福澤徹三『白日の鴉』(光文社、2015年)は痴漢冤罪事件と貧困ビジネスを扱う警察小説です。タイトルはイソップの寓話『おしゃれなからす』に由来します。製薬会社MRの友永孝は痴漢冤罪で逮捕されました。友永は見知らぬ男女から電車内での痴漢の疑いをかけられて駅から逃走し、駅前交番の新人巡査である新田真人に取り押さえられました。
友永は否認し続けます。否認し続けることは中々できることではありません。決めつけの捜査で自白を強要し、冤罪を作る日本の刑事司法の仕組みが描かれます。実はタイトルを『自白の鴉』と読み違いしていましたが、自白してしまう話ではありません。冤罪をテーマにしたドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』の主題歌も『白日』でした。これも自白や白目に間違えられがちです。
その後、真人は被害者の女子大生と目撃者の男性が親密そうな関係であるところを見ました。本来ならば警察内部で捜査をやり直さなければなりません。しかし、硬直した警察組織は見直すことができません。この点は現実の多くの冤罪事件と同じです。非を認めて修正することができません。そこで真人は五味陣介弁護士に協力を求めます。ここはフィクションならではの展開です。現実の警察官に真人のような正義感を期待できるでしょうか。
調べるうちに病院の陰謀が浮かび上がります。生活保護受給者を食い物にする貧困ビジネスでした。貧困ビジネスが犯罪を行い、他人を罪に陥れます。犯罪者でありながら、他人を陥れる為に警察を利用します。ヤクザがチンコロするようなもので、悪の美学さえありません。その醜さは貧困者を搾取する貧困ビジネスとマッチしています。
悪の側の破滅の遠因を遡れば、手術の失敗を押し付けたことでした。そのせいで調査する人が出てきました。しかし、日本の医療の現実は、もっと深刻です。第三者が死因を明らかにしようという文化が欠乏しています。失敗しても他人に責任を押し付けるまでもなく済まされてしまうこともあり得ます。
『白日の鴉』はテレビドラマ化されました。テレビ朝日が2018年1月11日に放送しました。このドラマの警察署は、さいたま市中央区役所が使われました。中央区役所は『相棒 season17』「刑事一人」(2018年12月12日)でも警察署として使われました。外国人へのヘイトクライムと半グレの味方をするような所轄警察署の杜撰な捜査の話です。公務員組織にとって反面教師となるロケの使われ方です。