金融庁が本年3月に設置した「仮想通貨交換業等に関する研究会」。毎回会場が超満員になるほどの注目のされようだったと聞き及んでいます。
4月の第1回から11月の第10回まで議論を重ね、12月14日の第11回にて報告書案が提示されました。
これを見ると、「仮想通貨交換業者を巡る課題への対応」、「仮想通貨の不公正な現物取引への対応」など現実的な課題への対応が中心となった報告書のようです。そちらについては、実務の現場にいらっしゃる方からのご意見を参考にさせていただきたいと思います。
私が注目したのは「7.『仮想通貨』から『暗号資産』への呼称変更」です。
これまでは"virtual currency"の訳語として「仮想通貨」の呼称を用いてきましたが、
・国際的な議論の場では"crypto-asset"との表現が用いられつつある
・「通貨」という呼称を用いることで、顧客に法定通貨であるとの誤解を与える懸念がある
などの理由から、法令上、「仮想通貨」ではなく「暗号資産」とすることを提案するものです。
分解してみると、①「仮想」→「暗号」への変更と、②「通貨」→「資産」への変更が含まれた提案ということになります。
①については、より実態を的確に描写する変更、ということになるでしょうか。よくよく考えてみれば「仮想」というのは不思議な呼称でした。「実体がない」という意味なのであれば、今どき、電子マネーやそれこそ「PayPay」など金属や紙の通貨を使わない決済はあちこちで行われていますから、それらも「仮想」通貨ということになってしまいます。
それよりもおそらく、「暗号化されている」ということの方が、この新しい技術の特徴なのでしょう。その意味で、明確にそれを指し示す呼称が提案されたことは、この技術にとって良いことだと言えそうです。
※ただ、もしかしたらより重要なのは「分散型台帳技術」なのでしょうか。それならば、それを呼称に取り入れるべき、という意見もあるかもしれません。
一方で②については、(一次的には「実態の描写」という意味があるにしても)規制当局の意向を反映させるための変更でしょう。
まだまだ未成熟な部分のあるこの市場において、「顧客保護」を目的とした資金決済法は少なからず意義があると個人的には思っています。一時のブームは沈静化したとは言え、依然として"crypto-asset"に熱視線を注ぐ人もいることでしょう。そのような人たちを不測の事態から守るためには、あらぬ誤解は初めに解消しておく必要があります。
「法定通貨である」と誤解する人がどれだけいるかは分かりませんが、呼称の段階から「通貨ではない」ということを明示することは、一定の効果があるでしょう。
いずれにせよ、「物に名前を付ける」ということは、思った以上に大きな力を持ちます。今回について言うならば、"crypto-asset"について「暗号化されたものである」「通貨ではない」ということを明らかにする案が示されています。「仮想通貨」と呼んでいた間は「仮想のものである」「通貨である」ことが指し示されていたわけですから、その名前によって、両者が指し示すものは私の中では確かに変わっています。
「たかが名前、されど名前」なのです。技術的な面にはまったく明るくない私ですが、「言葉」に関心がある人間として、今回の報告書案を読んでそんなことを考えたのでした。