※この記事は『ニート・引きこもりで悩む親御さんへ』の第六章の内容の一部を抜粋し、編集したものです
前編はこちらです。
前編では、スイスの国土が「農業に不向き」でかつ「陸続き」だったことで、それによって嗜好品の産業や金融業での現在の隆盛に繋がっていることを書きました。
この「陸続き」というのは「労働者が容易に国外に出稼ぎに行くことができる」という状況です。そのためにかつてはスイスを出て各国の傭兵になるスイス人がたくさんいたわけです。
それに対して我が国日本はどうなのかというと、四方が海に囲まれた島国です。
また、それ故に言語についても公用語は日本語のみとなっています(スイスはドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語の四種。そのために複数の言語を自在に操れる人が非常に多いとのこと)。
というわけで、ここまでの話で見えてきたものがありますよね。
先ほどのスイスの話とは逆で、日本から労働者が国外に出て行くのは非常に難しいのです。四方が海で、その上日本以外の国は日本語じゃありませんから。
労働者は日本から出て行けません。となりますと、日本のお客さんは他国よりもちょっと強い立場です。お客さんは「もっと負けてよ。負けてくれないと買わないよ?」とより強く言えるのです。もちろん日本人自身が意識してやっていたわけではないですけども。
また、このことは「お客様が神様」的な日本独特のおもてなし文化にも繋がっていると思います。日本以外の国では「取引が成立した時点で両者は対等」ですから(だから取引成立時に握手するんですね)。
これをスイスの場合で考えてみます。スイスから出てドイツに行商に行き、お客さんに不評だったらフランスに移動して売ることもできます。日本のように市場が日本国内しかないから日本人相手にがんばって売るしかないという状況ではありません。つまり「ドイツ人の好みに合わないんだから仕方がない、フランスに移動して売ってみるか。だから無理して買ってもらわなくても良いよ?」という話になります。
それともう一つ、政府の立場を考えてみましょう。
スイス政府の場合、何とかしてスイス国内に雇用を創出して、スイス国民の流出を避けたいと考えます。となりますと働くために必要なお仕事と、そのお仕事をするために必要なスキルや待遇などを国民にもたらす必要があるわけです。中でも待遇がイマイチだったらあっさり出て行かれてしまいますから、できるだけ厚遇しなければなりません。そんな厚遇が継続的にできるお仕事を創出するのは難しかったのではと思います。
(前編で「さらに先ほどの腕時計の話で言えば、スイスでは年収一億を超える時計職人さんがごろごろしているそうです」と書きましたが、こういう時計職人の職業訓練校もその一つと言えるでしょう。日本だとすごい技を持つ時計職人さんでも、そんなに貰っている人はなかなかおられないでしょうね)
ここまでの話で考えてみると、今の日本の教育では私が学生の頃よりも英語に力を入れているそうですが、このことは非常に理にかなっていると思います。スイス人のように多言語を操れるとさらに選択の幅も広がりますし。日本ではあまり待遇の良くないお仕事でも、外国に行くと非常に待遇が上がるという場合もあります。
(例えば理容師さんや美容師さん。日本人の太くて硬い髪質を自由自在に操る腕があるので、お客さんが欧米人だと余裕らしいです。それどころかアメリカならシャンプーだけでものすごいお金が取れるらしいです。アメリカ人には雑な人が多いとのことで)