歌手の宇多田ヒカルさんが、自身のインスタライブで視聴者からの質問に答えていた時のこと。海外ファンから、「なぜ大切な方との関係が終わった時に、心が痛むのか?」という、答えに窮するような質問がありました。宇多田さんはしばらく考えた後に、その質問に対して、このように答えるのです。
「その痛みは、もともと持っていたものじゃないのかな。それで、その人との関係は<痛み止め>みたいなもので、その間痛みを忘れていたというか。だから、関係が終わった時に痛みを思い出したのだと思う。」
(宇多田さんは英語で回答されていたので、内容を意訳しております。)
ヒット曲を連発する宇多田さん、その感性に改めて脱帽しています。
宇多田さんがご存じなのかどうかわかりませんが、この考え方は易経にある「陰陽」の考え方に通じるところがあります。万物は、常に陰陽、2つの正反対の側面を持つというものです。
この陰陽マーク、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
黒は陰、白は陽を現し、一つの円に勾玉のような形で陰陽が描かれています。また、陰陽ともに同じ面積であり、一つのものには、1:1の比率で陰と陽がセットになっているという、易経が最も重視する考えを端的に示した図です。
宇多田さんの例をとると、痛みは陰、大切な方との関係を陽としたときに、陽にいる間、もともとの痛み(陰)を忘れていただけ、という見方ができます。
このマーク、正式には「太陰太極図」と呼ばれています。
大いなる陰が大きく極まった時の図、と解釈できますね。
宇宙や海底、母親の胎内。生命が始まった場所はすべて光の届かない闇。「陰陽」であって「陽陰」ではないことからも、闇の上に光が存在していることがわかります。闇が極まった時、光が誕生する。この「陽転」とよばれる瞬間を切り取ったのが、太極図なのかもしれません。
光ばかり注目される世の中。
多くの人が、物事の良い面ばかりを追いかけていきます。
でも、「光があるから闇」ではなく、闇の中にいるから光に気づける、ということが本質なのかもしれません。そう、初めからある痛みのおかげで、大切な方と過ごす時間がいかに幸せなのかを実感できるように。
そう考えると、つらい時こそ本当に大切なものに出会えるのかもしれませんね。