台湾ではここのところ、「医療×ブロックチェーン」をめぐる動きが活発になっているように感じます。
以下の記事にも書き留めましたが、病院や保険会社と技術開発を担う企業が提携して、さまざまなシステムの開発・導入が進められています。
今回は、スマホメーカーとして日本でも知られているHTCが病院と提携して、ブロックチェーンなどの技術を活用した新たなシステムを開発したということで、少し書き留めておきたいと思います。
・HTCのDeepQが医療AI対話ロボットを開発
・ブロックチェーンの活用方法は?
・そもそもDeepQって?
・先進技術は医療サービスを変えていくか?
台湾のビジネス系ニュースサイト「數位時代」が2019年1月21日に掲載した記事によると、「HTC(宏逹電)」が台湾中部の彰化にある「彰化基督教醫院」と提携して、医療AI対話ロボットの「蘭醫師」を開発したと公表したそうです。
記事には、今回の取り組みの概要が以下のようにまとめられています。
HTCのDeepQと彰化基督教病院はAI対話ロボット「蘭医師」を公表した。LINEを通じて、高齢者は正確な受診情報を得ることができる。さらに、ブロックチェーン技術を導入し、患者は彰化病院の10の医院をシームレスに往来することができ、転院の煩雑な手続きを省略することができる。
(HTC DeepQ與彰化基督教醫院推出AI聊天機器人「蘭醫師」,只要透過LINE,長輩就能取得正確看診資訊,另外區塊鏈技術導入,病患在彰基的10個院區都能暢行無阻,省下轉院繁雜的手續。)
具体的なサービス内容としては、LINE上で動くbotが受診時の受付状況や受診後の病状や薬についての説明を含む生活へのアドバイスに加えて、AIが転院の必要ありと判断すれば、病院内の各医院の情報を知らせてくれるそうです。
HTC傘下のDeepQと彰化基督教醫院がそれぞれに公表した公式リリースによれば、「蘭醫師」の正式名称は、「蘭先生医療介護対話ロボットLINE Bot(蘭醫師醫療照護對話機器人LINE Bot)」となっていますので、AIを活用したBotサービスであることがわかりますね。
ちなみに、冒頭に挙げた記事によれば、「蘭醫師」という名前は彰化基督教醫院の創設者であるスコットランド人宣教師の「蘭大衛(David Landsborough、デビット・ランズボロー)」さんの名前に由来しているそうです。
(DeepQのリリースに写っているイメージキャラクターも、なんとなくそれっぽい感じになっています)
LINEの普及率が日本と同様に高い台湾にあって、本当に利用されるサービスを目指して作られたのかなと感じます。
「數位時代」の記事によれば、このbotが他の同様サービスと異なる点としてブロックチェーンの活用が挙げられています。
ブロックチェーンの具体的な活用方法については、以下のようにまとめられています。
DeepQのブロックチェーングループは台湾大学やスタンフォード大学と協力し、「マルチレイヤーヘルスケアブロックチェーン」を共同開発した。これは情報をグループ病院間で流通させると同時に、病歴の個人情報のプライバシー保護を両立させるという矛盾を解決することができる。
(DeepQ區塊鏈團隊與台灣大學、史丹佛大學合作,共同開發「多層次醫療區塊鏈」(Multilayer Blockchain for Healthcare)技術,資訊能在院區內流通,但又能同時解決保護病患個資隱私兩者矛盾的衝突。)
この技術については、DeepQのシニアディレクター(資深處長)の鄭志偉さんは、「多層型ファイヤーウォール(有多層防火牆)」のようなものだと言及したうえで、以下のように説明したそうです。
病歴の個人情報は受診した病院に保存され、転院の必要が生じた場合は「鍵」だけを必要な人に渡し、患者情報を指定の病院や問診に利用することができる。
(病患的個資儲存於就診院區,若需要轉院,只有拿到「鑰匙」的授權人,才能將病患資訊傳給指定院區或門診。)
元データの保存と活用を分けることで、情報活用と個人情報保護を両立させていくということのようですね。
また、この技術開発によって、トランザクションを「1秒あたり数千の資料(一秒鐘交換幾千筆資料)」を処理できるように向上させたということで、現状想定されている作業は十分に処理できると説明されています。
さらなるビジネスモデルの開発へと進めていきたいということですので、サービスを活用しながら新たな事業へと発展させていく意図があるようですね。
今回のシステムを開発したDeepQは、上に挙げた「數位記事」では「HTC傘下のヘルスケア事業部のDeepQグループ(宏達電(HTC)旗下健康醫療事業部DeepQ團隊)」と紹介されています。
DeepQの公式ウェブサイトには、事業紹介として以下のような説明が掲げられています。
DeepQは、たとえばコンピュータサイエンス、ソフトウェアエンジニアリング、法令、ユーザーエクスペリエンス、デザインなどの分野横断的な専門家とエンジニアによって構成され、AI、ブロックチェーン、VR /ARの技術や製品の開発によって、先進技術をヘルスケアや臨床応用と融合し、精密医療を少しずつ実現する。
(DeepQ由跨領域專家和工程師所組成,例如電腦科學、軟體工程、法規、使用者經驗、設計等,藉由開發人工智慧、區塊鏈、虛擬實境/擴增實境之技術與產品,將先進技術融合於健康照護及臨床應用中,逐步實現精準醫療。)
HTCといえば、日本ではスマホメーカーとして知られていますが、VR機器の開発にも力を入れていて、「VIVE」というVR専用機器を販売しています。
また、以下の記事にも書き留めましたように、ブロックチェーンスマホ「EXODUS1」の限定販売を始めるなど、先進技術の開発と活用を積極的に進めています。
「數位時代」の記事によれば、DeepQは2016年に創設され、台湾の疫病行政を所管する「衛生福利部疾病管制署(疾管局)」や、台北の馬偕醫院、萬芳醫院、內湖三軍總醫院といった大手病院と提携し、先進技術を活用したシステム開発を進めているということです。
こうした病院でDeepQが開発した技術の導入が進めば、ブロックチェーンなどの社会実装が大きく進展するかもしれませんね。
以下の記事で少し書き留めましたが、HTCは経営的に厳しい局面に立たされていることが報じられることもありました。
そうした状況が積極的な先進技術の開発へとつながっている部分もあるのかなと感じますが、ブロックチェーンスマホの開発は当初の予定通りに製品販売を実現しているなど、新技術の開発を精力的におこなっていることがうかがえます。
また、DeepQが提携している医療機関は、上に挙げたとおり台湾の大手病院が名を連ねています。
冒頭に挙げた僕の過去記事で書き留めた取り組みも、その多くが大手病院によるものですから、医療分野では大規模な医療機関のほうが新技術の導入を積極的に進めているようです。
既存の大きな組織ではなかなか新技術の導入が進まないのでは…というイメージがありますが、案外、大きな規模でブロックチェーンなどの導入が進んでいくのかもしれません。
非常に展開が早い分野だと思いますので、コツコツと情報を追いかけていきたいと思います!