(台北の「永康街」は美味しいお店がたくさん。世界的に有名な「鼎泰豐」本店もここにありますよ)
前回書いた記事で、民進党の立法議員である余宛如さんを中心に発表された、ブロックチェーン・仮想通貨業界の自主ガイドラインについて触れました。
この記事では、ガイドラインの作成・発表に関わった「亞太區塊鏈發展協會」の公式ウェブサイトに全文が掲載されていますので、ポイントをグッと絞って書き留めておきたいと思います。
(文中の日本語訳はざっくりとした粗訳です。参考までに留めてご覧ください(^_^;)
・ガイドラインの構成
・前文の内容
・ガイドラインの基本要件
・これまでの枠組みと新たな状況を踏まえて…
「亞太區塊鏈發展協會(Apac Blockchain Development Association、アジア太平洋ブロックチェーン発展協会)」の公式ウェブサイトに、2018年8月10日付で、「虛擬通貨交易所會員自律公約(仮想通貨取引所会員自主ガイドライン)」を掲載しました。
ガイドラインは前文と全19条から構成されています。各条の内容は以下のとおりです。
第1条:公約簽訂與會員資格(ガイドラインの署名と会員資格)
第2条:基本定義(基本定義)
第3条:自律基金(自主ファンド)
第4条:基本要求(基本要件)
第5条:業務經營基本原則(業務経営の基本原則)
第6条:使用者保護基本原則(ユーザー保護の基本原則)
第7条:業務經營之義務(業務経営の義務)
第8条:保護措施(保護措置)
第9条:適合度原則(適性原則)
第10条:説明義務(説明義務)
第11条:損害賠償(損害賠償)
第12条:使用者權利義務規範(ユーザーの権利と義務)
第13条:內部監理機制(内部監督メカニズム)
第14条:國際標準與衝突處理(国際標準と競合解決)
第15条:輔導查訪(実地指導)
第16条:處分(懲戒)
第17条:處分程序(懲戒の手続き)
第18条:爭端解決(紛争解決)
第19条:施行(施行)
まず、ガイドラインの基本的な考え方と原則がまとめられている前文の内容について挙げてみます。
亞太區塊鏈發展協會(本協會)為督促交易所會員(會員)發揚自律精神,確實遵守法令、商業倫理規範與本協會之決議,加強團結合作,共謀發展並健全虛擬通貨交易市場,貫徹普惠金融原則與善盡社會責任,建立虛擬通貨交易秩序及確實維護使用會員提供之服務者(使用者)權益,特訂定亞太區塊鏈發展協會虛擬通貨交易所會員自律公約(本公約),由本協會全體會員分別簽署,並承諾共同信守之。
(アジア太平洋ブロックチェーン発展協会(本協会)は取引所会員(会員)の自主精神の発揚を促し、法令・商業倫理ルールおよび本協会の決議の遵守を確定し、仮想通貨取引所マーケットの発展と健全化をともに考え、インクルーシブファイナンスと社会責任を徹底し、仮想通貨取引の秩序を確立し、会員が提供するサービスプロバイダ(ユーザー)の権益を守ることを確定するために、アジア太平洋ブロックチェーン発展協会仮想通貨取引所会員自主ガイドライン(本ガイドライン)を定め、本協会を通じて会員全体で署名し、ともに遵守することを承諾する)
仮想通貨取引の市場の発展と健全化を目指した制定されたガイドラインであることが明確に示されていますね。
次に、ガイドラインに即して守られるべき基本的な要件について定めた第4条の内容を見てみます。
本協會會員應共同信守下列基本要求:
(本協会の会員は共同で以下の基本要件を守らなければならない)
一、 配合政府金融政策,促進經濟發展,善盡社會責任。
(政府の金融政策と歩調を合わせ、経済発展を促進し、社会責任に尽力する)
二、 對交易所業務之推進,應朝國際化、自由化、現代化及提昇服務品質之理念發展。
(取引所業務の推進について、国際化、自由化、現代化、およびサービス品質の向上という理念の発展を目指す)
三、 不得有違反法令規章或其公司內部規範之情事。
(法令の規定や企業の内部規則に違反してはならない)
四、 不得有違反本協會發布之自律規則及其他規定之情事。
(本協会が発布する自主規則およびその他の規定に違反してはならない)
五、 不得以脅迫、利誘或其他不正當方法,杯葛其他會員所從事之交易行為。
(脅迫、勧誘、その他の不正な方法によって、その他会員が行う取引行為をボイコットしてはならない)
六、 不得有破壞同業信譽之情事。
(同業者の信用・名誉を毀損してはならない)
七、 不得有破壞同業共同利益之情事。
(同業者の共同利益を毀損してはならない)
八、 不得有破壞同業和諧、合理競爭秩序或其他不當競爭之情事。
(同業者の調和、合理的な競争秩序を破壊し、あるいはその他の不当競争をおこなってはならない)
九、 不得以不當之方法直接或間接阻礙其他會員之業務發展或參與公平之競爭。
(不当な方法によって直接または間接的にその他の会員の業務発展を阻害したり公平な競争に参加したりしてはらない)
十、 不得以脅迫、利誘或其他不正當方法,獲取其他會員之營業秘密或其他會員之使用者資料。
(脅迫、勧誘、その他の不正な方法によって、その他の会員の企業秘密やその他の会員のユーザー資料を入手してはならない)
十一、各會員應循正當途徑延攬、自行長期培訓所需從業人員,以提高其專業知識及素養;不得有對同業以期約、支付簽約金等情事進行惡意挖角,以免影響其業務之進行及破壞同業間之和諧。
(各会員は正当な方法で、長期にわたるトレーニングを従業員におこない、その専門知識と素養を向上させるべきである。同業者に対して契約、契約金などによって悪質な引き抜きをおこなってはならず、その業務の進行への影響や同業者間の調和を毀損してはならない)
十二、應切實發揮自愛、自治精神,並嚴加督導從業人員之業務行為及服務品質。
(自己愛と自治精神を存分に発揮し、従業員の業務行為とサービス品質を厳密に指導しなければならない)
十三、對使用者之申訴,願接受本協會之協調,以減少訟累。
(ユーザーの申し出に対し、本協会の協調を受け入れ、訴訟の減少に努める)
十四、不得有利益衝突之情事發生。
(利益相反を生じさせてはならない)
こうした規定は、
台湾の証券業者による自主ガイドラインである「中華民國證券商業同業公會會員自律公約」、
同じく銀行業者の自主ガイドライン「中華民國銀行公會會員自律公約」、
さらにネット取引業の自主ガイドライン「電子支付機構從事行銷活動自律規範」といった近接領域のガイドラインの内容を参照しているということが、本ガイドライン中に注記されています。
これらの先行するガイドラインと比較した時に目に留まるのは、
仮想通貨取引所ガイドラインの第1項や第2項に規定されているように、目指すべき理念と目標が特に掲げられていることと、
第13項のように、訴訟の減少に努めることが掲げられていることです。
このあたりには、先行する金融業に比べて、これから健全な市場を形成していかなければならない仮想通貨取引の置かれた状況が反映されているように感じます。
上に挙げた第4条のように、既存の金融機関が作成している自主ガイドラインなどを参照した条文が多く見られます。
また、ユーザー保護に関する規定については、台湾の「金融消費者保護法」を参照している部分が多く見られ、仮想通貨取引の市場の健全化とそのプロセスにおけるユーザー保護を重視している姿勢がうかがえます。
既存の金融機関の枠組みを踏襲しながら、仮想通貨取引特有の状況を踏まえた今回の自主ガイドラインの方向性は、仮想通貨取引に関する法整備がまだ進行中の台湾にあって、重要な意味を持ってくるのではないか…
日本も含め、世界中で仮想通貨取引所による自主規制組織(SRO)が結成され、ガイドラインが作成・公表され、あるいは作成・公表が進められています。
台湾の動きもそうした世界的な動きに連なるものとして、台湾内での市場の健全化に寄与するだけではなく、グローバルな仮想通貨取引に関するルールのひとつの事例として登録されるべき内容を持っていると感じます。
今後の法制度整備のプロセスのなかで業界の動向がどのようになっていくかということにも注目しながら、ルール整備の動きもコツコツと追いかけていきたいと思います!
kazの記事一覧はこちらです。(下のアイコンからもご覧いただけます)
Twitter、やってます!