NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が2022年9月4日に第34回「理想の結婚」を放送しました。北条義時と伊賀の方(のえ)の結婚となりますが、八重や姫の前(比奈)よりも理想とは想像しにくいです。裏表ぶりは乙女ゲームの悪役令嬢のようです。伊賀の方は義時の最後の妻となりますが、藤原定家の日記『明月記』では伊賀の方が義時を毒殺したとの説を載せています。
北条泰時は父親の再婚に反発します。『鎌倉殿の13人』では存在感が薄いですが、実際は父親への反発は義時と姫の前の長男の朝時が強く抱いていたでしょう。朝時の子孫の名越流は得宗家に反抗的で宮騒動や二月騒動と謀反を企てたとされました。
北条義時の没後には伊賀氏の変が起きます。伊賀の方が義時と伊賀の方の子の政村の執権就任や娘婿・一条実雅の将軍就任を画策したとされます。しかし、北条政子の権力維持のための冤罪との見方が強いです。この見方では政子が暴走し、泰時が収める側に回ったとします。これに対して『鎌倉殿の13人』の泰時の反発ぶりでは、『鎌倉殿の13人』が伊賀氏の変までを放送したとしたら、泰時が伊賀氏の変を主導しそうです。
「理想の結婚」では源実朝の結婚も進みます。『吾妻鏡』では足利義兼の娘が御台所になる予定でしたが、実朝が拒否したとされます。実朝が公家の娘を御台所としたいと主張したとする描かれ方もありますが、『鎌倉殿の13人』では北条時政と牧の方(りく)に押し付けられたものでした。実朝はこれで良いのかと悩む立場です。これも理想の結婚とは程遠いです。
「理想の結婚」では畠山重忠の乱や牧氏事件の下地が作られていきます。北条時政は賄賂をもらって裁判を捻じ曲げます。典型的な腐敗・汚職です。本人が不公正なコネ政治に罪悪感を抱いていないことが絶望的です。時政追放が文官や御家人達の支持を背景としてなされたものと描かれるでしょう。
畠山重忠との対立は武蔵国支配権をめぐるものと明確に描かれます。時政は重忠に武蔵国留守所惣検校職を返上させようとします。重忠は武蔵守となるとしても惣検校職を返上することには抵抗します。
ここには律令制の官位の武蔵守よりも武蔵国の武士団の統率権や監督権を持つ惣検校職に価値があることを示します。源頼朝が鎌倉幕府を開く前から律令制の支配体制は形がい化しており、武士の時代が来ていました。
畠山重忠の乱や牧氏事件は時政が後継者として期待していた牧の方(りく)との実子の政範が急死し、代わりに娘婿の平賀朝雅に期待するようになったことが背景にあります。「理想の結婚」では朝廷が朝雅の野心を煽り、政範を毒殺したように受け取れる描き方をしました。これは斬新です。
時政と牧の方は愛息の政範が急死したことで暴走した、畠山重忠の冤罪も政範急死のやりきれなさを重忠にぶつけたものと描かれる傾向がありました。実は朝廷の掌で踊らされたという見方が出てきます。『鎌倉殿の13人』では追放された源頼家にも朝廷は接近しており、それが頼家殺害の理由になりました。
また、朝雅は時政の野心に担がれて巻き込まれた人というイメージがありました。これに対して『鎌倉殿の13人』では自身が政範に代わる野心を抱くような描かれ方です。
朝雅は京都で後鳥羽上皇に仕えていました。鎌倉幕府の御家人でありながら、院近臣という立場でした。牧氏事件で鎌倉幕府側に討たれます。後鳥羽上皇としては自分の近臣が鎌倉幕府によって勝手に討たれたことになり、鎌倉幕府を動かす北条氏への憎しみを強めます。しかし、朝雅が野心を持つようになったこと自体が朝廷の陰謀ならば文句を言えないことになります。承久の乱が起きる前から朝廷と幕府の暗闘は水面下で始まっています。
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