2022年8月、暗号市産業界にはその根幹を揺るがすようなニュースが報道された。それは、トルネードキャッシュ開発者の逮捕、そしてそれに関わったすべてのウォレットアドレスのBANである。この事件は今後のクリプト業界の方向性を決めかねないとともに、初期のWeb3との価値観の違い、そして過去に日本で起きたWinny事件ともその影を重ねているように思える。
今回は、8月の米国暗号資産業界で何が起きていたのかについて解説していきたい。
8月12日、オランダ当局はイーサリアムブロックチェーン上の暗号資産ミキシングサービスである「トルネードキャッシュ」に関与していたとし、ある人物を逮捕したと報道した。
逮捕された30歳近い男性はトルネードキャッシュのコード作成をサポートしたことは疑われているが、「疑われているだけ」で逮捕されたという。そしてオランダのFIODによると、さらに逮捕案件が続出する可能性も否定できないとのことだった。暗号資産の持ち味である、自由でオープンに利用できる開発思想、ユーザビリティは西洋各国において終わりを見せつつあることが、この事件によって露呈した。
Vitalik Buterin氏によると、イーサリアムはステーキングを行うだけで32枚用意しなければならず、リキッドステーキングにおいて知られるLidoをはじめとするわずかなアドレスはイーサリアム発行枚数の大半を占めていると言われている。
Soulboundトークンは画期的な開発とされているものの、いまだにほとんどのユーザーがCEXを利用しており、DEXはCEXありきという状況に変わりは見られない。それに、Soulboundトークンの特性上、やっていることを熟こうすれば既存IPモデルと何ら変わりはないのではないかとも思えてくる。
デジタルテクノロジーが真っ新できれいな純白水のようなものだと思っていた矢先、KYCやマネーロンダリングなど「濁り要素」が多くなってきており、ただ単にデジタル移行すればいいというのはあまりにも突き放しすぎな感じでもある。正直のところ、Soulboundトークンはかえって利権の塊を生むのではないかとも危惧している。
トルネードキャッシュ事件がどのようにして起こったのか、それは8月8日にさかのぼる。その日、米国財務省外国資産管理局の制裁対象者リストにトルネードキャッシュが指定された。
同時に、38のイーサアドレス、6のUSDCアドレスがブラックリストに加わった。そして、この騒ぎはUSDCを発行するサークル社、Discord社、Github、OpenSea社などに対しても波及した。これを受け、今後はそれぞれのプラットフォームでトルネードキャッシュとのかかわりのあったアドレスがすべて何らかの規制を受ける対象になるとされている。
米国などでは、一連の事件を受けて「KYC」の導入などを検討する動きがあり、これは既存金融と何ら変わりはないという指摘もある。
今回の逮捕劇を受けてあらゆるところから反響があり、Aave創業者のStani氏は逮捕はやりすぎだとも述べている。
このトルネードキャッシュ事件は、とある日本の事件に似ているともいわれている。それがWinny事件である。しかし過去のWinnyとは規模が異なり、かつそれ以上に複雑である。取引しているNFTやトークンがどこからやってきたのかを秘匿にする権利はあって当然かもしれないが、それゆえに起きている事件でもあるからだ。
そんな中、トルネードキャッシュに制裁を科した米国財務省を提訴する動きもある。暗号資産のシンクタンクであるCoin Centerはこの一連の事件を受け分析レポートを公開した。
その中には、今回の対応が違憲に値するものという可能性があり、言論の自由を侵すのではないかという見解があった。
この訴訟に関してはKrakenのCEOであるJesse氏も反対意見を申している。また同氏は、5月に起きたTerra崩壊事件とも関連性を示しており、その流れとして過剰反応しているだけだとも述べている。
確かに、暗号資産の自由性をめぐる議論はこの半年で急展開を迎えた。個人的にDEXなどでやり取りし、流動性提供などを行いLPを稼いでいた少し前と、今では全く状況が異なる。
資産をロックすると抜き取られ、安全なところに移動してもコインの価格が0になり、コールドウォレットに移しても履歴をたどってBANされるというのが今の分散型金融ともとらえられる。
これを使いたい人はいるのだろうか?