第71回紅白歌合戦(2020年12月31日)はAKB48が落選する一方で乃木坂46、櫻坂46、日向坂46の坂道グループが出場し、時代の変化を感じさせるものになりました。私の注目は乃木坂46『Route246』です。
『Route246』(2020年)は秋元康作詞、小室哲哉作曲の配信限定シングルです。ルート・ツー・フォーティシックスと発音します。小室哲哉さんの復帰作です。引退を表明した小室さんが秋元康プロデューサーからの要請に応える形で楽曲を提供しました。
1990年代のTKサウンドと言っても通用しそうな曲です。2020年のアイドルグループの乃木坂46をTKサウンドに染め上げました。TKサウンドは不滅と感じます。テンポは速くても、能天気な前向きな明るさだけでない陰影があり、乃木坂46に詳しくない就職氷河期世代にも刺さります。
歌詞は英語が多いです。この点もTKサウンドらしいです。Hang in thereはハーゲンダッツと聴こえます。乃木坂46では『シンクロニシティ』のKeep goingも木こりと聴こえました。
歌詞の意味的にはどうなのかと感じるところがあります。これも良くも悪くも詩の意味よりもサウンド先行というTKサウンドらしさがあります。過去を忘れて人は進化するという趣旨には苦笑いしたくなります。それがエールになると思っているとすれば、御都合主義を感じます。むしろ、KEIKOの歌唱力で聴きたい歌です。
繰り返されるフレーズにHang in thereがあります。これは日本語の「頑張れ」にニュアンス的に近いです。直訳すれば「しがみつけ」となります。頑張れ相当の英語と言えばGood luckをまず思い浮かべます。これは「幸運があるように」ということで日本語の「頑張れ」とは発想が異なります。英語圏ならではの表現です。これに対してHang in thereは日本語の「頑張れ」にハマります。昭和のガンバリズムの先祖帰りを警戒したくなります。
『Route246』は乃木坂46最大の配信ヒット曲であり、紅白歌合戦で歌われることは当然と言えば当然ですが、乃木坂46らしからぬTKサウンドという点では面白いです。紅白歌合戦は現在のヒット曲と演歌ということで、JPOP黄金期の就職氷河期世代が一番外されている感がありますが、その層に応える曲になります。
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AKB48黄金時代