池袋母子死亡事故の飯塚幸三元院長を自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の疑いで書類送検する方針と報道されました(「池袋母子死亡、来週にも書類送検 元院長、過失致死傷容疑」共同通信2019年11月8日、「池袋暴走事故、元院長を来週にも書類送検へ」TBS 2019年11月8日)。旧通産省工業技術院の元院長(当時87歳)は2019年4月に東京都豊島区の池袋駅近くで自動車を運転中に、その車が約150メートルも暴走し、松永真菜さん(31)と娘の莉子ちゃん(3)が亡くなり、10人が負傷しました。事故時はアクセルを完全に踏み込んだ状態でブレーキを踏んだ形跡がなかったとされます。
事故の重大性に対して、警察の対応に疑問が寄せられました。勲章授与の元公務員だから逮捕されないのかと上級国民批判になりました。遺族は元院長の厳罰を求める署名を集めました。私も署名した一人です。過去に警察の体質が大きく批判された事件に埼玉県警の桶川ストーカー殺人事件があります。この事件もストーカー被害者よりも、今風に言えば半グレ的な存在に味方するような埼玉県警の対応が批判されました。
警察による身柄拘束は人権への重大な制約であり、慎重に行われなければなりません。日本国憲法第33条は「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない」と定めています。証拠隠滅や逃亡の恐れがなければ逮捕されないことが原則です。しかし、この原則は民間の市民には形骸化している残念な現実があります。裁判所の令状発行も自動発券機と揶揄されています。民間の市民が同様の事故を起こせば、証拠隠滅や逃亡の恐れがなくても逮捕されるでしょう。この不公平さ、相互主義のなさが問題です。
警察や検察の裁量の幅の大きさ、説明責任の無視が冤罪や不当逮捕を生んでいる。私は痴漢冤罪が問題になった新宿署違法捜査憤死事件国賠訴訟では以下のコメントをしました。「この裁判で警察の決めつけ捜査が浮き彫りになりました。そして、それをごまかそう、なかったことにしようという工作が明らかになった。裁判所は行政に寄り添って国民の声に耳を傾けない」(上田眞実「新宿署、痴漢冤罪めぐる証拠隠蔽・改竄工作が発覚…違法捜査受けた男性は直後に死亡」ビジネスジャーナル2016年3月30日)。元官僚に厳罰を求めることと、冤罪をなくすことや被疑者被告人の人権を擁護することは重なります。