2016年7月26日に相模原障害者施設殺傷事件が起きました。神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が殺害されました。犯人が特定の人々は殺した方が良いと命を選別する思想を持っていたことが強い衝撃を与えました。
犯人の思想を批判する意見が各所から出されましたが、逆に事件が命の選別思想を社会に拡散する契機になるのではないかと憂う声も出ました。「パンドラの箱が開けられてしまった」ことを示すタイトルの書籍も出版されました(月刊『創』編集部編『開けられたパンドラの箱』創出版、2018年)。
残念なことに事件から4年後の2020年7月は命の選別思想が日本社会に拡散していることを示す出来事が相次ぎました。最初に「れいわ新選組」大西つねきさんの「命の選別」発言です(林田力「れいわ新選組が命の選別発言の大西つねきさんを除籍処分」ALIS 2020年7月18日)。
大西発言は優生思想と批判されました。これに対して大西さんは記者会見で自分の思想が優生思想でないことの説明に時間を費やしています。実は相模原事件の犯人も優生思想を知らなかったとされます(「植松被告は優生思想もヘイトクライムも知らなかった やまゆり園事件から2年」AERA 2018年7月16日号)。優生思想の繋がらないところでも車輪の再発明のように命を選別する思想が生まれてしまうことが恐ろしいです。
続いて京都で筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性を殺害した容疑で医師が逮捕される事件が起きました。この医師も死なせる思想を持っていました(林田力「医師嘱託殺人は危険ドラッグ売人レベル」ALIS 2020年7月26日)。
最後はRADWIMPSのボーカルの野田洋次郎さんのツイートです。「前も話したかもだけど大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる」。このツイートは7月16日付ですが、25日に注目されて炎上しました。
野田さんはロックバンドRADWIMPSのボーカルです。野田さんを知らない方でも、野田さんが歌っているアニメ映画『君の名は。』の挿入曲『前前前世』を聞いたことはあるのではないでしょうか。『前前前世』は運命決定論の影響を感じます。それが遺伝子信仰になるのでしょうか。
これらからは個人を立脚点とするのではなく、社会を良くしたいという全体主義的な動機が命の選別思想につながると感じています。日本では右翼は「滅私奉公」、左翼は「一人は皆のために」とどちらも全体主義的傾向があります(林田力「フード左翼とフード右翼」ALIS 2020年4月25日)。
これに対して昭和の価値観とは異なる生き方を選択した人々を取り上げた記事には「利己的だからこそ社会に貢献したいと思う人が増えている」とあります(秋場大輔「ヤメ銀 銀行マンは絶滅するのか」週刊文春2020年7月16日号45頁)。社会全体ではなく、個々人から考えることが大切と感じます。
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