2020年1月11日、台湾で行われた総統選挙・立法委員選挙はともに、与党・民進党の勝利と野党・国民党の敗北に終わりました。
この記事では選挙の結果について、台湾の中央選挙委員会が公表した数字をもとにしながらまとめたうえで、台湾のブロックチェーンをめぐる動向との関連について少しだけ書き留めておきたいと思います。
ちなみに、今回の選挙の基本的な情報については以下の記事にまとめましたので、合わせて読んでいただければ嬉しいです!
・総統選挙の結果は?
・立法委員選挙の結果は?
・ブロックチェーンと関わりの深い立法委員は?
・今回の選挙結果をどう見る?
総統選挙の結果については日本語で読める情報もいろいろと出てくると思いますので、ここでは選挙結果についてサラッと書き留めておきます。
台湾で行われる選挙を管理している中央選挙委員会の以下のページに公表されている総統選挙の結果は、以下のとおりです。
民主進歩党(民進党、蔡英文・頼清徳):817万186票(57.13%)
中国国民党(国民党、韓国瑜・張善政):552万2119票(38.61%)
親民党(宋楚瑜・余湘):60万8590票(4.25%)
なお、投票率は74.90%でした。(有権者数1931万1105人、投票者数1446万4571人)
特に、蔡英文・頼清徳の民進党ペアの得票数は、これまで過去最高だった2008年の馬英九・蕭萬長の国民党ペアの得票数(765万9014票)を大幅に超える結果となりました。
現職総統の蔡英文さんが初当選を果たした前回、2016年の選挙結果と比べると…
民進党(蔡英文・陳建仁):689万4744票(56.12%)
国民党(朱立倫・王如玄):381万3365票(31.04%)
親民党(宋楚瑜・徐欣瑩):157万6861票(12.84%)
得票率の変化を見ると、民進党はほぼ変わらず、国民党が親民党の獲得票を大きく奪った結果になったことがわかります。
ただ、冒頭に挙げた前回記事でも触れましたが、蔡英文政権は継続的な支持率下落や2018年の統一地方選挙での大敗を経験しています。
そのことを思うと、この1年ほど、実質は2019年後半からの半年ほどで蔡英文政権が支持率を急回復させてこの結果に結びつけたというのは、これまでの台湾の総統選の歴史から考えても劇的な展開だったのではないかと思います。
今回の選挙、総統選挙は選挙活動が本格化したこの1か月のうちにほぼ趨勢が決していたようでしたが、他方で、立法委員選挙のほうはどんな結果が出るのかを予想することが難しく、総統選挙とは違う意味で注目を集めていました。
こちらについても、上にリンクを貼った中央選挙委員会のページに投票結果が公表されていますので、各政党の獲得議席をまとめておきたいと思います。
民進党:61議席(2016年:68議席)
国民党:38議席(同:35議席)
台湾民衆党:5議席(初)
時代力量:3議席(同:5議席)
台湾基進:1議席(初)
無所属:5議席
立法院の総議席数は113で、57議席以上で過半数を得ることになるのですが、前回2016年の選挙に引き続き、民進党は過半数を超えた議席を獲得しました。
以下の記事でも触れられていますように、選挙戦が始まった2019年12月の時点では、民進党・国民党ともに過半数の議席を超えることは難しいのではないかという観測が出ていました。
結果、民進党は議席を減らしながらも過半数をなんとか超えたことで、蔡英文政権とともに、引き続き与党としての安定的な立場を確保したと言えます。
他方、国民党は若干議席数を増やしたとはいえ、民進党を過半数割れに追い込むこともできず、2018年の統一地方選挙での勝利も霞むような結果となってしまい、国民党主席の呉敦義さんをはじめ、党の幹部が一斉に党ポスト辞任の意向を表明しました。
また、二大政党の過半数割れによってキャスティングボードを握るのではないかと予想されていた「第三勢力」の各政党も、民進党の過半数越えによって、期待されていたほどの躍進を見せることはできなかったと言えそうです。
とりわけ、総統選挙への出馬を断念した台北市長の柯文哲さんが結成した台湾民衆党は比例代表で約158万票、11.22%の得票率を獲得し、初めての国政選挙で民進党と国民党に次ぐ票を獲得しましたが、小選挙区では議席を得ることができませんでした。
他方、初めての国政選挙である2016年の選挙で5議席を獲得し、民進党政権に対して是々非々の姿勢で臨みながらも、2名の立法委員が離党して解党の危機に直面していた時代力量は、比例代表でなんとか現状の3議席を確保して解党を免れました。
そのほか、台湾基進が小選挙区で1議席を確保したのに対し、これまで立法院に議席を持っていた親民党は議席を確保することができませんでした。
(ただし、親民党は比例代表で政党補助金を受ける資格のある得票率3%をなんとか超えることができました)
結果として、立法院の勢力構図はほぼ変わらず、民進党を中心とする体制が継続することになったと言うことができます。
今回の選挙結果についての分析はこれからいろいろと出てくると思いますが、それはそれとして、ここでは僕がこれまでにALISで記事を書いてきた内容との関わりから少し触れておきたいことがあります。
それは、台湾のブロックチェーン・仮想通貨に関する政策を積極的に進めてきた立法委員の動向についてです。
なかでも、以下の記事にまとめていますように、僕がたびたびALISで記事にしてきた国民党の立法委員である許毓仁さんの動向が気になっていました。
ここに挙げた記事からもわかりますように、許毓仁さんは世界のブロックチェーン・仮想通貨の主要人物とつながりを持ち、間違いなく台湾におけるキープレイヤーのひとりなのですが、残念ながら許毓仁さんは今回の立法委員選挙には立候補しなかったようです。
台湾のテック系ニュースサイト「INSIDE」は2020年1月5日に、許毓仁さんへのインタビュー記事を掲載しています。
記事のタイトルに「許毓仁畢業感言」、日本語に訳すと「許毓仁卒業の思い」となるように、立法委員を「卒業」することにしたようです。
この記事のなかで、許毓仁さんはこれからの身の振り方について、以下のように述べたそうです。
少し疲れたので、ちょっと休みたいです。立法院の会期が終わったら海外に行って少し休み、台湾に戻ってきたらNPOを作り、科学技術に関する立法を継続して推し進めたいと思います。この時間の時にはあまり考えてはいませんでしたが、選挙に勝つかどうかに関わらず、科学技術政策の立法は変わらず推進していき、これからは他の国会議員の求めに応じて政府と民間の架け橋になりたいと思っています。
(我暫時累了啦,想沈澱一下,會期結束我就會出國沈澱一下,回來可能會成立非營利組織,繼續推科技立法。這個時間點我也沒太多設想;不管有沒有勝選,都會繼續推動科技政策立法,只要未來有其他國會議員需要,我還是會扮演政府、民間之間的橋樑。)
僕の記事でも書き留めてきましたが、許毓仁さんはこれまでの4年間の任期のあいだに、仮想通貨取引に関する法制度の整備や業界団体の結成を進めてきました。
また、イーサリアム開発者のVitalik ButerinやBinance創設者のCZ(趙長鵬)を台湾のイベントに招待するなど、台湾のブロックチェーン・仮想通貨をめぐる環境整備と裾野の拡大を果たしてきました。
許毓仁さん自身はこれから、立法委員としての経験を活かしながらより一層、台湾のブロックチェーン・仮想通貨の地位向上に尽力していくでしょうし、許毓仁さんが整備した環境のもとで、他の立法委員がさらなる状況改善を担ってくれるだろうと思います。
これからは、新たなキーパーソンの登場を待ちたいところですね。
今回の総統・立法委員選挙は、結果としては2016年以降続いてきた蔡英文・民進党政権の継続を台湾の人々が選択したと言えると思います。
ただ、この4年間、民進党と国民党とのあいだを行き来した支持と期待の振れ幅の大きさ踏まえれば、今回の一見すると「安定的」な結果は同時に、台湾の人々や台湾社会が感じている「不安」もまた含み込んだものだと見ることができるだろうとも思います。
それは、直近の国際的な動きとしては、香港における抵抗運動の展開や、アメリカと中国とのあいだに生じている「冷戦的構造」などが影響していると言えますが、同時に、そうした状況に敏感に反応する台湾の人々の歴史や生活もまた反映されていると言えます。
「大国の狭間」に生きる場を模索してきた台湾の人々は、そうした「自分たちの場所」をいかに確保するかということに注力してきました。
あるいは、そうしたことに注力せざるを得ない立場に追い込まれてきましたし、今も変わらずそうした立場に追い込まれています。
そうした意味で、今回の選択は「大国の狭間」における「自分たちの場所」を確保しなければならないという意思が明確に示された結果だということもできるのではないかなと感じました。
台湾におけるブロックチェーン・仮想通貨の動向と合わせて、今回の選挙結果が生み出す動きをコツコツと追いかけていきたいと思います!