肥満をどうやって治していくか。私は個人的に栄養運動療法が一番だと考えていますが、体質の面もあり、なかなかそれだけでは・・という方も多いのは現実です。
他の国では、胃の入り口を狭くする手術や、胃自体を小さくする手術、いわゆる外科的な荒業を使う治療がありますが、今回、週に1回の皮下注射で痩せられないかという研究が行われました。
使われたのは、「セマグルチド」
この薬は従来、糖尿病の週1回の皮下注射の薬です。
糖尿病の人に投与すると、すでに体重減少が確認されており、今回糖尿病ではない肥満の人に投与したらどうなるかの研究が行われました。
その結果、糖尿病ではない肥満者(BMI 30以上)に対し、食事および運動療法に加えた「セマグルチド」の投与は、体重減少に有効かつ安全であることが示されました。
米国・サウスカロライナ医科大学ので52週間にわたる研究で、プラセボ(偽物の注射)、そのほかの薬一つと比較した試験です。
8ヵ国71施設(オーストラリア5、ベルギー5、カナダ9、ドイツ6、イスラエル7、ロシア10、英国8、米国21)で、18歳以上、非糖尿病、BMI 30以上の参加者を集めて行われました。
被験者を無作為に6対1の割合で、試験薬群(セマグルチド:5群、異なる薬:1群)とプラセボ群に割り付けられました。
具体的に、セマグルチド群には0.05mg、0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mgの5用量(いずれも0.05mg/日で開始し4週間ごとに漸増)、異なる薬の群には3.0mg(0.6mg/日で開始し0.6mg/週で漸増)の投与(プラセボを含めすべて1日1回の皮下注)が行われた。被験者および研究者は、割り付けられた試験治療(試験薬かプラセボか)については隠されました。
≪セマグルチド投与の有意な体重減少効果を確認≫
2015年10月1日~2016年2月11日に957例が無作為化を受けた(試験薬が投与された6群はそれぞれ102または103例、プラセボ群136例)。ベースライン(平均値)は、年齢47歳、体重111.5kg、BMI 39.3でありました。
52週時点の体重データは、891/957例(93%)で入手できました。
解析の結果、推定体重減少割合は、プラセボ(偽物)群が-2.3%に対し、
セマグルチド群は
0.05mg群:-6.0%
0.1mg群:-8.6%
0.2mg群:-11.6%
0.3mg群:-11.2%
0.4mg群:-13.8%と
セマグルチド全用量群で、プラセボ群と比較して有意な効果が認められました。(補正前p≦0.001)
10%以上の体重減少が認められた被験者の割合は、プラセボ群で10%であったのに対し、セマグルチド0.1mg以上の用量群では37~65%と多くでました。(対プラセボ、p<0.0001)。
セマグルチドの全用量群で概して忍容性は良好で、新たな安全性の問題は報告なかったとのことです。共通してみられた最も頻度の高い有害事象は、消化器症状(主に吐き気)でした。
しかし、
①52週というと13か月ですので、判断するには少し早いかなということ。
②今回使われた薬の強大のような錠剤の薬がありますが、それだと3年後くらいに体重が戻っていたというデータがあること。
③糖尿病ではない患者さんに投与すると低血糖(低血糖は非常に悪いことです!)のリスクも付きまとうのではないかということ。
という3点から医療者側も安易に飛びつくのではなく、慎重にこの結果は受け止めなければならない研究結果だと個人的には考えています。
参照論文要約:O'Neil PM, et al. Lancet. 2018;392:637-649.