台湾では台北市をはじめ、南部の高雄市や中部の台中市で「智慧城市(スマートシティ)」実現に向けた取り組みを進めている、もしくは関心があるといわれています。
こうした都市単位の動きに大きく関わると思われるのが、今年2018年11月に実施される統一地方選挙(首長および地方議会)です。
僕の記事でも以下のように、統一地方選挙に立候補を考えている人々のブロックチェーン・仮想通貨に関する考え方や取り組みについて書き留めてきました。
今回は、8月末で立候補者の届け出が締め切られ、台北市長選に出馬する立候補者が確定すると同時に、ブロックチェーンに対する見解を公表した候補者が目に留まりましたので、記事として書き留めておきたいと思います。
・台北市長選の候補者が確定
・OTCBTCの鄭伊廷さんは出馬せず
・民進党の姚文智さんはブロックチェーン導入に積極的?
・選挙戦はブロックチェーンの観点からも注目
2018年11月に実施される台北市長選挙の立候補届出が8月31日で締め切られ、現職を含む以下の5名が届け出たことを、台湾の報道機関「中央通訊社」が伝えています。
柯文哲さん(無所属、現職)
丁守中さん(国民党)
姚文智さん(民進党)
李錫錕さん(無所属)
吳蕚洋さん(無所属)
このうち、現職の柯文哲さんに対して、二大政党の公認候補である丁守中さんと姚文智さんが挑む構図で選挙戦が進んでいくと予想されています。
冒頭に挙げた僕の記事でも触れましたが、2018年4月に台北市長選への出馬を自らのFacebookページで公表し、「フィンテックの活性化」を掲げていた、仮想通貨取引所の「OTCBTC」の創業者でCEOの鄭伊廷さんは、結局、立候補の届け出をしなかったようです。
この点について、鄭伊廷さんは立候補届出締め切りの8月31日に、自らのFacebookページで、立候補の表明から4か月が経つあいだに、台湾でブロックチェーンをめぐる動きがいろいろと立ち上がってきたことに触れて、以下のように立候補の撤回に言及しています。
一直以來,我的初衷,就是希望能用我個人的力量夠幫助台北追上世界競爭局勢,打造一個真的對創業家友善,真的能夠制訂出對產業有利,城市有利,居民有利政策的城市。站上國際一線城市。/我個人覺得在這場選戰中,我當選的機會並不是很大。我是個創業家,創業家往往追求效益最大化。這兩百萬,我一個人花,效果太差。
(立候補を表明して以来、私の本来の目的は、私個人の力を使って台北が世界的な競争に追いついていくことをサポートし、本当に起業家に対して友好的で、本当に産業界に有利で、都市にとっても有利で、住民にも有利な政策を打ち立てるような都市を作り出すことにあった。/私は個人的に、今回の選挙では、私が当選するチャンスは決して大きくないと思っている。私は起業家であり、起業家は往々にして利益の最大化を追い求める。この200万元を、私一人が使ったところで、効果は薄い)
「200万元」というのは立候補にあたって納める供託金の額で、当選の可能性が限りなく低いときに、このお金が無駄になってしまうことは避けたいということが最後の部分に書かれています。
そこで、鄭伊廷さんは出馬を取り下げる代わりに、本来、供託金として納めるつもりだった200万元を、政策に共感できる台北市議会議員選挙の立候補者に寄付する方針を打ち出しています。
僕もコツコツと記事を書いてきましたが、確かに、4月から8月のあいだに台湾のブロックチェーンをめぐる動きは多様に展開されてきていると実感します。
鄭伊廷さんの出馬取り下げは、台湾のブロックチェーン・仮想通貨をめぐる動きが着々と広がってきていることを裏付けているように感じますね。
鄭伊廷さんの出馬取り下げを受けて、ブロックチェーンや仮想通貨、あるいはフィンテックに関する政策を掲げる候補者がいない選挙になるのかというと、必ずしもそうではないようです。
台湾の報道機関である「中央通訊社」の記事によると、民進党から台北市長選に立候補した姚文智さんは、同じ民進党の立法委員である余宛如さんと合同で「前瞻亞太、區塊鏈首都(先進的なアジア太平洋、ブロックチェーンキャピタル)」と題したシンポジウムを2018年8月30日に開催し、ブロックチェーンの活用に言及したようです。
姚文智さんはシンポジウムの席上、ブロックチェーンに底流する「哲學」が、「去中心化(非中央集権化)」にあり、あらゆる情報プラットフォームは単一的ではなく、集中的・権威的であるべきではないと考えていると指摘したうえで、以下のように述べたそうです。
台灣在亞太地區以自由民主人權,建構了台北這個多元共融的城市,「這正是我們要實踐去中心化的信賴機制時最適合的城市」,因此區塊鏈在台北的發展值得去努力,藉由它更深化民主、豐富城市的內涵。
(台湾はアジア太平洋地域において、自由・民主・人権という理念の元、台北という多元的・融合的な都市は成り立っている。「これはまさに、私たちが非中央集権的な信頼メカニズムを実践しようとするには、もっともピッタリな都市であることを示している」。したがって、ブロックチェーンは台北の発展において検討に値するものであり、これによって民主的で、豊かな都市の内実をさらに深めていく)
具体的には、「智慧治理局(スマートガバナンスセクション)」や「數位治理局(デジタルガバナンスセクション)」を台北市の行政機関のなかに設置し、「智慧城市(スマートシティ)」を担う重要部局とするべきだと語ったようです。
このシンポジウムにはブロックチェーンに関する法整備を積極的に進める立法委員の余宛如さんに加えて、「亞太區塊鏈發展協會(アジア太平洋ブロックチェーン発展協会)」の楊國正さんや、ブロックチェーン開発業者の「泰德陽光」の陳洲任さんも登壇しています。
(余宛如さんと亞太區塊鏈發展協會、および泰德陽光の事業については、それぞれ、以下の記事に書き留めています)
こうしたブロックチェーンに前向きな雰囲気のなかで発言された内容ですから、多分に「リップサービス」も含まれているとは思います。
そのうえで、こうした「リップサービス」をすればウケると考えられていることからも、台北における「スマートシティ」の実現と、その方向におけるブロックチェーンの位置づけが重要だと捉えられているように感じます。
今の台北市長である柯文哲さんも、これまでの在任期間中に「スマートシティ」の実現、そのためのIOTAとの提携を表明していますから、選挙戦のなかで「スマートシティ」の実現とブロックチェーンの行政システムへの導入・活用についても議論が交わされるかもしれませんね。
冒頭にも触れたように、「スマートシティ」の実現とそこにおけるブロックチェーンの位置づけをめぐっては、台北市だけではなく高雄市や台中市といった、台湾の第二・第三の都市でも検討や議論がすでに始まっています。
これらの都市の市長選でも、台北市と同様にこれから候補者によるブロックチェーンへの言及が増えていくのではないかと考えています。
それは、選挙戦略や「リップサービス」という側面も多分にあるでしょうから、本当にそれらが実現に向けて動き出していくかどうかは不透明だろうとは思います。
ただ、少なくとも、ブロックチェーンに言及することが選挙戦のなかでプラスに働くだろうと考えられるほどに、台湾の社会のなかでこの新たな技術は少しずつポジティブに捉えられるようになってきているのではないかなと感じます。
文中に挙げたOTCBTCの鄭伊廷さんも述べていたように、僕がこれまでに記事を書いてきたこの4か月のうちに、台湾ではブロックチェーンに関する動きがいろいろ現れてきていますし、メディアに取り上げられる割合も少しずつ増えてきていると実感しています。
本格的に選挙戦が始まるのは10月からですので、そのころには各候補者の政策も出揃うでしょうし、それまでに様々な候補者の発言が報じられるだろうと思います。
市長選だけではなく市議会議員選挙もおこなわれますから、候補者の政策のなかでブロックチェーンや仮想通貨に言及されることも増えるでしょう。
そうした形でブロックチェーンや仮想通貨に対する認知度もいろいろな形で高まっていくだろうと思いますので、こうした動きにも注目しながら、コツコツと情報を追いかけていきたいと思います!
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