さいたま市の学校と教育を考える市民の会が市民学習交流会「子どもにとって教育のデジタル化は何が問題か?」を2023年6月24日に埼玉県さいたま市で開催しました。会場とZoomのハイブリッド開催です。講師は小林善亮弁護士です。教育のデジタル化の問題点を説明しました。
教育のデジタル化は「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」を目指しています。このこと自体は素晴らしいことですが、休みの日にもタブレットを通して連絡が来るなど管理強化に使われている実態があります。また、検索履歴や保健室に通った回数などセンシティブな情報が集積されます。
個人情報の収集は本人の同意が前提です。この同意についてEUのGDPR; General Data Protection Regulationの考え方を紹介しました。GDPRは形式的に本人の同意を得たというだけでは同意があったとは認めません。本人が不利益を被らずに本人が同意を拒否・撤回できない場合の同意を任意性がないとして否定します。また、本人とデータ管理者の間に不均衡がある場合、特にデータ管理者が公的機関の場合は事実上の強制となるため、同意をデータ利用の正当化根拠とすることを原則として認めません。
(42) Consent should not be regarded as freely given if the data subject has no genuine or free choice or is unable to refuse or withdraw consent without detriment.
(43) In order to ensure that consent is freely given, consent should not provide a valid legal ground for the processing of personal data in a specific case where there is a clear imbalance between the data subject and the controller, in particular where the controller is a public authority and it is therefore unlikely that consent was freely given in all the circumstances of that specific situation.
講演会では最後に久喜市の中学校の事例を紹介しました。生徒にリストバンドをつけて授業を受けさせ、脈拍の情報を取得し、生徒が授業に集中しているかをチェックしました。小林弁護士は同意の有無以前に倫理としてしてはいけないことではないかと指摘しました。
最後の久喜市の事例は、東急不動産ホールディングスと東急不動産が新本社「渋谷ソラスタ」で業員に頭部に脳波測定キットを装着して働かせる実証実験を連想します。この実証実験のニュースは監視社会のディストピアになると炎上しました。これが炎上することは健全な反応ですが、中学生に行う場合は抵抗感がないとなると子どもの人権が軽視されています。もっとも脈拍以上に脳波を測定されることには抵抗がありますし、脳波センサーはオウム真理教のヘッドギアを連想する見た目の問題もありました。
東急不動産従業員の脳波センサー装着への違和感
東急不動産の脳波測定炎上とAI感情分析の可能性
質疑応答では久喜市の事例に基づいて同意に関する話題が多かったです。同意をとる前に拒否する自由があることを教えるべきという意見が出ました。「黙秘権がある(You have the right to remain silent.)」「弁護士の立会を求める権利がある(You have the right to have an attorney present during questioning.)」などを告げるミランダ警告と同じ発想です。日本では本人の同意がアリバイ作りのための形式的に取得される傾向があります。
東急不動産のようなケースで従業員は同意したとしても、業務命令として同意を強制されることもあるでしょう。GDPRでは、そのような同意は任意ではないとして否定されます。日本でもGDPRのように判断されるのかと質問しました。小林弁護士は「断る権利があることは当然の前提であり、拒否して不利益を受けた場合は人格権侵害として争うことができる」と回答しました。
また、同意について「全て拒否する」ではなく、「これについて拒否する」ということをできるようにする必要があるとの意見が出ました。ひと昔前は、この種のテーマではITの恩恵を否定して対面コミュニケーションを押し付ける守旧派的な意見がありました。これに対し、ここではITの恩恵を認めた上でサービスを選択したいとなっています。