女優の沢尻エリカさんが2019年11月16日にMDMAを所持したとして麻薬取締法違反の疑いで緊急逮捕されました。沢尻さんは2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』で濃姫を演じる予定で既に収録が進んでいます。報道には降板を確実視し、代役女優の名前を挙げるものもあります。大河ドラマは『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』のピエール瀧さんといい、祟られ続けています。
私は作品と演者の作品外の行為は別との立場から業界横並びの作品お蔵入りには批判的です。むしろ、差し替えせずにテロップを出したチュートリアル徳井義実方式を評価します。しかし、作品と演者の作品外の行為は別という原則を貫くが故に薬物犯罪には逆の結論が出てきます。
ダウンタウンの松本人志さんはピエール瀧さんの事件に際して「薬物という作用を使ってあの素晴らしい演技をしていたら、それはある種、ドーピングです」と発言しました。常人離れした芸術的才能の発露が薬物の効果であるならば、スポーツにおけるドーピングと同じであり、お蔵入りさせることに意味があります。
薬物犯罪は作品と無関係な行為ではなく、作品も薬物犯罪の結果になります。この場合は撮り直しに時間とコストがかかることは言い訳にならず、是が非でも作品を葬るべきとなります。それが社会の公正さを維持することになります。
危険ドラッグが2014年の流行語大賞トップテンにランクインしたように依存性薬物は深刻な社会問題です。依存性薬物の危険性はどれほど指摘してもし過ぎるものではありません。ところが、危険性よりも、治療や支援、回復を重視すべきとの論調があります。その立場から沢尻さんの作品お蔵入りに反対する声があります。そのような議論はドーピング論からすれば贔屓の引き倒しの逆効果になるでしょう。薬物と共にあった過去を肯定することはできません。
私は依存症患者への治療のアプローチを否定するつもりはありません。SDGs; Sustainable Development Goalsのターゲット3.5は以下のように防止と治療の二本柱です。「薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する」(Strengthen the prevention and treatment of substance abuse, including narcotic drug abuse and harmful use of alcohol)。
しかし、田代まさしさんの例が示すように回復は非常に困難です。その事実から目を背けて危険性よりも回復の重視を主張することは、不利益事実に触れない無責任な言説になります。