埼玉県さいたま市長選挙が2021年5月23日に投開票されました。市役所移転が争点でしたが、候補者の主張と投票行動は必ずしも一致しませんでした。そこにはコストカッターとしての移転反対論ではなかったことがあるでしょう。
市長選挙は現職の清水勇人候補と新顔の前島英男候補の一騎打ちになりました。投票結果は216,768票対86,404票と清水候補の圧勝となりました。投票率は28.70%と過去最低となりました。投票率20%台は、さいたま市長選挙で初めてです。投票率が30%を超えた区は浦和区33.33%、中央区31.90%、大宮区30.19%のみです。市役所移転が主要争点と受け止められたことになるでしょうか。
浦和区と中央区、大宮区は市役所移転の利害関係が強い区です。さいたま市役所は浦和区常盤にあります。清水勇人市長は2021年2月、2031年に大宮区北袋町のさいたま新都心バスターミナルへ移転すると表明しました。さいたま新都心は中央区と大宮区に広がります。
市長選で前島候補は市役所移転反対を訴えました。コロナ禍の中でわざわざ市役所を移転しなくても良いという主張は十分に説得力を持つものです。実際、産経新聞の出口調査では42.6%が「移転しなくてよい」と回答し、「移転すべきだ」の28.1%を上回りました(「市庁舎移転、反対4割超 さいたま市長選出口調査」産経新聞2021年5月24日)。
市役所移転に反対でも、だから前島候補とならなかった理由は、前島候補が無駄を減らすコストカッターに見えないことがあるでしょう。前島候補は選挙公報で「市の予算は「市役所移転」にではなく、医療・福祉・介護の充実に」と書いています。市役所移転という無駄をなくした分を別のところに回すならば、税金の無駄遣いに問題意識を持つ人々には刺さりにくいでしょう。反対に清水候補は行財政改革の実績を掲げました。
この点は高まりつつある東京オリンピックの中止論でも考えさせられます。コロナ禍で入院待ちなど医療崩壊が起きている中で東京五輪を中止すべきとの主張は十分に説得力を持ちます。民間感覚では昭和の精神論根性論でやり抜くことがブラックとされ、率先して中止すること、撤退すること、リストラクチャリングを進めることが評価されるようになりました。
ところが、五輪中止論の中には「五輪を中止して一律給付金を出せ」という類のTax Eaterの論理があります。それでは、ぼったくり男爵らに回す金があるならば自分達に回せという税金分捕り合戦になってしまいます。ぼったくり男爵らの利権を批判する資格がなくなります。五輪中止論が実現するかはコストカッターの中止論が中止論の主流になるかにかかっているでしょう。
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