行きつけの床屋に行こうと思った。
髪をおもいきって赤色に染めてみようと思ったのだ。
携帯も持たずに出かけた。
逆方向の電車に乗ってしまった。
しかし、窓の景色を見るとちゃんと行きたい方向へ進んでいる。
「え?おかしくない?」
ざわざわと皆が騒いでいる。
駅についた。
「僕は大丈夫だ」
「ここにいるぞ」
なぜか叫んだ。
疲れたのでタクシーで床屋に行こうと思った。
「どうされましたか」
「休んでいかれませんか」
2人の女性。
買っていない地下鉄の切符がポケットに入っていた。
地下鉄で寺まで行った。
お経を唱えた。
「僕、家に帰りたいです。」
連れてこられた家。
ここは僕の家じゃない。
そう直感した。
持っていたバックを投げ捨て、逃げた。
走り出した。足が。止まらない。
どこかで聞いた曲だ。
走って、走って、走った。
透明人間になったかと思った。
手を見る。ある。
左腕を見る。ある。
右腕を見る。ある。
左足を見る。ある。
右足を見る。・・・ある。
しかし、自分が目をはなした瞬間、それらは見えなくなってしまう。
そんな感覚。
体が無くなってしまわぬように頻繁に確認する。
お腹がすいた。
コンビニでおにぎりを買う。
脇道でむさぼり食べる。
通りかかった床屋に入った。
「すごく短くしてください。」
誰か分からないくらい。
「わかりました。」
「普通に生きたいです。」
「どうされたんですか。」
「Twitterに変なことを書いてしまいました。」
「どんなこと書いちゃったんですか。」
「・・・」
「後で謝ればいいんですよ。」
テレビに映っていた芸能人のリアクションが全て嘘みたいに見えた。
「全部嘘みたいですね。」
「まあ、表に立っている人たちは、裏にいる人がやって欲しいことをしているだけだからね。」
「どっちで生きていくかだね。」
「ありがとうございました。」
「雨降ってますよ。傘使ってください。」
「近くの駅はどちらですか。」
「あちらです。しかし、あなた、いったいどこから来たんですか。」
駅についた。
全てが嘘みたいに見える。
だめだ。家に帰って早く寝よう。
地下鉄の使い方がわからなくなってしまった。
「すみません。体調が悪いのですが。休ませてください。」
駅のホームで休んだ。
「・・・、120cm、丸顔の・・・」
僕はそんなに小さくないぞ。
「ピンポーン。」
「何?この音?」
ざわざわ。
「体調大丈夫ですか。」
「ダメです。」
呼吸が早い。
「目瞑っててねー。」
呼吸が荒い。
死ぬかもしれない。
「死ぬかもしれないなんて思わないでね。」
「内科にする?精神科にする?」
「内科!」
「・・・でも人多いよ」
「じゃあ精神科!」
精神科病棟へ運ばれた。
目を瞑ったら死んでしまうと思った。
目を半開きのまま、体を硬直させてただ時を待った。
手は親指と親指をくっつけ、指を組んで輪の形にした。
看護師さんらしき人が来た。
僕は顔を見ないように左上を見ていた。
「みんないっしょだ。」
意識が途切れた。