ブロックチェーンの開発と具体的なサービスへの活用は世界中で展開されていますから、各地・各企業の競争を原動力に進められると同時に、世界的な連携の動きも活発におこなわれていますね。
たとえば、金融業界における世界最大のプライベートチェーンコンソーシアムである「R3」には世界中の金融機関が参加していて、「ブロックチェーン×金融」の技術開発が進められています。
R3については以下の記事で少し触れましたが、今回は中国企業との連携で注目される動きについて目にしましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・Cordaの中国語版ホワイトペーパー公表
・Chain Novaって?
・ホワイトペーパーの内容は?
・「法定通貨×ブロックチェーン」の可能性?
台湾のネットニュースサイト「Knowing新聞」の記事によれば、2018年7月に中国のブロックチェーン開発企業「Chain Nova」が「R3」と合同で、分散型台帳プラットフォーム「Corda」の中国語版ホワイトペーパーを公表したそうです。
この「Knowing新聞」の記事は、中国の「全球区块链经济人社区(グローバルブロックチェーンエコノミストコミュニティ)」を掲げている「荣格财经」の掲載記事を基にしていますので、以下、こちらの記事を基に書き留めていきます。
「R3」については「R3コンソーシアム」とともに日本語で読める情報が多く出ていますが、日本のSBIグループや台湾の中国信託商業銀行なども含め、世界中の200を超える金融機関が加入する国際的なブロックチェーン金融機関コンソーシアムであり、その運営団体となっています。
「Corda」は公式ウェブサイトによれば、R3がコンソーシアムのパートナーと共同で開発したブロックチェーンプラットフォームで、2016年10月からオープンソースプロジェクトとしてリリースされたものだということです。
そして、この公式サイトに挙げられているCordaの開発に参加している企業のなかに「Chain Nova」の名前も見えます。
「Chain Nova(智链)」は公式ウェブサイトによると、「Internet Finance」、「Blockchain + Industry」、「Cognitive Business」の3点を特徴として挙げたうえで、以下のよう説明が書かれています。
智链ChainNova是区块链技术的先行者,一站式企业级区块链技术平台及行业解决方案提供商,是专注于区块链应用场景落地的一流高科技公司,同时也是开源社区Linux基金会及Hyperledger成员,与中南建设和PeerNova是合作伙伴。
(ChainNovaはブロックチェーン技術のパイオニア、ワンストップのエンタプライズブロックチェーンプラットフォームおよび業界のソリューションプロバイダであり、ブロックチェーンアプリケーションシナリオに注力する一流のハイテク企業であると同時に、オープンソースコミュニティであるLinux基金会およびHyperLedgerのメンバーで、中南建設やPeerNovaが協力パートナーになっています)
…横文字のオンパレードになってしまいましたが、ブロックチェーンの開発に注力していることは伝わりますでしょうか。
上に挙げた「荣格财经」の記事によると、Chain Novaは2017年末にR3と提携し、中国の金融機関におけるブロックチェーンの普及を目指してきたとしたうえで、中国のコミュニティに対してミートアップを開催するなどの具体的な活動を展開してきたと伝えています。
ここにも「ブロックチェーン×コミュニティ」という視点が強調されていて注目されますが、ブロックチェーンの普及とコミュニティへのアピールの観点から、中国語版のホワイトペーパーが作成・公表されたと見ることができますね。
「荣格财经」の記事には、「荣格财经作为唯一指定发布媒体,被授权独家发布该白皮书中文版。(栄格財経は唯一の指定されたホワイトペーパー公表メディアとなり、中国語版ホワイトペーパーを独占的に公表する権利を得ている)」と書かれていますが、掲載されているのはWPの概要のみで、全文は見当たりません。
R3やChain Novaのサイトにも掲載されていないようですので、以下、「荣格财经」に掲載された概要を基に見ていきます。
まず、技術的な特徴として、以下の9項目が挙げられています。
・分布式账本技术(分散型台帳技術)
・开放的治理机制(オープンガバナンスメカニズム)
・身份认证(身分認証)
・Corda网络经济模型(Cordaネットワークエコノミーモデル)
・智能合约(スマートコントラクト)
・共识机制(コンセンサスメカニズム)
・隐私保护(プライバシー保護)
・互操作性(相互運用性)
・预言机(神託機械)
それぞれ、記事の全文を翻訳することも意味があるのかもしれませんが、一般的なブロックチェーンの特徴として説明されているような部分もありますので、いくつかの項目について、Cordaの特徴かなと思える部分をいくつか拾ってみます。
①「オープンガバナンスシステム」については、委員会の代表をCordaのユーザーで構成し、ネットワークパラメータの定義づけ、管理・更新をおこなうとしています。
Corda自身もコンソーシアムに参加する企業の共同開発の結果として生み出されたものですから、こうした管理方法が取られるのは自然だなと感じますし、ここにもコミュニティの役割というキーワードが見え隠れするように思います。
②「ネットワークエコノミーモデル」については、「Corda全球网络将支持法定数字货币,这是首个能大规模接入而且支持法定数字货币的区块链网络。(Corda
のグローバルネットワークは法定デジタル通貨をサポートする予定で、法定デジタル貨幣に大規模につながり、かつサポートする初めてのブロックチェーンネットワークである)」と説明されています。
「法定デジタル通貨」に言及されているところが注目されますが、このあたりに金融機関によるコンソーシアムであることの特徴や、現在の仮想通貨が抱えている課題への対応方法が示されているように感じます。
③「コンセンサスメカニズム」については、「Corda的独特之处在于,它可以支持单个网络中超过数十亿次日交易数。为此,Corda允许在同一网络中存在多个针对不同目的优化的共识服务(公证人池)。 (Cordaのユニークなところは、単一のネットワークのなかで一日に数十億を超えるトランザクションをサポートできるというところです。このために、Cordaは同じネットワークのなかのさまざまな目的に最適化されたコンセンサスサービス(交渉人プール)を許可しています)」と説明されています。
同一のプラットフォームのなかで処理できるトランザクションの容量は、国際的な金融システムの構築においてはネックになる部分だろうと思いますので、こうした部分に、コンソーシアム上に構築されたプラットフォームの強みを打ち出そうとしていることがうかがえます。
④「相互運用性」については、プラットフォーム上でP2P方式の取引を実現することによって、「不同商业网络中可以有互操作性,避免资产只存在于一个数据孤岛中。(異なる商業ネットワークのなかで相互運用性を可能にし、資産がただひとつのデータの孤島のなかにあるという状況を回避する)」としています。
これによって、「中央银行发行的现金(中央銀行発行の現金)」が商業ネットワーク上で自由に流動していくこと、つまり現金の流動性の確保を実現することができると想定されています。
ここでも「法定通貨×ブロックチェーン」ということがイメージされていますね。
⑤の「神託機械」については、以下のように説明されています。
预言机其实是一种信息服务的提供商,为Corda网络中的节点提供一些外部服务,所提供的信息已经签署,确保交易各方可以验证其来源。 在交易过程中以及在后来的审计中,它都是不可改变的。比如利率,汇率或任何其他形成合约组成部分的信息。
(神託機械は実は情報サービスのプロバイダであり、Cordaのネットワーク中のノードに外部サービスを提供しており、提供された情報はサインされることで取引の当事者がそのソースを確認することができます。取引中や後の審査では、こうしたものは改変することができません。それはたとえば、利率、為替レート、あらゆるその他の契約を構成する情報を挙げることができます)
このあたりがブロックチェーンを活用した取引システムの基礎的な考え方になる部分ではないかと感じましたので長文の引用になりましたが、ここにもネットワークによる課題解決が目指されている姿勢を見て取ることができます。
世界的な取引を世界的なプラットフォームによって解決する…そのためにブロックチェーンを活用したプラットフォームが必要だということが、上に挙げた9つの項目によって表現されているように感じます。
…まだまだ技術的な部分の理解が全然足りていないので、適切な解説までは踏み込めない記事になってしまいましたが、表面的な部分を見ただけでも注目されるポイントはいくつかあるように感じました。
グローバルな取引をグローバルなプラットフォームで解決していく、コミュニティによるガバナンス、それによる信頼の担保…などなどを挙げることができますが、僕が気になったのは「法定通貨」への言及が目についた点です。
ブロックチェーン=仮想通貨のイメージからなかなか想像しづらいところですけれど、金融機関にとって現実的にブロックチェーンを導入していくことを考えれば、仮想通貨よりもまずは法定通貨との整合性をどのように取るかということに注力されている…ということでしょうか。
このあたりも僕の理解がまだまだ届いていないところがあるかもしれませんので、詳しい方に教えていただきたいところですが、今回のホワイトペーパーから見えてくるのは、現実的な金融業界におけるブロックチェーン導入をめぐるひとつの姿勢だろうと思います。
金融へのブロックチェーン導入の方向性が世界的に、あるいは中国においてどうなっていくか…むしろ、中国語版ホワイトペーパーの公表は、中国へのアプローチがこうした方向性を確定させていく大きな要因になることがイメージされているのかもしれません。
金融機関の動きは政府の方針・規制に影響を受ける部分が大きいので、特に中国ではどのようになるのか、予測は難しいところですが、この記事で取り上げたような動向に続報が出るかどうかはひとつの目安になるかもしれません。
自分の知識も増やしつつ、こうした動きをキャッチできるように、コツコツと情報を追いかけていきたいと思います!
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