NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が2022年10月23日に第40回「罠と罠」を放送しました。和田合戦前夜が描かれます。史料では北条義時が和田義盛を挑発し続け、謀反に追い込みます。ドラマでも義盛を追い込む義時の悪意を描きます。大河ドラマ主人公ということで美化せずに描く点は歴史への誠実さがあります。
和田合戦の出発点は泉親衡の乱です。反乱未遂事件ですが、一味の中に義盛の子和田義直と和田義重、甥の和田胤長が含まれていました。これが義時に攻撃材料を与えます。
泉親衡の乱自体は和田一族が参加するほど根深いものでありながら、謎に包まれています。親衡が大規模な反乱を首謀するような存在であったか疑問視されます。むしろ和田一族が首謀した反乱であり、露見したために親衡を首謀者としたとする見解があります。逆に義時が義盛を攻撃するためにでっち上げた冤罪とする説もあります。
ドラマでは劇中人物にも親衡について分からないと説明させます。分からないことを分からないと説明させて物語を成り立たせることは上手いです。さらに朝廷の暗躍を仄めかします。京都の祇園祭の長刀鉾は和泉小次郎親衡(泉親衡)の人形を飾っており、京都との関係は当たっているかもしれません。
義時は政子の前では「鎌倉のため」と奇麗事を言いますが、泰時には「北条の世を磐石にするため」と取り繕うこともしなくなりました。一方で政子も義時に丸め込まれるだけの存在ではありません。義時が和田討伐を諦めていないことを見抜いています。
その政子よりも源実朝は問題を的確に把握し、主体的に動いて戦争を防止します。ここは感動的です。義時も本気で討伐を取りやめたように見えます。ところが、義時も義盛も関知しないところで行き違いが発生します。ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』も勘違いが最後の悲劇になりました。心に残る悲劇は人間の悪意だけではなく、それを超えた要素も入るものでしょうか。
仁田忠常のエピソードを連想させます。忠常は源頼家に時政殺害を命じられましたが、時政を殺害するつもりはなく、時政邸に出かけて比企能員追討の褒賞として酒宴を楽しみます。しかし、郎党は主人が中々帰ってこないため、時政に討ち取られたと早合点して襲撃し、討伐されてしまいました。これに対して第32回「災いの種」では忠常の死をもっと切ないものと描きました。
義時は三浦義村を使って義盛に謀反を焚きつけようとします。第39回「穏やかな一日」では義時に怒りを示しており、本音がどこにあるか分かりません。陰謀家的手口は弟の三浦胤義からも嫌悪されます。義村と胤義は承久の乱では敵味方になります。兄弟のギャップが既に見えます。
義村は視聴者から見ると怪しさがいっぱいです。藤原定家は日記『明月記』で義村を「八難六奇の謀略、不可思議の者か」と書いており、同時代人からも怪しい人と見られていました。ところが、『鎌倉殿の13人』では和田義盛も政子も牧氏事件の北条時政も義村を頼っています。それほど信頼を感じられるのでしょうか。
義村は起請文を書いて義盛に味方すると約束しました。これまでの義村のイメージからすると起請文を破っても何とも思わなそうです。義盛でさえ第38回「時を継ぐ者」で起請文について「そんなもん、あとで破っちまえばいいんだよ」と言い放ちました。
ところが、起請文を書いた後の義村は神妙です。野心から義時を裏切る義村は史実に反しても大いに観たいところですが、起請文に縛られて動けない展開は義村らしさに欠けます。次回は第41回「義盛、お前に罪はない」です。史実を知っていてもどうなるか分からない面白さがあります。
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