前回、中国の「暗号法(密码法)」の条文翻訳記事をアップしました。
このニュースとの関連で、中国の中央銀行である中国人民銀行がデジタル通貨(DCEPもしくはDC/EP)を発行するというニュースが、日本語の情報としても流れてきました。
「中国×ブロックチェーン」をめぐるここ数日の一連の動きのなかで、これまで中国から締め出されてきた「暗号通貨」に関するニュースということで注目を集めていますね。
こうしたニュースと接すると現地での報じられ方がどうしても気になってしまうので、目についた範囲で調べたことを少し記事にしておきたいと思います。
今回のニュースの概要は、以下の「中国証券報」のニュースサイト中证网に2019年10月28日に掲載された記事が伝えているとおりかと思います。
中国国際経済交流センター副理事長の黄奇帆は28日、CE40などの機関が合同で開催した第1回外灘金融サミットで以下のように述べた。「人民銀行はDCEP(デジタル貨幣)の研究をすでに5・6年おこなっており、もはや成熟の段階にあると私は思う。中国人民銀行はおそらく、世界で初めてデジタル貨幣を発行する中央銀行となるだろう。」
(中国国际经济交流中心副理事长黄奇帆28日在CF40等机构联合举办的首届外滩金融峰会上表示:“人民银行对于DCEP(数字货币)的研究已经有五六年,我认为已趋于成熟。中国人民银行很可能是全球第一个推出数字货币的央行。”)
今回の発言をした黄奇帆さんは経済・金融行政の専門家として知られていて、重慶市長時代には重慶市の経済成長を進めた人物としても有名です。
ただ、「薄熙来事件」として日本でも報じられた、薄熙来元重慶市長を中心とする汚職・スキャンダル事件において、薄熙来さんのもとで重慶市政にかかわり、比較的親しい人物として政府から評価されていたということもあります。
そうした経歴もあってか、「奇人黄奇帆」と報じ、現政権との微妙な距離感を報じているネット記事もあるようです。
そうした背景を踏まえて考えると、中国人民銀行がデジタル貨幣の研究を進めてきたという「事実」の部分はともかく、その後に語られている見通しが、そのまま中国人民銀行および中央政府の政策として速やかに実現されるかどうかはなお不透明かな?という感じがします。
なお、上に挙げた中证网の記事中にある「CE40」とは「中国金融40人フォーラム(中国金融40人论坛、China Finance 40 Forum)」という学術団体で、黄奇帆さんはここの学術顧問を務めています。
このCE40の公式サイトによれば、この学術団体は「目下、中国で最も影響力を有している非政府・非営利金融専門シンクタンクプラットフォームである(目前中国最具影响力的非官方、非营利性金融专业智库平台)」ことを掲げています。
中国で「非政府・非営利(非官方、非营利性)」ということがどこまで本当に担保されているかどうかという問題はありますが、中央政府との微妙な距離感を含む団体だということもできるかもしれません。
ちなみに、今回の発言があった「外灘金融サミット」のプログラムを見てみると、黄奇帆さんの発言があったのと同じ2019年10月28日に、「ブロックチェーンとデジタル貨幣の未来:可能性と不確実性(区块链与数字货币的未来:可能性与不确定性)」というラウンドテーブルがおこなわれたようです。
不思議なことに、こちらのラウンドテーブルでの発言をフォローするような報道が今のところ見当たりません。
プログラムを見ると、前日27日には前の日本銀行総裁の白川方明さんも登壇したようです。
帰国後に何か発言がありませんかね?
中国人民銀行によるデジタル通貨発行?のニュースが報じられた当日の夜には、中国共産党の機関紙である「人民日報」の論説として、「ブロックチェーンが仮想通貨発行・スキャムなどに利用されることを防がなければならない(应防止那种利用区块链发行虚拟货币、炒作空气币等行为)」と題した文章が掲載されたと報じられています。
このあたり、中国ではなお、ブロックチェーンの技術開発は積極的に進める一方で、その技術を通貨・貨幣に応用することについては慎重だといえるかもしれません。
このあたりの「貨幣とチェーンの分離(币链分离)」については、阿悉さんの一連の記事をご覧ください。
逆に、政府がデジタル貨幣の発行に先手を打つことで、貨幣発行の主導権を握りつづけようとしていると捉えることも、もしかしたら可能かもしれません。
ただ、いずれも推測の域を出ないので、今後の動向を注視する必要があるかなと思います。
中国の動向はなかなか見えづらいところがありますが、これからも動きを追いかけていきたいと思います!