(この写真は記事中に出てくる「蘭嶼」ではありません。念のため(^^;)
台湾には台湾本島以外に、いくつもの離島があります。
そのうちのひとつ、台湾本島の最南端から東に海を越えたところに、「蘭嶼」と呼ばれる小さな島があります。
ここには主に、台湾先住民族(現地の言葉では「原住民族」)のひとつである「タオ族(達悟族)」の人々が住んでいますが、彼らの先住民族としての身分を証明するためのIDにブロックチェーンを導入する試みが、もうすでに始まっているようです。
この試みには、単純に個人IDをブロックチェーンに載せるということだけではない意味が込められているようで、とても興味深いので記事としてまとめておきたいと思います。
(2018年7月15日追記。「もくじ」とkazのページへのリンクを付けました)
・蘭嶼島・先住民族になぜブロックチェーンが必要?
・ブロックチェーンで民族身分を確実に証明する
・「蘭嶼觀光護照」が環境問題を解決する!?
・人々の生活や環境に応じてブロックチェーンを導入する
デジタルガジェット系の記事を配信しているiThomeが2018年5月19日に配信した記事によると、4月26日に、「蘭嶼島咖希部灣」という組織が、フィンテックの開発を手掛けている「DTCO數金科技」とタオ族の人々が連携し、ブロックチェーンを用いたタオ族の身分証明システムに基づく「蘭嶼島民卡(蘭嶼島民カード)」および「蘭嶼觀光護照(蘭嶼観光パスポート)」の発行を試験的におこなっていくことを発表したそうです。
まず、この記事の内容に入る前に、「なぜ蘭嶼島に/タオ族にブロックチェーン?」ということについて、蘭嶼島の現状と先住民族タオ族の置かれた状況を少し知っておく必要があります。
蘭嶼島は歴史的にタオ族が住む離島として、経済的には漁業、特にトビウオ漁によって生計が営まれていましたが、1990年代以降、先住民族の住む島として観光地化が進みました。
現在の島の収入の大部分は観光業によるものになっていますが、そのことは裏返していえば、他の経済資源に乏しく、社会システムの整備が遅れている地域のひとつであることも示しています。
また、観光業で成り立つ地域にあって頭の痛い問題のひとつに、観光客による自然環境の毀損やゴミ放置の問題があります。
特に、自然との触れ合いを中心とする観光を推進している蘭嶼およびタオ族の人々には、こうしたことは死活問題として日々の生活にかかわってきます。
さらに、こうした問題とは別に、タオ族の人々は自分たちの先住民族としての身分をどのように保っていくのかという問題にも直面していました。
タオ族の人々は人口で言えば約4,000人ほどしかいません。
民族としての文化や生活をこれからも伝承していくためには、自らの「民族性」というものを証明する手立てについて、考えざるを得ない状況に置かれています。
ブロックチェーンを用いた身分証明システムの導入は、こうした問題(前後しますが、①民族身分の証明、②島の環境保全)を解決するためのひとつの手段として採用されたという側面があるようです。
先に挙げた記事によると、ひとつめの問題である「民族としての身分証明」については、「DTCO」が提供するイーサリアムベースのブロックチェーン技術によって、タオ族の民族身分を証明するようです。
具体的な手続きとしては、先住民族の自治組織である「蘭恩文教基金會」や「説蘭嶼環境教育協會」といったところに申請をすると、身分証明システムに登録されて、IDカードが発行されるとのことです。
こうした取り組みの意味として、DTCOのCEOである李亞鑫さんは、今は個人情報を政府が中央集権的に把握・管理しているが、身分証明というものは本来、それぞれの個人が自ら管理できるようにするべきで、そのためにブロックチェーンの技術というのは有効であると説明されています。
ここには、「なぜタオ族の身分証明にブロックチェーンを?」という問いに対する説明が示されていると思います。
つまり、民族の身分証明には「わたしたちの民族」であるということを「わたしたち」で証明するという性格が強く含まれています。
こうした点で、今回の取り組みにブロックチェーンというのはピッタリくるように感じました。
ちなみに、ここに出てくるDTCOという企業は、医療系のブロックチェーンシステム「phrOS」や「IPseeds」といったものも開発しており、ブロックチェーンの活用を拡げているようです。
公式ウェブサイトには、「數位原住民計畫(e-indigenous nation)」といったプロジェクトも挙げられており、今後の動向が注目されます。
また、もうひとつの問題である「島の環境保全」ということについては、観光客に「蘭嶼觀光護照(蘭嶼觀光パスポート)」を発行することによって、解決を図ろうと考えられているようです。
観光客はこのパスポートを手に入れることによって、蘭嶼島内でさまざまな優待を受けることができます。
もちろんこれだけでは、島の環境問題の解決にはつながらないわけですが、ここにICO(首次代幣發行)を組み込むと、様子が変わってきます。
パスポートを持つ観光客は、島の環境保全活動(たとえば資源回収など)に協力すると、ICOで発行されるトークンである「TAOCoins(タオコイン、達悟幣)」がもらえます。
このコインを使って島内の各種サービスを利用すれば、より大きな優待を受けることができます。
こうした形で、観光客が島の環境保全に協力してくれることを促すという目的があるようです。(なお、ICOのレートは1ETH=1,000TAOだそうです)
ちなみに、今回の取り組みを発表した「蘭嶼咖希部灣」という団体は、島の環境保全活動をさまざまな形で展開しています。
島に投げ捨てられたペットボトルを使ったモニュメントは、島の新たな観光地として注目されたりもしています。
「咖希部灣(Kasiboan)」というのは、もともとタオ族の言葉で「ゴミが捨てられた場所(放垃圾的地方)」という意味があるのだそうです。こちらのブログに実際の景色が掲載されていますので、見てみてください。
今回の取り組みには、民族的な身分証明という側面に加えて、人々の生活にかかわる自然環境の保全という課題の解決も目指されていることがわかりました。
また、その延長線上には、タオ族の人々の社会的・文化的な地位向上を、こうした取り組みによって果たしていきたいという思いもあるようです。
DTCOの李亞鑫さんによれば、タオ族における今回の試験運用をモデルとして、他の先住民族や、台湾の先住民族と同じ、南島語族系(オーストロネシア系)の人々へと対象を広げていきたいと考えているとのことです。
試験運用のなかで、いろいろな問題が検証されていくと思いますが、ブロックチェーンの応用が、人々の生活を向上させていくような取り組みに成長してくれればいいなあと心から思います。
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