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『どうする家康』第32回「小牧長久手の激闘」品性下劣な秀吉が反論するか

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  • 林田力
  • 2023/08/20 11:56

NHK大河ドラマ『どうする家康』第32回「小牧長久手の激闘」が2023年8月20日に放送されました。小牧長久手の戦いの続きです。徳川家康は小牧山城を要塞化し、戦線は膠着状態に陥ります。石川数正は和議を口にし、ブーイングを受けます。後の出奔につながりそうです。

 

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小牧長久手の戦いは持久戦でした。長篠の合戦、賤ケ岳の戦いと野戦築城の技術が発達し、先に動いた方が負けました。家康も羽柴秀吉も、それを理解しているから動きません。この持久戦の我慢はドラマでは見せにくいですが、戦闘より堀の建設に尺を長くしています。

 

榊原康政は秀吉の悪口を書いて挑発します。秀吉は「所詮人の悪口書いて面白がっとるようなやつは己の品性こそが下劣なんだと白状してるようなもんだわ」と言いますが、秀吉自身が品性下劣なので説得力がありません。

 

後に秀吉は聚楽第落首事件で残虐な処刑をしています。聚楽第の壁に「ささ絶えて茶々生い茂る内野原 今日は傾城 香をきそいける」等の落首が書かれました。佐々成政が肥後国人一揆の責任を取らされて自害に追い込まれる一方で、秀吉の子を懐妊した茶々の権勢が強くなると述べています。

 

秀吉は聚楽第を警備していた番衆の鼻や耳を削いで磔にしました。さらに犯人とされた人物の家があった街区を焼き払い、犯人とされた人物の妻子や近隣住民を磔にしました。誹謗中傷を名目として都合の悪い批判を弾圧する権力者です。

 

池田恒興(勝入)は三河中入りを献策します。恒興は秀吉を「筑前」と呼び、同輩感覚です。実際の恒興は賤ケ岳の戦い後に秀吉によって本拠の摂津から美濃大垣に転封になりました。秀吉は恒興の旧領に大阪城を築いて本拠としました。大名の転封は秀吉が上下関係を示す方法です。後に徳川家康や上杉景勝も経験することになります。この時点で既に恒興は秀吉の配下との見方もあります。

 

恒興は「自分がいるから織田家臣が秀吉についてきている」と凄みます。とはいえ、既に秀吉は信長の三男の信孝を死に追い込むことをしており、恒興の美濃大垣も信孝の旧領を没収して得たものです。織田家への忠義はどこにもないでしょう。

 

途中で本多正信と井伊直政の会話シーンを挟みます。二人は共に家康を殺そうとしたことがありましたが、許されて家臣になりました。家康を「憎んだり恨んだりするのが苦手な人」と評します。確かに築山殿事件の原因を作った信長を憎み続けることもできませんでした。しかし、晩年には方広寺鐘銘事件という卑怯な言いがかりで豊臣家を滅亡に追い込みます。家臣の大久保忠隣も冤罪で改易にします。晩年の負の面は秀吉が悪名高いですが、家康にもあります。そこはどう描くでしょうか。

 

方広寺鐘銘事件は卑怯な言いがかり

 

長久手の合戦は家康の野戦の巧みさを示しました。とはいえ、本多忠勝という無双の武将が秀吉の本軍を押さえたから成り立ちます。作戦があれば誰でもできるものではありません。他の武将には真似ができない徳川家臣団の凄さがあります。

 

その強さは秀吉も十分理解しました。信長の下で家康は各地を転戦して強くなりました。ドラマを観ている視聴者は、家康が泣いたり騒いだりばかりで凄そうに見えませんが、内側からの視点であって、外から見ると恐ろしい存在に見えるでしょう。

 

羽柴秀吉は恒興や森長可の戦死に「かえって良かった。言うこと聞かない奴がいなくなって」と言います。ドラマで描かれた関係ならば、そのようになるでしょう。あえて邪魔者を家康に討ち取らせる深謀遠慮を感じるかもしれません。

 

恒興や長可の戦死によって池田家は息子の池田輝政、森家は弟の森忠政が継ぎます。二人は父や兄を討った家康を恨むことはせず、関ヶ原の合戦では東軍で参戦しました。策謀家的な秀吉よりも、敵の家康の方が武人として信頼できたのでしょう。

 

中入り部隊の総大将は甥の秀次です。この秀次を退却させるために木下祐久や木下利匡ら木下一族が戦死しました。秀吉は一門の層が薄く、それが豊臣家の滅亡につながりますが、一門にも打撃を与えた敗戦でした。

 

秀次の部隊が徳川勢の奇襲で最初に敗走しました。後続の秀次が敗走したために先行していた恒興や長可は孤立し、家康と決戦することになりました。恒興や長可は有能な武将ですが、秀次が足を引っ張ったという見方があります。中入りは奇襲であり、少数精鋭で攻めるものなのに、秀吉が恒興と娘婿の長可が手柄を独占することを嫌い、秀次を総大将とする大所帯としたことが敗因とする見方もあります。

 

一方で恒興や長可は岡崎城を迅速に奇襲しなければならないところ、途中の岩崎城など小城の攻撃に時間を費やしており、家康の軍勢に捕捉されました。この点では海道一の弓取りの家康の敵ではなかったとの見方もあります。

 

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