(香港の「旺角(モンコック)」の一角。看板の感じが香港っぽくないですか?)
ブロックチェーンの活用方法として、天然資源や食品の来歴を保存し、いつでも参照可能にする「トレーサビリティ」のシステムが注目されていますね。
ALISでも、食品トレーサビリティの概要についてはだいちゃんさんが、具体的事例についてはMALISさんやNAOTTAさんが記事にされていて、その重要性を感じることができます。
こうした「資源×ブロックチェーン」の取り組みとして、今回はダイヤモンドの情報をブロックチェーン上に記録するシステムを香港の有名企業が導入したというニュースを目にしましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・香港の「周大福」がブロックチェーンを導入⁉︎
・周大福から見たブロックチェーン導入の事情
・「ダイヤモンド×ブロックチェーン」は「売り」になるか?
香港の大手紙「明報」のニュースサイトが2018年9月13日付で掲載した記事によると、香港を中心に宝石・貴金属販売を主力として事業展開している「周大福」が、アメリカの「GIA」(Gemological Institute of America)と技術提携し、ブロックチェーン上に記録されたダイヤモンド鑑定書を発行すると公表したそうです。
具体的には、周大福の一ブランドである「T Mark」で扱っているダイヤモンドのうち、0.3〜0.99カラットのダイヤモンド3,000個について、すでに鑑定書の内容がブロックチェーン上に記録されているということです。
このニュースについては、すでに2018年5月23日にGIAがウェブサイトで公表していて、日本語サイトにも掲載されています。
今回の動きは、今年5月に報じられていたこの動きが具体化したということですね。
このGIAの日本語サイトの記事には、「この取り組みは、主要なブロックチェーンソリューションプロバイダであるEverledger(エバーレジャー)で開発され、IBMブロックチェーンプラットフォームによって保護されています」とあります。
Everledgerについては、ダイヤモンド取引にブロックチェーンを導入する技術を開発した企業として、日本語で読める情報としても紹介されています。
特に、「WIRED」の公式ウェブサイトに掲載された記事は、「ブラッド・ダイヤモンド(紛争ダイヤモンド)」に代表されるようなダイヤモンド取引をめぐるさまざまな問題にも触れられていて、今回の取り組みの意味を理解するうえで重要な記事だと思います。
ダイヤモンド取引にブロックチェーンを導入しないといけない事情とEverledgerの取り組みの革新性については、上のWIREDの記事を読んでいただくとして…
あ、もしかしたらMALISさんが詳しい記事をいつの日か書いてくださると信じて…(MALISさん、勝手にごめんなさい)
今回のブロックチェーン導入については上に挙げたGIAの公式発表で基本的なところはフォローされているのですが、香港の「明報」の記事は、このシステムを導入した周大福側の事情について少し触れています。
「明報」の記事によれば、香港における今年7月の宝飾品および腕時計の消費額は年率で16.8%の伸びを記録しているということですが、その成長度合いはやや緩んできていると書かれています。
こうした状況を受けて、周大福のマネージングディレクター(董事總經理)の黃紹基さんは「十一黃金周」の商戦において、価格競争ではない集客方法を打ち出す必要があると述べたと報じられています。
「十一黃金周」というのは、中国の10月1日の「国庆节(国慶節、建国記念日)」を挟んだ前後3日、合計1週間が休みになる「ゴールデンウィーク」のことを指します。
中国の人々が国内外に足を伸ばして買い物をおこなうこの時期は、香港においても重要な「稼ぎ時」になっています。
この一大商戦を勝ち抜くための取り組みのひとつとして、今回のブロックチェーン活用が位置づけられているようですね。
周大福といえば香港では知らない人のいない宝飾品小売店で、有名な繁華街を歩けばコンビニ並みに開設されているんじゃないかと思うぐらいに、たくさんのお店が設けられています。
ただ、たとえば、以下の日本語記事で触れられているように、近年は店舗の整理を進めるなど、必ずしも事業が順調とはいえない状況も伝えられています。
こうした状況のもと、ビジネスにおけるセールスポイントのひとつとしてブロックチェーンが活用されているというところに、ブロックチェーンに対するイメージの向上を感じることができますね。
周大福の今回の取り組みは、まず香港内の「T Mark」の4か所(尖沙嘴、屯門、銅鑼灣、旺角)の店舗から始めて、今年度中には10店舗・1万のダイヤモンドの証明書をブロックチェーン上に記録するそうです。
周大福は自らの事業展開に関わるセールスポイントのひとつとしてこうした取り組みを位置づけているようですが、この取り組みを支える国際的な背景には奥深いものがあると思います。
その点を踏まえて、こうした取り組みが支持されるためには、ダイヤモンドをめぐる多様な課題への理解や先進的な取り組みへの理解、課題が解決された商品に魅力を感じるという消費者の意識の向上、そしてブロックチェーンという新たな技術に対する理解の深まりなどが必要となってくるはずです。
周大福はこうした取り組みを自らのビジネスに組み込んだということは、こうした諸々のハードルを超えることができるという見通しが、ある程度立っているということを意味しているのではないかと感じます。
逆に言えば、「ダイヤモンド×ブロッックチェーン」、もしくは「トレーサビリティ×ブロックチェーン」という取り組みを有効的にビジネスに取り込む企業が増えれば、ここに挙げたようなハードルも少しずつ解消されていくのではないかとも思います。
ブロックチェーンの活用が具体的なビジネスシーンにどのような形で活かされていくか…
こうした視点からも、ブロックチェーンを活用した取り組みをコツコツと追いかけていきたいと思います!