前回、記事にしたアリババグループの動きなどに代表されるように、ひとつひとつの企業が多様な取り組みを展開することがブロックチェーンの普及には欠かせませんね。
そうした動きと同時に、企業同士の連携や業界団体、官民協働組織などが果たす役割もまた大きいものだと思います。
とりわけ、伝統的な金融機関である銀行や証券会社などが、業界全体として新たな技術を導入していくためには、業界団体の動きが大切だろうと感じています。
今回は、中国の銀行の業界団体がブロックチェーンを活用したプラットフォームの運用を開始したということで、少し書き留めておきたいと思います。
・HSBCが「中國貿易金融跨行交易區塊鏈平台」に参加
・プラットフォームの内容は?
・これからの銀行業をどう変えていく?
台湾の大衆紙「聯合報」のニュースサイトが2019年1月4日に掲載した記事によると、ロンドンに本社を置く「匯豐銀行(HSBC)」の中国本店が、外資系銀行として唯一、「中国銀行業協会(中国银行业协会)」が運用を開始した「中国貿易金融銀行間取引ブロックチェーンプラットフォーム(中国贸易金融跨行交易区块链平台)」の創業メンバーになるということです。
今回のプラットフォームへの参加について、HSBC中国の副社長(副行長)である方嘯さんは以下のように語ったそうです。
「中国貿易金融銀行間取引ブロックチェーンプラットフォーム」のローンチは、異なる銀行の貿易取引を「チェーン」でつないで、銀行間取引のスピードを大きく改善し、安全性と信憑性などもまた大幅に向上させる。
(「中國貿易金融跨行交易區塊鏈平台」的上線,把不同銀行的貿易交易「鏈」接了起來,使得跨行交易大為提速,安全性和真實性等,也獲得大幅提升。)
銀行間取引のバージョンアップをブロックチェーンの特性を活用することによって果たすことがイメージされていることがうかがえますね。
HSBCは外資系銀行とはいえ、イギリスの香港統治や上海租界地での営業に始まり、中国大陸に多くの支店を持つ銀行ですから、今回のプラットフォーム参加によるメリットの大きさがここに示されているように感じます。
記事中、プラットフォームの特性については以下のように説明されています。
「中国銀行業協会」が次世代の情報技術の原動力として開設準備を進めてきた「中国貿易金融銀行間取引ブロックチェーンプラットフォーム」は2018年12月29日に正式ローンチした。
(「中國銀行業協會」以新一代信息技術驅動,統籌建設的「中國貿易金融跨行交易區塊鏈平台」於2018年12月29日正式上線運行。)
もうすでに「正式ローンチ(正式上線運行)」したというところが注目されますね。
中国銀行業協会の公式ウェブサイトには2018年12月29日付で、プラットフォームの正式ローンチについてのリリースが掲載されています。
まず、リリースにはプラットフォームが目指すビジョンについて、以下のように説明されています。
プラットフォームは銀行間の貿易金融商品取引情報の標準化、電子化、スマート化を実現し、新たな貿易金融エコシステムを構築し、金融サービスの効率を向上させるための重要な基礎を作り上げる。
(平台实现了银行间贸易金融产品交易信息的标准化、电子化和智能化,为打造全新的贸易金融生态圈,提升金融服务效率奠定了重要的基础。)
単なる金融サービスの効率化だけではなく、「貿易金融エコシステム(贸易金融生态圈)」の構築までを視野に入れているところが目を引きますね。
今回のプラットフォームを構築した中国銀行業協会は、公式サイトの説明によれば、2000年5月に成立した「中国銀行業の自主組織(中国银行业自律组织)」で、2018年11月時点で699の銀行・金融機関が会員として加入しているということです。
協会に加入している銀行のうち、プラットフォーム構築を進めてきた銀行は以下のとおりと説明されています。
(中国の簡体字から想像しにくい銀行名のみ、日本語表記を示しています)
国家开发银行(国家開発銀行)、中国工商银行、中国农业银行(中国農業銀行)、中国银行、中国建设银行、交通银行、招商银行、中信银行、中国光大银行、中国民生银行、上海浦东发展银行(上海浦東発展銀行)、中国邮政储蓄银行(中国郵政備蓄銀行)、平安银行、汇丰银行(中国)(HSBC)
これらの銀行のうち、プラットフォームのローンチに合わせて、「中国工商銀行」と「招商銀行」は「銀行間の国内信用状のオンチェーン実証実験を初めて完了した(完成了首笔跨行国内信用证链上验证)」ということです。
また、2019年には中小規模の銀行のプラットフォーム加入を積極的に進めていくと同時に、収税や税関業務を管轄する機関との連携を強化していくと言及されています。
銀行間のプラットフォームとして正式に運用を進めていくと同時に、関係機関との連携も進めていくことによって、伝統的な金融業務への応用を積極的に進めていく姿勢がうかがえますね。
ブロックチェーンなどの新たな技術が新たなサービスを生み出していく動きというのは大切だと思いますが、既存のシステムにどれだけ導入されていくかということも、技術が社会実装されていくためには必要なことだと思います。
もちろん、既存のシステムへの導入はさまざまな点でハードルが高く、なかなか普及が進まないという課題も抱えているでしょう。
そうしたなかで、業界団体が積極的にブロックチェーンの導入を進め、共同活用できるプラットフォームを提供するという動きは、技術が普及していくための重要な動きとして注目されます。
今回のような取り組みは一見すると、エンドユーザーにとってはブロックチェーンが使われているということが実感しにくいものになるかもしれません。
ただ、それとはわからない形でユーザーが利益を享受するような形が技術の社会実装の理想形だろうと思いますので、今回の取り組みはそのひとつになりうるのかなと感じます。
こうした取り組みが実際の銀行業務にどのように反映されていくのか…これからの動きに注目しながら、コツコツと情報を追いかけていきたいと思います!