もし、そうだとすると、現存最古の酒呑童子説話である、香取本『大江山絵詞』に描かれている酒天童子の説話(物語)もまた、「円仁派(山門派)が、円珍派(寺門派)のことを、(遠まわしに)ののしるためにつくられた説話(物語)である」という側面もあるといえるかもしれません。
■補足情報
以下は、上記の仮説についての補足情報です。
■補足情報1: 「水天童子」について
「水天童子」というのは、比叡山延暦寺にある弁慶水の起源についての伝承のなかに登場する護法童子です。伝承では、智証大師円珍が熊野を参詣したときに、熊野権現が円珍にたいして、水天童子という名前の護法童子(従者)をあたえた、とされています。そのあと、円珍につきしたがって比叡山に来た水天童子は、住房のちかくに井戸がないために、用水の不便さに悩んでいた円珍のために、円珍の住房のちかくで井戸を掘りあてた、とされています。そのときに、水天童子が掘りあてた井戸が、いまの弁慶水だとされています。
(参考文献: 硲慈弘 (1928年) 「二、円珍阿闍梨と水天童子」, 「弁慶水」, 『伝説の比叡山』, 近江屋書店, 42~45ページ, (国立国会図書館デジタルコレクション: https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1175796/29 , https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1175796/30 , (著作権保護期間満了 (パブリックドメイン) ) ) .)
■補足情報2: 「弁慶水」について
「弁慶水」というのは、比叡山延暦寺にある閼伽井(仏に供える閼伽の水をくむ井戸)のことです。弁慶水がある場所は、比叡山延暦寺の東塔地区のなかの西谷地区のなかです。弁慶水がある場所は、円珍の住房であった、山王院(さんのういん)のすぐちかくです。ちなみに、山王院は、千手堂や、後唐院(のちのとういん)という名称で呼ばれることもあります。
弁慶水には、「弁慶水」という通称以外にも、「独鈷水」や、「千手水」、「千寿水」など、いろいろな通称があります。これは、弁慶水の起源説話がいくつかあり、その起源説話によって、この閼伽井の名称が異なるからだそうです。「弁慶水」という通称は、この閼伽井と弁慶にまつわる伝承があることから名づけられた名称です。
(参考文献: 武覚超 (2008年) 「(8) 山王院(千手堂)」, 「1 東塔地区の諸堂」, 「四 比叡山の諸堂」, 『比叡山諸堂史の研究』, 法蔵院, 216~217ページ.)
■参考: 「酒天童子と護法童子の類似性」
この下の引用文は、天野文雄さんの「「酒天童子」考」という論文で語られている、「酒天童子と護法(護法童子)の類似性」についての話の一説です。
なにかのご参考までに。
「酒天童子なる存在も、当然、護法という視点から見直される必要があろう。すると、酒天童子こそ護法の属性をことごとく備えた存在であることに気づくのである。」
(出典:天野文雄 (1979年) 「二、酒天童子と護法童子と」, 「「酒天童子」考」, 『能 : 研究と評論』, 8, 22ページ 1段目.)
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■画像の出典
・水天の絵図: 『阿娑縛抄』(『大日本仏教全書 第40巻 阿娑縛抄 第6』所収) より, (注記: この絵図は、「水天童子」の絵図ではなく、「水天」の絵図です。「水天童子」と「水天」は、べつのものです。), (参考: 国立国会図書館デジタルコレクション, https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/952720/136 , (著作権保護期間満了 (パブリックドメイン) ) ).
・比叡山延暦寺の弁慶水の写真: 2019年5月30日に、筆者が撮影した写真です.
・「弁慶水」の「円珍阿闍梨と水天童子」の伝承の記述: 硲慈弘『伝説の比叡山』より, 国立国会図書館デジタルコレクション, https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1175796/29 , https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1175796/30 , (著作権保護期間満了 (パブリックドメイン) ).
・性空上人の護法童子である、乙天(青鬼。不動明王の化身)と、若天(赤鬼。毘沙門天の化身)の、二人の「鬼」を祀る、乙天社と若天社の写真 (書写山円教寺の奥之院): "Engyoji wakatensha ototensha2048s" by 663highland on Wikimedia Commons ( https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Engyoji_wakatensha_ototensha2048s.jpg ) is licensed under CC BY 2.5 ( https://creativecommons.org/licenses/by/2.5/deed.ja ) .
・「能:研究と評論 (8) 書誌詳細 国立国会図書館オンライン」( https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000003-I2235664-00 )のウェブページのキャプチャ画像, 2020年1月15日閲覧・撮影.
「これ好奇のかけらなり、となむ語り伝へたるとや。」
ちなみに、こちらのブログでは、酒呑童子の説話について、いろいろお話しています。
http://wisdommingle.com/