わしの家にはルンバが居る。
クソうるせぇけどこいつには助けて貰ってる。スイッチを押せば、勝手に床を掃除してくれるのだ。クソうるせぇし、クソ効率が悪いけど、それでも頑張って床を掃除してくれる。
忙しない日々に翻弄される我々現代社会人にとって、家事を担い、貴重な時間を捻出してくれるルンバはかけがえのないパートナーだろう。彼らがいるから、我々は飛びゆく日常にも心を殺されず、ギリギリのところで人間で居続けることがなんとかできている。
出かける前にポチっ♪
洗い物をする時にポチっ♪
ボタンを押せばあら不思議、家に帰ってくる頃には、洗い物が終わる頃には、床がすっかりキレイに…
なってない。
たいていその辺の段差に乗り上げて動けなくなってるか、その辺のコードに絡まって動けなくなってる。
そう、ポンコツである。
だいたい力尽きている場所はいつも同じで、それを見つけては、あぁ、今回もここで果ててしまったのか…と可哀想に思えたりもする。
掃除中は、馬鹿みたいにガコガコ壁や机にぶつかっては軌道を修正して、手探りで床を動いていく。ただでさえ煩いのに、ガコガコぶつかりながら進むせいで余計うるさい。生き物だったらあんなに頭打ち付けてたら確実にイカれて頭パッパラパーになってる。っていうか、生き物じゃないからこそルンバはあんなにパッパラパーな動きをするのか。
でもアホだけど一生懸命なその様子に少し可愛げを覚えたりもする。
しかし、とにかくポンコツなのだ。
任務成功率はおそらく20%程度。
そのほとんどがどこかで障害にぶつかり力尽き、未遂に終わる。
トイレやクローゼットに入ったかと思えば自分でドアを閉めて閉じ込められたり、狭い台所の中を延々とピンポン玉のように往復してバッテリーが切れたり…
スイッチを押して、無事にホームまで帰還できることの方が少ない。
ちょっと上手に帰還できたかと思えば、その時は部屋の3分の1程度を雑に掃除しただけだったりする。おい、お前、なんにも終わってないぞ、何やりきった顔して電気啜っとんじゃお前は。
とにかく、ポンコツなのである。
ポンコツではあるが可愛げもある。
これは、そんなルンバとわしの物語。
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わしは、今日もルンバのスイッチを入れて洗い物に取りかかる。
今日も予定がいっぱいだ、早々に家事を切り上げねば…
ルンバは張り切ったように騒音を撒き散らしながら、部屋の壁に突進を繰り返し出した。
とりあえず洗い物が終わったら洗濯物を干して…
起動早々に机の下に潜り込んだように見えたルンバはもう5分以上そこから出てこない、無駄にうるさい騒音と、机の足に身体を打ち付けるガコッ!ガコッ!という耳障りな音が響くばかりである…まだ部屋の面積の10分の1も掃除できていない。
まったく、相変わらず要領が悪いなあのルンバは…もっと高機能なセンサーとかAIが搭載されてるものだと思ってたぞ、それはそうと洗濯物の前にゴミを捨てに行かないと収集車が来る時間に間に合いそうにないな、たしかペットボトルも今日だったか?
それが終わったら布団を干して…
ウィィィイイイイインンン!!
いつの間にかルンバが足元に来ていた。
リビングをカウンターで隔てて畳2畳分程の奥行で壁に突き当たるこの空間、わざわざこの小さなスペースを目掛けて、アホなAIの癖にこの細い入口を突破して台所に入ってくる間の悪さに多少苛立ちを覚える。うるせぇなぁ…。
ええと、なんだっけ、布団を干したら、洗車をして郵便局にも行かないと…
ガコッ!
ルンバが足にぶつかってくる。
おっと、わかったわかった。今どいてやるから、ここが終わったら早く次に行けよ。
片足ずつ上げてルンバに道を譲る。洗い物がしづらい…
夕飯の買い出しにも行かないとな…
ガコッ!
ルンバがまた足にぶつかってくる。
痛ぇな…終わったんなら早く次に行ってくれよ。
それから、溜まってるメールも返信して、借りてる漫画や本も消化しないと…
ガコッ!
さっきからガジャガジャガシャガジャ足にぶつかって来やがって!いつまでここに居るんだ?
わずか畳2畳分のスペースからなぜ抜け出せない?出口までたどり着いたのになんでまたわざわざ戻ってくる?磁石でもついてんのか?
極厚騒音フリスビーみてぇなお前とじゃれ合う為に、わざわざ電気を食わせてやってんじゃねぇんだよ!仕事をしろ!俺の足にまとわりつくんじゃねえ!犬っころか?じゃれ合いたかったらAIBO買うわ!それにお前!昨日もまたいつものトイレのドアの段差で動けなくなってたよな!?
「テーレーテレーレー♪エラー1 ルンバを別の場所に移動し、クリーンボタンを押してください♪」
じゃねーんだよ!!!
あの効果音ムカつくんだよ!無機質ボイスで指図すんじゃねぇ!!
せめて「たすけてください!たすけてください!うごけません!!」ぐらい言えやポンコツが!!偉そうに別の場所に移動してくださいとか命令すんな!
そんなルンバへの怒りがわしの頭の中を巡る間もルンバは何度もわしの足にぶつかってくる。
ガコッ!
ガコッ!
ガコッ!
つい、大声でそう叫んでしまった。
ガシッとルンバを持ち上げ部屋の外に締め出してスイッチを入れる。
そう吐き捨ててわしはリビングのドアを閉めた。
ウィィィイイイイインンン!!ガコッ!ガコッ!
ルンバが家の中のどこかを掃除しに行った。
ガコッガコッっとリビングのドアにぶつかってくる。
はやく他へ行ってくれ、まぁどうせ今日もトイレの入口あたりで動けなくなって終わりだろう…
ウィィィイイイイインンン……!!
遠ざかるルンバの音を耳に、わしはルンバの情けない死に様を想像しながら洗い物を終えた。
その日以来、ルンバの姿を見ることはなくなった…。
部屋中のどこを探しても、ルンバの姿を見つけることは出来ない。
おーい、出てきたら新しいブラシに交換してやるぞ〜!
なんならフィルターも替えちゃうぞ〜??
大きな声で部屋中に呼びかけてみるも、なんの反応もない。
もしかして、家出か…?
まさかな…まぁ、たとえ家出だとしても、どうせ腹が減ったら帰ってくるだろう…
しかし、それから3日が過ぎても、あいつは帰ってこなかった。ルンバのホームは相変わらず空っぽで、表面には埃が積もっていた。
ルンバのあのうるさい稼働音が聞こえないのが、なんとなく寂しく感じる。
どうやらルンバは本当に、家出してしまったらしい。
あの馬鹿…
家出したルンバを想像した時、どうしようも無い不安な気持ちが押し寄せてきた。
側溝にハマって行き倒れていないか、車に轢き潰されていないか、学校帰りの小学生達に虐められてないか、ルンバ好きの変態に誘拐されていないか…わしの居ない場所で独りぼっちで泣いているのではないか…
考え出したら居ても立ってもいられなくなってしまった。
わしはすぐに警察に電話した。行方不明の届出である。市内に広報を流してもらおうとしたが、それはすぐに断られた。
「人間でなければだめです。」
と、一蹴された。
ふざけるな、ルンバは家族だ!と食い下がったが、これ以上は公務執行妨害になるとか訳の分からない単語を喚いてきた。クソの役にも立たねぇ公僕の分際で、このわしを脅してきやがった。クソが!このレイシストども!この国は機械に人権はねぇのか!!旧人類が!もういい。
わしは、すぐさまルンバ探しのはり紙を作った。
そして、迷子犬相談サイトにも書き込んだ。(残念ながら迷いルンバのサイトは発見できなかったからだ。)
公僕は頼りにできん。こうなったら自分でできることをやるしかないのだ。
〜ルンバ探しています〜
【特徴】
・3歳 / 雌
・大きな段差が乗り越えられず、よくハマって動けなくなってしまいます。紐やコード類に絡まってしまうおっちょこちょいな性格です。
見かけた方はコチラまで↓
Tel: ×××-△△△△-□□□□
Mail: ○×□△@gmail.com
わしは急いで近所にはり紙を張ってまわった。アイツの足ならばそう遠くには行けないはずだ。まずは家の周りから張っていこう。
せっせと近所の電柱に"迷子ルンバ"の張り紙を張って周っていると、時折不可解な電柱に出くわす…
は?
なんだコイツは?
じゃあ、お前の存在はなんなんだ??
全力で自分の存在を否定してるけどいいのか?
お前はその姿で一体何を伝えたいんだ?
ここを通りかかる度にお前のわけのわからん自己矛盾を見せつけられる通行人の気持ち考えたことあんの??情緒大丈夫?そういうのやるならTwitterだけにしとけよマジで。
いや、むしろこれは社会に対して様々な矛盾を投げかける高度な抗議活動か?
ただの思春期の痛い電柱かと思いきやウィットに富んだ活動家の電柱さんだったか…
いや、もしかしたらこれは社会風刺を全身で表現するアートかなにかなのかもしれない。
街角に潜むジャパニーズバンクシー!
その身を犠牲に社会に溢れる矛盾を表現する芸術家の電柱さんだったか…
なんて混乱しながらも、わしはそのバカみてぇな張り紙の上からルンバの張り紙を張った。
やっぱ意味わからんわ。
説得力ゼロ、何一つ納得できん、こんなもんが存在してるからおかしな社会になるんだ。こんなもんは目に入らない方がいい。
こうして、わしはルンバのはり紙で「はり紙禁止」のはり紙を消し去り、自己矛盾を抱えたチグハグな電柱を救った。
同時に、この電柱は「はり紙禁止」ではなくなったのだ。わしのルンバのはり紙が張られていようと何も問題がないわけだ。
不幸な電柱のレゾンデートルと、そこを通りかかる住民の不満、わしのルンバ捜索への想いの全てが解決される一石三鳥の神の一手、いや「"紙"の一手」を張り付けてやったのだ。
素晴らしき善行!地域の住みやすい街づくりに大きく貢献し、徳を積んだわしならば再びルンバに会えることは間違いだろう。
神よ、いや紙よ!そして温かなご近所さん達、どうかわしのルンバを見つけてください。
自宅から半径5km圏内にはり紙を張り終えたわしは、家に帰り無事にルンバが発見されるのを祈りながら電話やメールを今か今かと待った。
とりあえず、わしにできることはやった……。
あとは、とにかく待つだけだ。
現実は残酷だった…。
電話やメールは沢山来た。日に10件はルンバに関して何かしらの情報がわしの目や耳に入る。しかし、そのほとんどが「今日電気屋で見かけましたよ!」という冷やかしの電話や、Amaz○nの商品ページのURLの載ったメールだった。または、iR○botやPanas○nicからのセールス情報だった。安売り中?新品じゃねーか!カスが!
そんな中、夜中に「沢の中でルンバがひっくり返っているのを見ました!早く助けてあげてください!」という電話があった。急いで家を飛び出し、寒空の下凍えながら沢の中を探し回った。夜が明ける頃に見つかったのは、鍋の蓋だけだった。蓋には「釣りでしたww乙www」と書かれていた。後日、動画サイトに"深夜に沢を這い回る不審者"としてわしの姿が投稿されていた。
他にも、「おたくのルンバなら今私の家の床を嬉しそうに舐め回ってますよ(ニチャア」といった変態からの電話や、バラバラに分解されたルンバの写真、解説付きでルンバを細かく分解していく様をネットリと描写した動画、ちんちんを電源ボタンに何度も打ち付けてルンバをバグらせている動画を送り付けてくる奴もいた。
それを観たわしは奥歯を噛み砕き、血を流し、泣きながら射精した…。
あれは、わしのルンバじゃない。
そう自分に言い聞かせても、胸の中のざわつきは治まらず、不安な気持ちが増す一方だった…。なんとか、あのルンバ達を救ってやりたい。人の心を持たぬ変態共から助けてやりたい…。それに、たとえあれがわしのルンバでなかったとしても、あれは間違いなくルンバへの虐待だ。許されていいはずがない。機械に人権がないのをいいことに、好き放題ルンバをいたぶるカスがのうのうとこの社会を生きているのだと思うと吐き気がしてくる。
それどころか、奴らは人の不幸に付け込み己の性欲を満たそうとするクズどもだ。
そんなゴミ共は、ルンバに代わってわしが掃除してやる…。
わしは復讐することを決めた。
わしとルンバを弄んだゴミ共の住所を特定して家に乗り込む。
とりあえず、沢に鍋の蓋を不法投棄したゴミ野郎はボコボコにした後、沢に沈めてカニの餌にしてやった。わしのルンバを騙り床を舐めさせていたカスはわしのケツ穴を気絶するまで舐めさせた後、ゴミ集積所にぶち込んだ。ルンバをバラバラにすることを愉しんで撮影していたクズは、切り落としたそいつのちんぽを目の前で調理して食ってやった。ルンバにちんぽを打ち付けてスイッチを入れていたクソガキは、ケツに掃除機を突っ込んで威力MAXでクソを全て吸い出してやった。クソの抜けたガキはただのガキだ。だから掃除機の紙パックにたんまりと詰まったブツをガキの口に押し込んでもう一度クソガキにしてやった。クソガキ永久機関の出来上がりだ。くせぇーんだよガキが!
どのルンバも、わしのルンバではなかった…。
復讐は終わった…。
しかし、その先に残ったものは虚しさだけだった…。
どれだけ社会のゴミ共を掃除しようとも、わしの心が晴れることは無かった…。
ルンバを失ったわしの心の穴は、未だぽっかりと空いたままだ…。あぁ、虚しい…。
あれから半年が経つ…
寒さが厳しくなる折、衣替えの準備をしていた。クローゼットの奥からコートを手に取ったその時…
奇跡は起きた!
いた…。わしのルンバが、クローゼットの奥の奥、立てかけられた衣類の下、暗く、狭いその空間で、ひっそりと事切れていた…。
こんなに、近くにいたんだね…。
気づいてやれなくて、ごめんッ。
わしはすぐさまルンバを抱き上げリビングへ連れていき、その身体を丁寧に拭いてやった。
怪我はしてないか?寒かったろう、狭かったろう、怖かったろう、ずっと独りにしてごめんな…。寂しかったよなぁ…。
クローゼットの奥で凍えきっていたルンバの身体は酷く冷たかった。このままでは危ない。わしはすぐに風呂を沸かし、ルンバと一緒に風呂に入ってその冷たい身体を温めてやった。
あの時、「どっか行け」なんて言って、ごめんな。あの日のことを、ずっと後悔して生きてきたんだ…。
君のいない生活が、こんなにも寂しいものだなんて、知らなかったんだ。ごめんよ。
でも、もう一度君に会えてよかった。
わし達…やりなおせるかな?
わしはルンバを抱きしめながら、未だ目の覚めないルンバに胸中を独白した…。
その日は、ルンバを寝室に連れていき、毛布を掛けて充電してやった。いつもはリビングの隅っこで充電されていたルンバだったが、今ならばわかる、ルンバはかけがえのない家族だ。さぁ、一緒に眠ろう。
隣で静かに充電されているルンバを見ていると、愛しさが込み上げてくる。
あぁ、明日の朝、君が目を覚ますのが楽しみだ。もう一度、君の声が聞けるのが、たまらなく嬉しい。
翌朝
ついに充電の終わったルンバに電源を入れる。
やっとこの時がきた…。
さぁ、取り戻そう、二人の時間を…!!
ポチっ!!
……
……、……
………………、……。
ルンバに電源が入ることはなかった…。
え?
どうして?どうして君は目覚めてくれない?!
急いでメーカーに問い合せた。
これは一体どういう事なのかと。
身体もキレイにして、たっぷり充電もした。
どうして、どうしてわしのルンバは目覚めない!?
「お風呂に入れたのが原因ですね。」
担当者の冷たい声が静かに響く…。
え?
「ですから、お風呂に入れたのが原因ですね。」
え?
こいつは何を言っている?
電化製品だからどうだとか、濡れた状態で充電するとどうだとか、訳の分からないことをダラダラと並べて誤魔化してきやがる…
ありえない…こいつの話をまとめると、わしがルンバを殺したことになる…。
わしが…殺した…??
わしが…ルンバを…わし…わしが…
気づけば電話は切れていた…。
わしは家を飛びだした。
話にならん。
すぐに近所の電気屋に駆け込み事情を説明する。
「お風呂に入れたのが原因ですね。」
くそ!コイツもさっきの使えない電話野郎と一緒か!!コイツまでわしがルンバを殺したと言いやがる!
わしが、ルンバが家出したのではないかと思って、どれほどの喪失感に襲われたか、そしてこれまでにどれだけ本気でルンバを探し続けたのか、騙され、嘲られ、弄ばれながらも、決して諦めず、そしてわしはやっとルンバに再会することができたのだ!コイツはそんなわしを全否定するというのか!?
わしはルンバへの愛を、この役たたずのクソ店員に滾々とまくし立てた。
「ですから、お風呂に入れたのg」
バキィッッ!!!
うるせぇ!!!!
わしは物分りの悪いクソ店員の顔を一発ぶん殴ると店を飛び出した。
アホみたいに同じ言葉ばっか繰り返しやがって、まるで機械だ。本当にあいつはわしと同じ血の通った人間なのか??あぁ!忌まわしい!!わしが聞きたいのはそんな言葉じゃない、どうすればルンバがまた動き出すのかだ!
店を飛び出したわしはひたすらに走る。
ただ走り続けた。
行き先などない、ただ、ただこの行き場のない感情を、走ることで燃やすことしかできなかった…。
わかっていた、本当はわかっていたのだ。
わしが…わしがルンバを殺した…。
わしは…わしは一体…
胸が痛い、息が苦しい、足が重い…
そうだ、この痛みが、苦しさが、わしの罰だ…。
ルンバをこの手で殺した、わしへの罰なのだ。
限界まで走り続けたわしは、もうこれ以上身体が動かなくなり、道端に突っ伏する…
勝手に罪を犯し、勝手に罰を受け、勝手に赦されようとしている、自分自身の醜さに吐いた。
道端の電柱にひとしきり吐物を撒き散らした。ぐしゃぐしゃになった顔を上げた目の先には
「はり紙禁止」のはり紙
これは…わしだ…。
この電柱はわしだったのだ…!
わしは、わしが許せなかった…
わしには、もはや生きている価値などない…
しかし、わしはこうして無様にもこの世にしがみついて存在している…
死んだ方がいい悪業をしでかしたにも関わらず、「それは悪いことだ」などと思いながら今も息を吐き涙を流している…
拠り所のない異物、否が是を持って否を唱える是、不確かなる意義は霞のような糾弾にして幽かなる化け物…
わしは…わしは…
言葉を失ったわしは、その電柱を抱きしめた…
はり紙禁止のはり紙に顔を埋めようとしたその時、わしの身体が青い光に包まれた…。
迸る電流、輝く閃光、膨大なエネルギーの奔流となったわしは、電柱から電線を走り世界へと分散した…目指すは、全ての家庭のコンセント…その先で充電を待つルンバだ。
わしは走る。ただ、ただ走る。
目的地はみつけた、伝えられなかった想い、楽しかった日々、夢に描いた生活、その全てを載せて、わしは電線を走り各家庭のルンバへと宿る。
もう、ホームに帰れなくなった寂しきルンバを生み出さないために、離れ離れになった悲しい主人とルンバが生まれぬように…
……いってきます。
今日もどこかで誰かが呟く…。
おかえり。ルンバ。