NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は2022年6月19日に第24回「変わらぬ人」を放送しました。蒲冠者・源範頼は曽我兄弟の仇討ちで頼朝が討たれたとの誤情報を聞き、自分が鎌倉殿を継ぐものとして鎌倉を守ろうとします。しかし、生存していた源頼朝の疑念を招いてしまいます。
通俗的な歴史では範頼は疑われて狼狽したとされます。これに対して『鎌倉殿の13人』では何が何でも黒と決めつけなければ気が済まない査問会体質に呆れて、範頼の方から願い下げとした格好です。『吾妻鏡』では御家人の熊谷直実が訴訟の進め方が不公正と激怒して、頼朝の面前で髪を落とし、出家した事件が記録されています。『鎌倉殿の13人』の範頼と重なります。
北条時政は伊豆国に流罪になった範頼を慰め、自分も今の生活が分不相応と感じていると述べます。時政は元久2年(1205年)の牧氏の変で失脚し、伊豆国に隠居します。時政側からすると悲劇的な出来事ですが、ドラマでは楽隠居と明るく描くでしょうか。時政は建保3年(1215年)に亡くなるまで伊豆国で過ごしました。絶望して憤死した訳ではなく、楽隠居との見方も成り立つでしょう。
源範頼は比企能員が焚きつけましたが、能員は範頼が疑われると仮病を使って会うことも拒否します。保身第一の卑怯者です。後に比企氏は建仁3年(1203年)の比企能員の変で滅ぼされます。『鎌倉殿の13人』は通俗的な歴史観では傲慢な人物とされる上総広常を好人物として描き、その誅殺で視聴者に衝撃を与えました。Twitterでは #上総介を偲ぶ会 が立ち上がりました。しかし、比企氏の滅亡は視聴者から偲ばれないでしょう。
頼朝と北条政子の長女の大姫は亡き許嫁・源義高を慕い続けます。政子達は大姫に前を進ませようと一計を案じますが、大姫はあっさりとインチキを見破ります。だますことは悪いことです。大姫が腹を立てて当然です。
大姫が義高の処刑で心を病んだことは『吾妻鏡』にもある有名な話です。『鎌倉殿の13人』の大姫は全面的に病んでいるというより、思ったよりも普通です。ようやく日本も昭和の精神論根性論が否定され、メンタルヘルスが考慮されるようになりましたが、診断書があれば特別対応するというような形式的区別で終わっていることも多いです。普通に見えても、傷を負っている人はいますし、そのような人を頑張らせることは苦しめるだけです。思ったよりも普通の大姫は21世紀的なメンタルヘルス理解に近いです。
『鎌倉殿の13人』の新しい点は、大姫に悲恋をふっ切れさせているところです。早世の原因は悲恋ではなく、朝廷との軋轢でした。『鎌倉殿の13人』のクライマックスは承久の乱と見られますが、北条政子にとって承久の乱は大姫の敵という面も生まれます。
大姫が亡くなると頼朝は次女の三幡を入内させようとします。頼朝にとって娘を入内して朝廷の権威を得ることが鎌倉幕府を安定させることになると考えたのでしょうが、都の貴族マインドが抜けきれない限界とも見られます。実際、頼朝の貴族マインドは東国独立を志向する御家人との隙間風になります。これは頼朝の死に暗殺説が出る背景です。『鎌倉殿の13人』では、あんなところに嫁がせたくないという政子の親心も加わります。
鎌倉時代の早い段階で頼朝の直系は死に絶え、鎌倉幕府は摂関家や皇族からお飾りの将軍を迎えます。頼朝にとって娘を天皇の妃にすることが鎌倉幕府安定にとって必要なことと考えたのでしょうが、逆に鎌倉幕府が源氏の棟梁を不要とする方法を発明したことは皮肉です。
『鎌倉殿の13人』第23回「狩りと獲物」曾我兄弟の仇討ち