さっぱりとしたお話ですが、企画参加記事です。
企画リンクは以下に
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若者グループの仲間内に運転免許を取ったばかりの人間がいて、車を使ってどこかに遊びに行こうとすると、どこかのタイミングで心霊スポットが候補に上がります。
これは、その時のエピソードです。
季節はちょうど8月中旬だったでしょうか。
『御札の家』の名で広く知られる有名な心霊スポットがあり、怖いもの見たさと言いますか、地元の同級生4人で肝試しに向かいました。
名前の由来は定かではないですが、発案者の友人から聞くところによると、
・かつて一家心中があったとされる一軒家で、心中のあった部屋の壁面にはビッシリと除霊の札が貼られている
・家の周囲はフェンスと有刺鉄線で囲まれているが、フェンスの一部に破損があり、くぐって中に入ることができる
ということで、本当に除霊札まみれの部屋があるのかどうか確かめてみよう!と盛り上がりながら車を走らせました。
ほどなくして、それらしき場所に到着しました。
付近の路肩に駐車し、懐中電灯の明かりを頼りに道沿いを暫く歩くと、茂みの間に割り込むようにして、たしかに一軒の民家がぽつんと建てられていました。
民家の外観自体はそこまで朽ち果てているという訳ではなく、山奥のわりには手入れが行き届きすぎているような、妙な小綺麗さがありました。
白い壁は汚れもなく白いままで、屋根の瓦はひとつも欠けてはおらず、きれいな窓ガラスはしっかりカーテンに遮られており、中の様子はわかりません。
むしろ特徴的なのは、民家ではなくその周囲でした。
民家を囲い込む形で配置された背の高いフェンスの天辺には有刺鉄線がぐちゃぐちゃに巻かれており、白地に赤文字で「管理地のため侵入禁止」という旨が殴り書かれた看板が番線で雑に固定されています。
フェンスの内部には、巨大な椰子に似た妙な樹木が一本だけ生えており、あとは比較的背の低い雑草が一面を覆っていました。
ざっと見た限りではフェンスに扉はなく、また雑草も踏みつけられた形跡がないことから、先の民家に居住者がいるようには見えませんでした。
だからこそ、民家の小綺麗な外観はとても妙でした。
ともかく、友人の言う除霊札でいっぱいの部屋の有無を確かめるためには、外から民家の中が見えない以上、フェンスの隙間をくぐり抜けて扉なり窓なりから民家の中に入っていくしかありません。
「フェンスの隙間を探そうか」という友人の声を合図に、比較的肝試しに乗り気な2名と、どちらかといえば消極的な2名の2人づつに分かれてフェンスの外周を見て回ることになりました。
ぼくは消極的なチームだったので、懐中電灯をくるくると遊ばせながら、「入りたくないよね」「隙間があっても黙っていようか」などと軽口を叩いていました。
そんなぼくたちを尻目に、向かいのチームはずいぶん熱心にフェンスを調べているようで、やれ隙間はあるか、これは入れそうか、上の鉄線が少し潰れている、下を掘れば入れるかも、など熱心な相談をしているのが聞こえます。
そのうち、何も進捗がなかったのでしょう、熱心なチームから大声で
「おーい、そっちはどうだ」
と呼びかけられました。
そのころになると肝試しの熱気もずいぶん冷めていて、半ば飽き気味で「なんにもないよ」と声を張ろうとしたとき、ふと民家が視界に入りました。
最初は閉まっていた民家の大窓のカーテンが何故だか開いており、畳張りの大広間がしっかり目視できました。
白塗りの壁、畳、ふすま、すべてがきれいな状態でそこにありました。
ただそれだけがありました。家具や、布団や、住人や、生活に必要なものは何ひとつなく、きれいな部屋だけが見えていました。
馬鹿な若者といえど、さすがに全員が「これ以上入ってはならない」という何らかを感じました。
虫の声ひとつせず、風さえ流れていない不気味な静けさのなか、ぼくたちは慌ててその場を後にしたのでした。
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余談ですが、2019年現在もその心霊スポットは現役のようで、ネットに肝試しレポが数多く上がっています。
不特定多数が一様にあそこで「何か」に出くわしたというのが、かえって説得力となり、今でも思い出すと少し寒気がします。
心霊スポット行っちゃダメ!ゼッタイ!