安倍晋三首相は2020年8月28日、持病の潰瘍性大腸炎が悪化したことなどから国政に支障が出る事態は避けたいとして、総理大臣を辞任する意向を表明しました。メディアは長期政権となった安倍政権を振り返っています。あまりメディアは取り上げていませんが、働き方改革は政権支持・不支持に関わりなく、功績と評価できるでしょう。
民間で働く人の感覚からすると働き方改革によって格段に働きやすくなりました。政治のメッセージによる生活の変化を実感しました。働き方改革は在宅勤務(テレワーク)を推進しました。ここでテレワークに取り組んでいた企業はコロナ禍の強制テレワークにもスムーズに対応できました。
働き方改革は安倍首相個人のカラーが出た政策です。働き方改革実現会議「働き方改革実行計画概要」(2017年3月28日)は「長時間労働を自慢するかのような風潮が蔓延・常識化している現状を変えていく」を掲げました。これは面白い表現です。長時間労働が問題ならば労働時間の短縮が政策目標になります。長時間労働そのものではなく、長時間労働を自慢する風潮を変えていくとします。
安倍首相は会社員時代に付き合い残業を全くせず、上司に揶揄されるほどでした。付き合い残業を下らないと考える人ならではの発想です。この点が野党と噛み合わなかったところです。野党は労働時間の規制強化を求めました。これは長時間労働の規制にはなりますが、長時間労働を自慢するかのような風潮を変えるという問題意識には応えません。
働き方改革と称される施策の中には民間で働く人からすると逆に迷惑と感じるものもあります。一律の労働時間規制が該当します。企業内の施策ではノー残業デーや8時消灯があります。これらは「今日は勢いに乗っているから9時までぶっ続けで仕事しよう」という働き方の制約になります。
一律に規制する公務員的発想は有害です。根本問題は産業が高度化したにもかかわらず、工場労働者に最適化された画一的な労務管理が継続しており、それが不適合になっていることです。それが合わない人に別の選択肢を可能にすることが求められています。このニーズに応えることが真の働き方改革になります。この点は政権を継承する側も政権を批判する側も考えて欲しいところです。
野党の求める厳格な労働時間規制も長時間労働で過労死する人がいることを踏まえると意味のあるものです。その反面、昭和の工場労働者的な集団労働に窮屈さを感じ、自由度の高い働き方を求める労働者の問題意識を全く理解しようとしない傾向が感じられます(林田力「東京都知事選挙の投票依頼電話」ALIS 2020年7月4日)。
安倍首相の辞任に対して、石垣のりこ参議院議員が「大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物」とツイートしたことが批判を集めています。まるで体の不調は精神論根性論で乗り越えられるとする昭和の体質です。
病気を抱える人を「大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物」とラベリングすることがノーマライゼーションと逆行します。ブラック企業経営者の人事評価と親和性があります。野党議員にこのようなメンタリティがあることは、安倍政権だからメンタルヘルスの取り組みを含む働き方改革が進展したとの評価になるでしょう。
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