もうすでに日本語でも報じられていますとおり、中国の全国人民代表大会の常務委員会で審議されている「香港特別行政区国家安全保障法案(香港特别行政区维护国家安全法草案)」の内容が公表されています。
この法案は、2020年5月28日に全人代の会議を通過した「全国人民代表大会による香港特別行政区における国家安全保障法律制度・執行メカニズムの健全化に関する決定(全國人民代表大會關於建立健全香港特別行政區維護國家安全的法律制度和執行機制的決定)」に基づくものとして、常務委員会で検討されているものです。
上記の決定については、以下の記事に日本語仮訳をまとめてあります。
上記、日本経済新聞の記事のソースとなっている中国の新華社の記事には「法案の主な内容(法律草案的主要内容)」という形で、全6章66条の概要が掲載されています。
新華社の記事によれば、法案は「総則(总则)」、「香港特別行政区の国家安全保障の職責と機構(香港特别行政区维护国家安全的职责和机构)」、「犯罪と処罰(罪行和处罚)」、「裁判の管轄(案件管辖)」、「法律の適用と手続き(法律适用和程序)」、「中央人民政府駐香港特別行政区国家安全保障機構(中央人民政府驻香港特别行政区维护国家安全机构)」、「附則(附则)」から構成されているということです。
同様の内容は、すでに香港の各種メディアでも報じられています。
ここでは情報のソースとして、新華社の記事で報じられている「法案の主な内容(法律草案的主要内容)」に日本語仮訳をつけてみました。
法案成立後には速やかに条文の内容が公表されることと思いますが、取り急ぎ、記事にしておきます。
(なお、この日本語仮訳はあくまでざっくりとした仮訳です。できる限り原文のニュアンスを反映するように注意しましたが、内容の正確性は保証しません。活用や公開については、公的機関など信頼できる組織による翻訳を参照するようにしてください)
(一)中央人民政府の国家安全に関する事項に対する基本的な責任と香港特別行政区の国家安全保障の憲法上の責任を明確に規定する。
(一)明确规定中央人民政府对有关国家安全事务的根本责任和香港特别行政区维护国家安全的宪制责任。
(1)中央人民政府は香港特別行政区の国家安全に関する事項に対して基本的な責任を負う。香港特別行政区は国家安全保障の憲法上の責任があり、国家安全保障の職責を果たすものとする。香港特別行政区の行政機関、立法機関および司法機関は関連する法律の規定に基づき、国家安全を脅かす行為と活動を効果的に防止、制止、および罰するものとする。
(1)中央人民政府对香港特别行政区有关的国家安全事务负有根本责任。香港特别行政区负有维护国家安全的宪制责任,应当履行维护国家安全的职责。香港特别行政区行政机关、立法机关、司法机关应当依据有关法律规定有效防范、制止和惩治危害国家安全的行为和活动。
(2)国の主権、統一および領土の完全性を保障することは、香港の同胞を含む全中国人民の共通の義務である。香港特別行政区のいかなる機構、組織および個人は、国本法および香港特別行政区の国家安全保障に関するその他の法律を遵守し、国家安全を脅かす活動に従事してはいけないものとする。香港特別行政区の住民は政治参加あるいは公職に就く場合、法に従って、中華人民共和国香港特別行政区基本法を擁護するよう文書に署名あるいは宣誓し、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を誓うものとする。
(2)维护国家主权、统一和领土完整是包括香港同胞在内的全中国人民的共同义务。在香港特别行政区的任何机构、组织和个人都应当遵守本法和香港特别行政区有关维护国家安全的其他法律,不得从事危害国家安全的活动。香港特别行政区居民在参选或者就任公职时应当依法签署文件确认或者宣誓拥护中华人民共和国香港特别行政区基本法,效忠中华人民共和国香港特别行政区。
(3)香港特別行政区は香港特別行政区基本法が規定する国家安全保障の立法を早期に完成させ、関連法を整備するものとする。
(3)香港特别行政区应当尽早完成香港特别行政区基本法规定的维护国家安全立法,完善相关法律。
(4)香港特別行政区の法執行および司法機関は本法および香港特別行政区の現行法の国家安全を脅かす行為を防止、制止および処罰する規定を実施し、効果的に国家安全を保障することとする。
(4)香港特别行政区执法、司法机关应当切实执行本法和香港特别行政区现行法律有关防范、制止和惩治危害国家安全行为的规定,有效维护国家安全。
(5)香港特別行政区は国家安全保障とテロ活動防止の活動を強化するものとする。学校、社会団体などにおける国家安全に関する事項について、香港特別行政区政府は必要な施策を行い、監督と管理を強化することとする。
(5)香港特别行政区应当加强维护国家安全和防范恐怖活动的工作。对学校、社会团体等涉及国家安全的事宜,香港特别行政区政府应当采取必要措施,加强监督和管理。
(二)香港特別行政区が国家安全保障において遵守すべき重要な法治原則を明確に規定する。
(二)明确规定香港特别行政区维护国家安全应当遵循的重要法治原则。
(1)香港特別行政区の国家安全保障は人権を尊重および保障し、法に従い香港特別行政区の住民に香港特別行政区基本法および「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」に基づいて適用される香港の言論、ニュース、出版の自由を含む、結社、集会、旅行、デモの自由に含まれる権利と自由を享受する香港の関連規定を保障する。
(1)香港特别行政区维护国家安全应当尊重和保障人权,依法保护香港特别行政区居民根据香港特别行政区基本法和《公民权利和政治权利国际公约》《经济、社会与文化权利的国际公约》适用于香港的有关规定享有的包括言论、新闻、出版的自由,结社、集会、游行、示威的自由在内的权利和自由。
(2)国家安全を脅かす犯罪に対する防止、制止および処罰は、法治原則を堅持することとする。法律の規定で犯罪行為とされていることは、法律に従い有罪となる。法律に規定のない犯罪行為については、有罪とされない。いかなる人も司法機関による判決まではひとしく推定無罪とする。犯罪容疑者、被告人およびその他の訴訟参加者は法により享受される弁護権およびその他の訴訟の権利が保障される。いかなる人も司法手続きで最終的に有罪が確定し、あるいは無罪であると宣告されれば、同じ行為について再審あるいは罰せられない。
(2)防范、制止和惩治危害国家安全犯罪,应当坚持法治原则。法律规定为犯罪行为的,依照法律定罪处刑;法律没有规定为犯罪行为的,不得定罪处刑。任何人未经司法机关判罪之前均假定无罪。保障犯罪嫌疑人、被告人和其他诉讼参与人依法享有的辩护权和其他诉讼权利。任何人已经司法程序被最终确定有罪或者宣告无罪的,不得就同一行为再予审判或者惩罚。
(三)香港特別行政区の健全な国家安全保障の建設に関する機構およびその職責を明確に規定する。
(三)明确规定香港特别行政区建立健全维护国家安全的相关机构及其职责。
(1)香港特別行政区は国家安全保障委員会を設立し、香港特別行政区の国家安全保障の事務を担い、国家安全保障の主な責任を負い、中央人民政府の監督と説明責任を受け容れる。
(1)香港特别行政区设立维护国家安全委员会,负责香港特别行政区维护国家安全事务,承担维护国家安全的主要责任,并接受中央人民政府的监督和问责。
(2)香港特別行政区国家安全保障委員会は行政長官が主席を務め、メンバーには、政務司司長、財政司司長、律政司司長、保安局局長、警務処処長、警務処国家安全保障部門責任者、入境事務処処長、海関関長、および行政長官事務室主任を含む。香港特別行政区国家安全保障委員会は秘書処を設置し、秘書長が代表する。秘書長は行政長官によって指名され、中央人民政府によって任命される。
(2)香港特别行政区维护国家安全委员会由行政长官担任主席,成员包括政务司司长、财政司司长、律政司司长、保安局局长、警务处处长、警务处维护国家安全部门负责人、入境事务处处长、海关关长和行政长官办公室主任。香港特别行政区维护国家安全委员会下设秘书处,由秘书长领导。秘书长由行政长官提名,报中央人民政府任命。
(3)香港特別行政区国家安全保障委員会の職責は以下のとおりである。香港特別行政区国家安全保障の状況を分析および判断する、業務に関する企画、香港特別行政区国家安全保障政策の制定、香港特別行政区国家安全保障の法律制度および執行メカニズム建設の推進、香港特別行政区国家安全保障の重点業務および重大行動の調整。
(3)香港特别行政区维护国家安全委员会的职责为:分析研判香港特别行政区维护国家安全形势,规划有关工作,制定香港特别行政区维护国家安全政策;推进香港特别行政区维护国家安全的法律制度和执行机制建设;协调香港特别行政区维护国家安全的重点工作和重大行动。
(4)香港特別行政区国家安全保障委員会は国家安全事務顧問を設立し、中央人民政府によって派遣され、香港特別行政区国家安全保障委員会が行う職責に関する事務に助言を行う。
(4)香港特别行政区维护国家安全委员会设立国家安全事务顾问,由中央人民政府指派,就香港特别行政区维护国家安全委员会履行职责相关事务提供咨询意见。
(5)香港特別行政区政府警務処は国家安全保障部門を設立し、法執行力を備える。
(5)香港特别行政区政府警务处设立维护国家安全的部门,配备执法力量。
(6)香港特別行政区政府律政司は専門的に国家安全の犯罪案件を起訴する部門を設立し、国家安全を脅かす犯罪案件の起訴業務およびその他の関連する法律事務を担う。
(6)香港特别行政区政府律政司设立专门的国家安全犯罪案件检控部门,负责危害国家安全犯罪案件的检控工作和其他相关法律事务。
(四)4種類の国家安全保障を脅かす犯罪と罰則を明確に規定する。法案の第3章「犯罪と処罰」は6節に分かれており、国家分裂罪、国家政権転覆罪、テロ活動罪、外国および境外勢力と結託し国家安全を脅かす罪の4種の犯罪行為の具体的な構成と対応する刑事責任、その他の処罰規定および有効範囲を明確に規定する。さまざまな状況を区別し、4種類の犯罪行為に対する処罰に分類して規定する。
(四)明确规定四类危害国家安全的罪行和处罚。草案第三章“罪行和处罚”分6节,对分裂国家罪、颠覆国家政权罪、恐怖活动罪、勾结外国或者境外势力危害国家安全罪四类犯罪行为的具体构成和相应的刑事责任,其他处罚规定以及效力范围,作出明确规定。区分不同情形,分别规定四类犯罪行为的刑罚。
(五)裁判の管轄、法律の適用および手続きを明確に規定する。
(五)明确规定案件管辖、法律适用和程序。
(1)特定の状況を除き、香港特別行政区は本法で規定された刑事事件を管轄する。
(1)除特定情形外,香港特别行政区对本法规定的犯罪案件行使管辖权。
(2)香港特別行政区は国家安全保障を脅かす犯罪の捜査、起訴、裁判および刑罰の執行などの訴訟手続きに関する事項を管轄し、本法および香港特別行政区の現地法を適用する。香港特別行政区が管轄する国家安全保障を脅かす犯罪の裁判は、公訴手続に従って進める。
(2)香港特别行政区管辖危害国家安全犯罪案件的立案侦查、检控、审判和刑罚的执行等诉讼程序事宜,适用本法和香港特别行政区本地法律。香港特别行政区管辖的危害国家安全犯罪案件的审判循公诉程序进行。
(3)香港特別行政区政府警務処国家安全保障部門は国家安全保障を脅かす犯罪を処理する場合、香港特別行政区の現行法が定める警察などの法執行部門が重大犯罪を調査する場合に採用する各種の措置、および本法に規定する関連職権および措置を採用することができる。
(3)香港特别行政区政府警务处维护国家安全部门办理危害国家安全犯罪案件时,可以采取香港特别行政区现行法律准予警方等执法部门在调查严重犯罪案件时采取的各种措施,以及本法规定的有关职权和措施。
(4)香港特別行政区行政長官は現任あるいは資格のある前任の裁判官、区域法院の裁判官、高等法院の第一審の裁判官、控訴裁判所の裁判官および最終控訴裁判所の裁判官の中から若干名の裁判官を指定し、ならびに臨時あるいは特別委任の裁判官の中から裁判官を指定し、国家安全保障を脅かす犯罪を処理する責任を負うこととする。
(4)香港特别行政区行政长官应当从现任或者符合资格的前任裁判官、区域法院法官、高等法院原讼法庭法官、上诉法庭法官以及终审法院法官中指定若干名法官,也可以从暂委或者特委法官中指定法官,负责处理危害国家安全犯罪案件。
(六)中央人民政府は香港特別行政区に国家安全保障機構を置くことを明確に規定する。
(六)明确规定中央人民政府驻香港特别行政区维护国家安全机构。
(1)中央人民政府は香港特別行政区に国家安全保障公署を設立する。中央人民政府が置く香港特別行政区国家安全保障公署は法により国家安全保障の職責を履行し、関連する権限を行使する。
(1)中央人民政府在香港特别行政区设立维护国家安全公署。中央人民政府驻香港特别行政区维护国家安全公署依法履行维护国家安全职责,行使相关权力。
(2)駐香港国家安全公署の職責は以下のとおりである。香港特別行政区における国家安全保障の状況の分析および判断、国家安全保障の重大戦略および重要政策への意見および建議の提出、香港特別行政区の行う国家安全保障の職責の監督、指導、調整、および支援、国家安全情報の収集および分析、法による国家安全を脅かす犯罪事件の処理。
(2)驻港国家安全公署的职责为:分析研判香港特别行政区维护国家安全形势,就维护国家安全重大战略和重要政策提出意见和建议;监督、指导、协调、支持香港特别行政区履行维护国家安全的职责;收集分析国家安全情报信息;依法办理危害国家安全犯罪案件。
(3)駐香港国家安全公署は法により厳密に職責を履行し、法により監督を受け入れ、いかなる個人および組織の合法的権益を侵害しないこととする。駐香港国歌安全公署の職員は全国的な法律を遵守すること以外に、香港特別行政区の法律も遵守することとする。
(3)驻港国家安全公署应当严格依法履行职责,依法接受监督,不得侵害任何个人和组织的合法权益。驻港国家安全公署人员除须遵守全国性法律外,还应当遵守香港特别行政区法律。
(4)駐香港国家安全公署は香港特別行政区国家安全保障委員会と調整メカニズムを確立し、香港特別行政区の国家安全保障業務を監督および指導することとする。駐香港国家安全公署の作業部門は香港特別行政区と国家安全保障の法執行を行い、司法機関と協力メカニズムを確立し、情報共有と行動配分を強化する。
(4)驻港国家安全公署应当与香港特别行政区维护国家安全委员会建立协调机制,监督、指导香港特别行政区维护国家安全工作。驻港国家安全公署的工作部门与香港特别行政区维护国家安全的执法、司法机关建立协作机制,加强信息共享和行动配合。
(中略)
草案の附則には以下のとおり規定されている。香港特別行政区の現地法と本法が矛盾する場合は本法の規定が適用される。本法の解釈の権限は全国人民代表大会常任委員会に属する。
草案在附则中规定:香港特别行政区本地法律与本法不一致的,适用本法规定;本法的解释权属于全国人民代表大会常务委员会。