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“エアロゾル感染”は空気感染か?飛沫感染か?

水蛍(Mizuhikei)'s icon'
  • 水蛍(Mizuhikei)
  • 2020/02/09 13:45

 この議論が生じた原因は、Yahoo!ニュースを始めとした媒体で以下のようなネット記事があったためと思われます。

新型コロナウイルによる肺炎が飛沫や接触だけでなくエアロゾル(空気中に浮遊する微粒子)形態でも感染するという主張が中国から出た。

中国「新型肺炎、飛沫・接触のほかエアロゾル通じた感染可能」(Yahoo!ニュースより引用)

 私はTwitterのトレンドでこの議論を知りました。パッと見た感じで、“エアロゾル感染”を「空気感染のことで危険!」という内容を主張した人が、「いやいや飛沫感染だし」、と突っ込みを受けている印象でした。

 

結論 

 というわけで、私が調べた結論を記述。

・“エアロゾル感染”は、空気感染に分類するのが適切。ただし、最近の研究によって重要性が論じられている感染経路であり、インフルエンザウィルスでも起こりうると考えられている。

・いわゆる結核による空気感染と同レベルの感染範囲を想像するのは(少なくとも現時点では)間違い。

・空気感染の新しい分類では日和見的経路として、インフルエンザウィルスやノロウィルス、さらにはコロナウィルス(新型ではなくSARSの原因となった方)が入っている。

→つまり、インフルエンザウィルスや既知のコロナウィルスでも空気感染(日和見的経路)はありうるものだと考えられていた。

・換気が不十分で密閉された状態に近い空間や、エアロゾル発生手技(気道吸引、気管内挿管など)といった特定の条件がないと、空気感染の日和見的経路が発生することはほぼなさそう。他の経路(飛沫感染や接触感染)の方が感染経路としては頻度が高そう。ただし、空気感染の影響力も大きいとか逆に空気感染なんてデマだとか、どちらの方向性でも断言するほどの感染経路特定は困難みたい。なので曖昧な表現にならざるを得ない。結局、現時点でも専門家によって見解に相違がありそうな予感。

・“エアロゾル感染”をエアロゾル発生手技によって起こりうる感染と読み直している方(医療関係者)も多そう。中国の担当者が確定的な主要経路として何を論じたかったのかが分からないと微妙なものの、そもそもエアロゾル発生手技による感染は日和見的空気感染に分類される傾向が強そう。(でも、“エアロゾル感染”っていう言葉をエアロゾル発生手技との関連では見ない気もします。というか、そもそも“エアロゾル感染”って言葉自体の記述がほとんどなくて、日本では定義のかなり曖昧な一般性のない言葉だったのではないかと…… →後述の「追加調査」を参照)

 →参照:医療におけるエピデミックおよびパンデミック傾向にある急性呼吸器感染症の予防と制御(PDFデータ)の50(70/150)ページ

 

 論拠は以下の2点。

1つ目は、内科医の方らしきツイート及びリンク先の記述。

2つ目は、フィットテストインストラクター養成講座テキスト『感染症対策としての呼吸用防護具』(PDFデータ

 ※『RoyとMiltonによる空気感染の新分類』という表が分かりやすいです。

また、エアロゾルについての記述も見つけました。

エアロゾル(気体中に浮遊する微小な液体または、個体の粒子)

 うん、分からない、、、、というわけで追加調査(2/11追記)です。

 

追加調査

そもそも“エアロゾル感染”って用語はなんなの?

 →“エアロゾル感染”は明確な定義のない言葉。おそらく翻訳の過程で生じた日本語的には新しい用語。想像するに、中国語→英語→日本語という英語を間に入れた翻訳によって生じたものだと思われる。なぜなら、英語にはaerosol transmissionという言葉があり、transmissionのみを訳すとaerosol感染となる。

  “エアロゾル感染”の元と思われるaerosol transmissionの概念を説明した英語論文にあたると下記の通り。

The concept and definition of aerosols is also discussed, as is the concept of large droplet transmission, and airborne transmission which is meant by most authors to be synonymous with aerosol transmission, although some use the term to mean either large droplet or aerosol transmission.

Recognition of aerosol transmission of infectious agents: a commentaryより引用

 『多くの著者はaerosol transmissionを空気感染(airborne transmission)の類義語とし、中には飛沫感染(large droplet transmission)あるいは空気感染を意味する用語とする人もいる。』と読むことができます。

 ほぼ空気感染だけど、一部には飛沫感染を意味するのに使っちゃう人もいるよ。って感じな気がします。

 元の中国語に当たらないとダメなのかも?と思う次第ですが、、中国語は読めないので流石にやめておきます。。

 

補足

ちなみに『エアロゾル感染』をキーワードにググると、『ノロとエアロゾル感染』っていうのが一番上に検索結果として表示されます。

 これは塵埃感染(じんあいかんせん)と呼ばれるもののような気がします。どうやらこれも結核などとは異なりますが、空気感染の1種と分類しうるようです。

嘔吐物などを不適切に処理、もしくは放置することにより、ウイルスを含んだ小粒子が環境(この事例の場合は床のカーペット)中に大量に残存した状態になる。そのような状態にある、床などの環境表面を媒介物(fomite)として、そこから塵埃(dust)が舞い上がり、それを吸い込んだ人が感染したと推定される。「感染症予防必携」(日本公衆衛生協会、2005年)では、空気感染(airborne infection)を飛沫核感染(droplet nuclei infection)と塵埃感染(dust infection)に分けている。CDCの隔離予防策ガイドラインには飛沫核感染および塵埃感染という用語はないが、空気感染の説明文を読むと飛沫核による感染と塵埃による感染の2種類を指し示していると解釈でき、同一の概念と考えて差し支えない。

http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/0702keiro.htmlより

注意事項

“エアロゾル感染”という用語は日本において画一的な定義がなく、少なくとも日本語としては医学における一般的な用語ではなさそうです。このことは、日本の医療関係者等でも用語の意味するところについて意見が分かれている理由とも推測できます。

そのため、ここまでに示した結果は現時点で私が正しいと思える事柄であり、絶対的な正しさを約束できません。また、今後の動向(新事実の判明・用語の再定義など)による影響を強く受けますので、恒久的な正しさも約束しかねます。

 

蛇足

 結局どうなの?っていうところで私が悩んだ形跡は、

私の一連ツイートを読んで頂ければ、分かるので割愛します。

※当初は、飛沫感染(ひまつかんせん)を飛沫(しぶき)とあえて読ませようとしたり、空気感染と“エアロゾル感染”を分けて論じようとしたりしてます。

※結局のところ、中国の発信者に確認しなければ確かなことは言えませんが、“エアロゾル感染”はほぼ空気感染の類義語(おそらく感染メカニズムの観点で生まれた新しめの用語、特に日和見的経路で重視される傾向)とするのが現時点では適当です。ただし、空気感染も細かく分類しうることを頭に入れておかないと、不必要な警戒を招きやすいので要注意です。

 なんらかの形で調べた結果を書き残したかったのでALISでまとめてみました。

 自己満足ですw

 

 

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