(香港・尖沙咀付近の街の夜景。ネオンサインが香港っぽいですよね)
ブロックチェーンに関する技術やサービスの開発と普及には、新たな分野に挑んでいくスタートアップの存在を欠かすことができません。
また、そうしたスタートアップを育てるアクセラレーターやインキュベーターの存在もまた無視することはできませんね。
今回は、香港のインキュベーターから育ったスタートアップが、ブロックチェーンを活用した新たなサービスを開発したというニュースを目にしましたので、書き留めておきたいと思います。
・香港科技園から育った「智信鏈」が新たなサービスを開発
・EverCaratって、どんなサービス?
・「ブロックチェーン×トレーサビリティ」の可能性
香港のスタートアップインキュベーターである「香港科技園」が2018年11月14日にプレスリリースとして公表したところによると、香港科技園のメンバーである「智信鏈金融科技(AssetOnChain)」が、ブロックチェーンを活用したダイヤモンド取引プラットフォームである「EverCarat」を開発したそうです。
このニュースは中国の経済系ニュースサイト「21经济网」の情報を基に、中国の仮想通貨系ニュースサイト「巴比特」や台湾のネットニュースサイト「Knowing新聞」でも報じられていますので、一定の広がりを持って報じられているようです。
「香港科技園」については以下の記事に書き留めましたが、2001年に開設された、多くのスタートアップを育てている実績のあるインキュベーターで、最近ではブロックチェーンに特化したアクセラレータープログラムを開始したことで注目されています。
プレスリリースによれば、EverCaratを開発した智信鏈は2018年1月に香港科技園の育成プログラムに参加していて、「成功例(成功例子)」のひとつとして言及されています。
これからブロックチェーンに注力していこうという香港科技園にとっても、智信鏈によるサービス開発は注目すべき事例として位置づけられていることがわかりますね。
プレスリリースではこのプラットフォームの特徴について、以下のように説明されています。
このプラットフォームは新たなブロックチェーン技術を利用し、ダイヤモンドの来歴、認証データ、オーナー記録、トランザクションフローなどの情報を全面的かつ正確に追跡し、各種の取引帳簿や取引検証をサポートし、コンテンツを改竄することは難しい。
(該平台利用新興的區塊鏈技術,全面準確追蹤鑽石來源、認證資料、易主記錄、交易流向等訊息,並支援各種交易記賬及核實交易,內容難以竄改。)
一見すると、ブロックチェーンを活用したダイヤモンドのトレーサビリティシステムのように見えますが、それだけならすでに、ロンドンに創設されたEverledgerや、香港の貴金属販売業の「周大福」がアメリカのGIAと提携して、トレーサビリティシステムの構築を進めています。
また、ダイヤモンドの世界的総合商社である「デビアス(De Beers)」が構築したトレーサビリティプラットフォームの「Tracr」にはロシアの大手採掘企業である「アルロサ(Alrosa)」が参加するなど、ダイヤモンドをめぐる世界的な動きになってきています。
こうした先進的な取り組みに対して、EverCaratはこうしたトレーサビリティシステムに取引プラットフォームを合わせて構築することで新たなサービスを提供するものだといえます。
EverCaratの公式ウェブサイトには、冒頭に以下のようなキャッチコピーが掲げられています。
世界で初めての、取引所の技術とブロックチェーン技術によってダイヤモンドの現物取引を実現するプラットフォームで、マーケットの革新をリードする
(全球首家以交易所技術和區塊鏈技術實現實物鑽石交易的平台.引領市場革新)
また、こうしたプラットフォームの構築によって、以下のような目的を実現していくと説明しています。
私たちはダイヤモンドをより一般的な新型資産とすることを目標として、透明でオープンなオンライン双方向市場を提供し、買い手と売り手を結びつけ、ダイヤモンドをゴールド、通貨、株券などのような伝統的な資産と同じように簡単に、便利に取引できるようにする。
(我們以推動鑽石成為更普及的新型資產為目標,提供透明開放的網上雙邊市場,配對買家和賣家,讓鑽石交易像買賣黃金、貨幣或股票等其他傳統資產一樣輕鬆、方便。)
ダイヤモンドにはEverledgerによる取り組みでも問題視されているように、「ブラッドダイヤモンド(紛争ダイヤモンド)」などのように、その来歴をめぐる信用性の問題や、品質のばらつきといった問題から、資産としての取引に複雑さと困難さを抱えているそうです。
そこで、EverCaratはブロックチェーンを導入することでダイヤモンドの来歴を含むあらゆる情報に対する信頼性を確保するとともに、GIAの認証を得たダイヤモンドを投資商品とすることによって、ゴールドなどと同様の「資産」として流通させようと考えられているようです。
オフショア市場としての香港で、しかも多くのダイヤモンドが売買されている世界でも有数のダイヤモンド市場である香港で、こうしたプラットフォームの構築は必然的かつ期待の高いサービスとして登場したといえそうです。
ダイヤモンドの大手企業が参入している分野で、どれだけ事業を拡大していくことができるかどうか…これからの展開が楽しみです!
ブロックチェーンの特性を発揮できる分野として、記事で取り上げたダイヤモンドをはじめとする貴金属や、食品などにおけるトレーサビリティは注目されていて、技術開発が大きく進んでいるフィールドのひとつになっているようです。
そうしたトレーサビリティシステムが構築されれば、対象物の来歴に対する信頼性と安全性が確保されることになり、新たな市場開拓へと進んでいく可能性が高まりますね。
今回、公開されたEverCaratはダイヤモンドのトレーサビリティだけにとどまらず、その上に取引プラットフォームを構築したことで、ダイヤモンドの新たな可能性を拓こうとしているといえるのではないかなと思います。
中国市場を抱え、ダイヤモンド取引が活発におこなわれている香港で、こうした取り組みが発展していけば、同様のサービスが世界各地で展開されていくのかもしれません。
世界的な動きも視野に入れながら、これからの動きをコツコツと追いかけていきたいと思います!