台湾では2018年11月に統一地方選挙があり、主要都市の市長が変わるなど、政治的に大きな変化が起こりました。
(僕もブロックチェーンをめぐる政策を軸に、主要都市の選挙結果について記事にしました。)
とりわけ、台湾南部の大都市である高雄市は、過去20年、現在の政権与党である民進党の地盤でしたが、野党国民党の市長候補が勝利するという大きな動きがありました。
今回は、この新市長の動向としてブロックチェーン・仮想通貨に関する動きが報じられていましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・新高雄市長が「高雄幣」の導入を後押し?
・「高雄幣」って、どんなの?
・ブロックチェーンへの注目は高まっている?
台湾の大衆紙「聯合報」のニュースサイトが2019年1月7日に掲載した記事によると、高雄市の新市長になった韓國瑜さんが、高雄市で導入が予定されている「高雄幣」の宣伝に一役買うということです。
具体的には、「高雄幣」の使用が想定されている高雄最大の夜市「六合夜市」で、1月18日に韓國瑜さんがデモンストレーションをおこなうということのようです。
「高雄幣」の概略については次の項目で書き留めたいと思いますが、今回、この高雄幣が注目を集めているのは、この政策がもともとは韓國瑜さんの対立候補だった民進党の陳其邁さんの構想だったという理由があるようです。
台湾のケーブルテレビ局「TVBS」のニュースサイトで2019年1月7日に掲載された記事には、「高雄幣」の成立背景が以下のように説明されています。
(ちなみに、以下のページには現地のニュース映像がそのまま動画として掲載されています。台湾のニュースの雰囲気がわかりますので、興味がありましたらぜひ見てみてください)
(「高雄幣」の)構想は実のところ、もともと陳其邁さんの観光幣に端を発し、のちに中華科技金融学会の理事長である前立法院長の王金平さんを通じて、バージョンアップした高雄幣として積極的に推進されるようになった。
(其實當初這個構想是來自陳其邁的觀光幣,後來由中華科技金融學會的理事長,也就是前立法院長王金平,積極推動才推出進階版的高雄幣。)
こうした背景に対して、韓國瑜さんは記者の質問に答える形で以下のように回答しています。
それは全然問題なく、陳其邁委員は多くの素晴らしい政策を提案しているので、機会があればもちろん取り入れていく。
(我知道沒關係,陳其邁委員提了很多好的政策,有機會當然要用。)
以下の記事に少し書き留めたように、韓國瑜さんは必ずしもブロックチェーンや仮想通貨の導入を明言してはいませんでしたが、たとえ対立候補が掲げた政策であっても、高雄市の経済発展に寄与するものは取り入れていく姿勢を打ち出していくようです。
市長選を通じた「政権交代」によって、ブロックチェーンに関する政策が改めて注目されたということで、興味深いなあと感じます。
今回、話題になった「高雄幣」というのは、上でも少し触れましたように、「中華科技金融學會」が中心になって開発した「地域通貨」の一種です。
「中華科技金融學會」については以下の記事で少し触れましたが、台湾におけるフィンテック発展を目指して結成された政・官・学の協働組織であり、韓國瑜さんの対立候補だった陳其邁さんも学会の南部分会の結成大会に参加していたようです。
上に挙げた「聯合報」の記事では、「高雄幣」の担当部局である高雄市経済発展局による説明が以下のように掲げられています。
このアプリは15日にリリースされる予定で、市民はまずネットで申請後、六合、南華、光華などの夜市やショッピングエリアでスマホ決済を使うと、ポイントや仮想通貨がキャッシュバックされ、次に買い物で使うことができる。
(這款APP預計在15日上架,民眾可以先上網申請後,再到六合、南華、光華等夜市或商圈,透過行動支付,就會回饋點數或虛擬貨幣,做下次消費使用。)
ここで、「仮想通貨(虛擬貨幣)」という表現が出てきているように、今回の「高雄幣」のシステムはブロックチェーンのイメージに端を発したものだと説明されています。
台湾の大手紙「中國時報」の記事では、高雄市の観光局長である潘恒旭さんの説明として、「高雄幣の考え方はブロックチェーンから来ている(高雄幣概念來自區塊鏈)」と言及されています。
こうした表現からは、「高雄幣」のシステムが必ずしもブロックチェーン上に構築されたものではないことを暗に示しているように感じます。
ですが、行政担当者が「ブロックチェーン」という言葉を使って「高雄幣」のコンセプトを説明していることが興味深いですね。
実際にブロックチェーンとどのように関わっているのか…アプリのリリースは今月15日ということですから、リリース後の報道に注目したいと思います。
台湾の中心都市である台北市では、ブロックチェーンや仮想通貨の開発に関わるスタートアップが多く創業され、様々なイベントも開催されていて、こうした技術の中心地となっています。
ですが、台湾南部の大都市である高雄市も負けず劣らず、仮想通貨決済を導入したケーキ屋さんが開店したり、行政機関も「スマートシティ」の実現を標榜するなど、台湾のなかではブロックチェーンや仮想通貨の導入に積極的な地域のひとつです。
こうした環境にあって、市長選のなかでも「スマートシティ(智慧都市)」や「フィンテック(金融科技)」に関する政策が一部分とはいえ論じられるほどに、一般の人々のあいだにもこうした新技術への関心が高まっているように感じます。
今回の「高雄幣」をめぐる報道のなかでも、普通に「ブロックチェーン(區塊鏈)」や「仮想通貨(虛擬貨幣)」という表現が使われているように、もしかしたら、こうした言葉へのポジティブなイメージが少しずつ人々のあいだに描かれるようになってきているのかもしれません。
こうした人々のイメージの変化にも注目しながら、台湾各地のブロックチェーンをめぐる動きをコツコツと追いかけていきたいと思います!