以前のお話→https://alis.to/dorogamihikage/articles/3qQ6Dn4X7pwG
BGMどーぞ↓
雨はまだ止まない。
私から少し離れたところで足を横に崩して外を眺めてる白石さん。斜め後ろにいる私からは白石さんの足の裏が見えている。色白な白石さんの土踏まずはハッとするほど白かった。その土踏まずと指の付け根の地面に触れない部分は真白なのに、それ以外の部分は赤い。豆みたいに並んだ足の指、まるいかかと、それからあそこは何て言うんだろう?猫で言う肉球の部分。そういえば白石さんは猫っぽい。ツンとしてるようで、すぐにゴロゴロしてくる猫。そんな猫を想像して、それから桃を想像する。だって白石さんの足の裏の赤と白は桃みたい。
きっとクラスの中で白石さんの足の裏を見たことがあるのは私だけに違いないとおかしな優越感を覚える。
あ、ペディキュア。水色のネイルが白石さんの足の爪に塗られてるのが見えた。白と赤と水色。
白石さんがこっちを向いて目が合う。
「何見てたの?」
そう言われてなぜかあわてる。
「別に、何も見てないよ」
「うそ。だってすごいいやらしい顔してたよ」
「ちょっっっ、え?やだ。そんな顔してないよ」
いったい私はどんな顔をして白石さんの足の裏を見ていたんだろう?いや、ただ、なんか色白な白石さんなのに足の裏だけ赤くてサルのおしりみたいでどきどきするなあとか、あれなんかこれおかしいな・・・。そういえばサルってなんでおしり赤くなるんだっけ?
「私は君のこと何でもお見通しなんだからね。嘘ついてもダメだよ。正直に言ってごらん」
あうう、白石さんにそう言われると本当に私の考えてたこと全部わかってるような気がしてくる。でも正直に言ったらまるで私は変態みたいだ。女子中学生の足の裏に見とれていましたなんて口が裂けても言えない!
「ほら、正直に言えば怒らないよ。もちろん私は君が何を見てたかなんてわかってるけど、私が言うより自分の口で言った方がいいんじゃない?」
正直に言おうか。自首した方が罪が軽くなりそうな気もするし。・・・え?ていうか足の裏見るのは罪なの?うーん・・・そうだ!解法のわからない問題は他の似たことを例に出して考えてみればいいんだ。数学の先生が言ってた。よし!
ええと、例えばスカート中を見たら罪だよね、間違いなく。ん?ということは太ももを見たら罪になるかもしれない。あ、でもプールでスク水姿の女子の太ももを見ても罪にはならないはず。ん・・・あ!つまり隠されてる場所を見たら罪なんだ、きっと。・・・おや?ということは足の裏ってふだん隠されてるから、そこを凝視してた私は罪を犯したことになるのでは?あれ?あれ?
「君?」
「あ、あのね、足の爪かわいいなって思って見てたの」
「やっぱり気付いた?実はペディキュア塗ったの生まれて初めてなの。この色どうかな?」
「水色白石さんのイメージにぴったりだと思う。とっても似合ってるね」
「えへへ、どうもありがとう」
白石さんはとっても満足気な表情でまた外を見だした。少し太陽の日差しが出てきたのに雨がまだ降っていてとてもきれい。あれあれあれ?もしかして白石さん、ネイルに触れてほしかっただけ?
海風が白石さんの黒髪を揺らす。白石さんは自分の口に髪が入ったみたいで、小指をひっかけて髪の毛を出した。髪の長い子のあるあるだね。
その髪が入って唇の赤い色。さっきから赤い色に目が引き付けられる。そうだ、サルのおしりが赤くなるのはオスを引き付けるためだったっけ。その話を初めて聞いたときは、サルは年がら年中おしり丸出しで生きてるのになんでふだんは何とも思わず、赤くなった時だけ引き付けられるのだろうと謎だったけれど、今サルの気持ちがわかったかもしれない。白石さんの体の赤い部分が気になって仕方ない。
他に体の中で赤い部分というと・・・いかん!考えちゃだめだ。考えちゃだめだ。私たちはまだ中学生なんだ。唇に集中するんだ。唇ならセーフなはずだ。友達の顔を見ることに何もやましいことはない。唇は合法だ。・・・唇、白石さんの。どんな感触なんだろ。柔らかいのかな。弾力があるのかな。冷たいのかな。熱いのかな。そういえば白石さんはキス、したことあるのかな。今の子って進んでるからな。どうなの。白石さんってキスするときどんな顔するのかな?キスってどんな感じなのかな。キスし・・・
「ねえ、したいの?する?」
白石さんが急に話しかけてきた。
「え!?いや、したいっていうか、嫌だっていうのも違うけど、積極的にしたいっていうのもなんだかおかしい気がするし・・・でもっ・・・いいよ。白石さんがしたいなら、私、してもいいよ」
「本当?私今持ってるんだマニキュア。塗ってあげるよ」
「・・・・・」
うぎゃー
一雨きて涼しい風が吹いている。体育座りしている私と、私の足の指を持って爪に真剣な表情でマニキュアを塗ってくれている白石さん。マニキュアが冷たくて心地いいけど、少しだけくすぐったい。私は白石さんの頭と、私の足の爪が一本ずつ白石さんの足の爪と同じ色になっていくのを見ている。
「おそろいだね」
白石さんが嬉しそうに言う。
「うん。きれいな色。でも私マニキュアってすぐはがれちゃうの。もっと長持ちしたらいいのに」
「剥がれたらまた塗ってあげるよ」
「でも白石さんのマニキュア無くなっちゃうよ」
「いいの。きっと使い切れないから」
そっか。マニキュアってすぐ固まっちゃうもんね。
「じゃあまた塗ってね」
「うん」
雨が上がって太陽の光が世界を照らす。ふいに走り出したい気分になったけれど、ネイルが乾かないからまだ動けない。白石さんのとなりに座ってこのきれいな世界を眺めてる。