摂取する食べ物を減らして減量しようと考えている人にとって、運動の強度を高めることは効果的かもしれません。
バージニア大学による最近の研究によると、激しい運動は適度な運動よりも食欲を抑える効果が高いことが示されています。
どうやら運動の強度を高めることは、食欲に関するホルモン「グレリン」と深い関連があるようです。
参考記事)
・Vigorous Workouts May Be The Key to Suppressing Appetite, Study Says(2024/11/06)
参考研究)
・The Impact of Exercise Intensity and Sex on Endogenous Ghrelin Levels and Appetite in Healthy Humans(2024/10/24)
この実験には14人の健康な成人が参加し、被験者たちはまず夜間の断食を行った後、異なる強度の運動を実施しました。
その後、各自が運動後に感じる空腹感について自己報告を行いました。
さらに、運動による体内のホルモン変化を測定するため、血液サンプルが採取されました。
この血液サンプルから、食欲の調整に重要な役割を果たすホルモン「グレリン」の濃度が測定されました。
グレリンは「空腹ホルモン」とも呼ばれ、体内の濃度が高ければ高いほど、空腹感が強まるとされています。
測定の結果、激しい運動はグレリンレベルを低下させ、結果的に空腹感を減少させることが判明しました。
(※アシル化グレリン=空腹時に胃から分泌され、脳内のグレリン受容体『GHS-R1a』に結合して摂食を亢進させるホルモン)
・CON=運動なし
・MOD=中程度の強度の運動(ランニングなど軽い息切れを伴う運動)
・HIGH=高強度の運動(全力疾走など激しい息切れと心拍の増加が伴う運動)
バージニア大学の内分泌学者であるカラ・アンダーソン博士は、「高強度の運動は中強度の運動よりもグレリンのレベルを大きく抑えることがわった。また、被験者は高強度の運動後には中強度の運動後よりも空腹感が少ないと感じた。」と述べています。
この発見は、減量プログラムを検討する際、食欲抑制の観点からも運動強度の調整が重要であることを示唆しています。
興味深いことに、この研究では特に女性の被験者で血中グレリンレベルの低下が顕著であることが明らかになりました。
自己報告による空腹感の低下は、男性と女性のどちらのグループでも高強度運動後に確認されましたが、ホルモンの変化に関しては女性の方がより強く現れたのです。
この違いがなぜ生じるのかはまだ完全には解明されていませんが、性別によるホルモンの反応の違いが影響している可能性があります。
グレリンには、食欲と関連するアシル化型(AG)と脱アシル化型(DAG)の2つの形態があります。
これは、食欲だけでなく睡眠、記憶、エネルギーバランスといった他の機能にも関わっていることがわかっています。
研究チームは、このホルモンが減少し始める「特定の閾値」が存在し、それは体が乳酸を多く生成する状態に到達したときに起こる可能性があるとしています。
乳酸は筋肉が激しく働く際に生成される代謝産物であり、筋肉がエネルギーを消費する際の副産物です。
この乳酸が増加すると、身体がさらにエネルギーを消費している状態を示していると考えられます。
「運動強度を血中乳酸の増加で測定しているため、乳酸の閾値を超える強度の運動がグレリンの抑制に必要である可能性がある」と研究者たちは述べています。
この発見により、減量目的で食欲をコントロールしたい場合は、一定の強度以上の運動が必要であることが示唆されています。
運動と食欲の関係は実際には非常に複雑です。
運動の種類や持続時間、個人の体質など、様々な要因によって運動が空腹感を増加させる場合と抑制する場合の両方があります。
今回の研究の目的の一つは、こうした複雑な関係についての理解を深めることでした。
小規模なサンプルでの調査ではありますが、性別によるグレリンホルモンの違いに焦点を当てた点は、今後の研究において重要なヒントを与えるものです。
体重を減らすためには、運動だけでなく食事や生活習慣、遺伝的要素など多くの要因が影響します。
したがって、減量プログラムを設計する際は、個人に最も効果的な方法を見つけることが重要です。
アンダーソン博士は、「運動は薬のような作用さえ持つため、個人の目標に合わせてその『投薬量』を調整するべきである。我々の研究は、食欲抑制には高強度の運動が重要かもしれないことを示している。これは減量プログラムの一環として利用可能である」と述べています。
今回の発見により、個々の目標に応じた運動の処方が、より効果的な体重管理に役立つ可能性があると期待されています。
この研究は運動とグレリン、その他のホルモンの関係など、今後の研究の基礎となる重要な知見を提供しています。
しかし、今回は参加者が14人という少人数であったため、今後はより大規模な調査を行うことが望まれます。
また、参加者の年齢や体型、生活スタイルが異なる場合に、運動と食欲の関係がどう変化するのかをさらに調査する必要があります。
・高強度の運動は中強度の運動よりも食欲抑制効果が高い
・特に女性でグレリンレベルの低下が顕著であり、空腹感も低減する
・高強度運動が食欲抑制に有効で、減量プログラムに役立つ可能性がある