NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第36回「武士の鑑」の最後に次回のタイトルが「オンベレブンビンバ」と発表されました。オンベレブンビンバは謎の言葉です。SNSではイタリア語のombre per un bimboではないかとの指摘があります。
「ombre」は影です。影は多義的です。「光と影」のようにマイナスの意味で使われます。一方で影には寄り添う存在や庇護者という意味でも使われます。
「per」は英語のforに相当します。「un」は不定冠詞で、英語の「a」に相当します。「bimbo」は幼児です。このため、幼児にとっての影という意味になります。
「bimbo」は子どもと訳されますが、イタリア語ではもう少し年上の少年にはbambinoという言葉があります。年齢的には大人に対しても若造や青二才の意味でbambinoが使われます。せきやてつじの料理漫画『バンビーノ』は、この意味になります。
「bimbo」というイタリア語は外国にも知られ、英語では外見やお喋りは魅力的であるが、知性が低い女性という意味に使われます。英語でbabyが女性を指すことにも使われますが、それと似たような感覚です。そのように英語で使われていることはイタリアでも認識されています。
「オンベレブンビンバ」がombre per un bimboであるとするとbimboとombreが誰を指すかが気になります。
「bimbo」が子どもとすると北条時政にとっての義時や政子、時房と政子にとっての源実朝、義時にとっての泰時がしっくりします。この場合の影は各々の親です。時政の場合はマイナス面の影の意味が強くなります。良くも悪くも寄り添う存在という意味になります。政子や義時が親の場合は、影は庇護者の意味になります。子どもの将来を守るために害悪となった時政と牧の方を追放します。
一つのサブタイトルが複数のシーンに該当することは『鎌倉殿の13人』の定番です。第34回「理想の結婚」は義時と実朝の二組の結婚話が描かれました。第35回「苦い盃」は平賀朝雅が北条政範を毒殺した盃、義時が畠山重忠と飲み、重忠から誰が除くべき害悪か「あなたには分かっている」と言われる苦い盃が描かれます。
「bimbo」を語義通り幼児とすると、義時や政子、時房、実朝は当てはまりません。親から見れば子どもは何歳になっても「bimbo」になるでしょうか。
ドラマではまだ登場していませんが、畠山重忠が討伐された元久2年6月22日は義時と伊賀の方の子どもである北条政村が誕生しました。吾妻鏡では義時は政村を可愛がっていたとします。右腕として頼りにしており、耳の痛い意見も言う泰時と異なり、純粋に可愛がることができる存在だったのでしょう。まだ登場していませんが、「bimbo」の語義からは政村がすっきりします。
因みに『鎌倉殿の13人』では上総広常が誅殺された寿永2年12月20日に義時の長男の泰時が誕生した設定です。赤ん坊の泰時の泣き声は「ぶえーぶえー」と聞こえますが、これは広常の頼朝の呼び名「武衛」と重なりました。政村も因縁めいたことが描かれるでしょうか。
「bimbo」を英語圏で使われている意味とすると、牧の方がしっくりします。この場合の影は時政で、寄り添う存在となります。時政は牧の方のやり方ではダメだと分かっていながら、自分だけは味方にならなければならないと行動するかもしれません。ただ、これは牧の方を悪者にすることで時政の害を軽くする北条氏に都合の良い吾妻鏡の歴史観に沿ったものになります。
牧の方は梶原景時の変では陰謀家として鮮やかな手腕を見せました。源頼朝退場後のラスボスとしての存在感を見せつけました。しかし、息子の政範急死後の対応は朝廷の陰謀に踊らされているだけです。畠山重忠が武蔵国二俣川で陣を敷いた時の対応では、「戦のことを分かっていない」扱いをされました。
承久の乱で北条政子が「鎌倉殿の恩顧は山よりも深く、海よりも高い。京方について鎌倉を攻めるのか、鎌倉方について京方を攻めるのか、ありのままに申し出よ」と演説しました。この時に「朝廷の軍勢は手強い。尼御台は戦を分かっていない」と言うような御家人はいませんでした。
牧の方は敵としても格が落ちています。牧氏事件は時政と牧の方が実朝を廃して、平賀朝雅を新将軍として擁立しようとする陰謀を企てたとします。しかし、これは比企能員の変、畠山重忠の乱と同じで、実際に陰謀があった訳ではなく、義時と政子が時政を追放する大義名分として陰謀を創出したとする見解が有力です。
これに対して『鎌倉殿の13人』が牧の方を強敵に見せる場合は、本当に陰謀を企てるかもしれません。とはいえ、朝雅自体が朝廷に踊らされており、牧の方がどれほど策をめぐらせても、朝廷を喜ばせる結果になります。ラスボスには相応しくありません。
『鎌倉殿の13人』第31回「諦めの悪い男」分割相続否定の強欲
『鎌倉殿の13人』第32回「災いの種」ブラックになる北条義時
『鎌倉殿の13人』第33回「修善寺」承久の乱につながる対立軸
『鎌倉殿の13人』第34回「理想の結婚」伊賀の方は悪役令嬢
『鎌倉殿の13人』第35回「苦い盃」畠山重忠の冤罪
『鎌倉殿の13人』第36回「武士の鑑」冤罪の追及にも陰謀が必要