テクノロジー

「ブロックチェーン技術」という表現について

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  • もずく
  • 2018/11/01 05:36

もずく・Ð・図解屋です。


皆さんはブログなどを書くとき、暗号通貨(cryptocurrency)を実現している技術のことを何と表現していますか?

暗号通貨を支える技術…とか毎回書いていたら大変ですよね。そもそも「暗号通貨」という言葉からして色々な表現がありますし。


おそらく、「ブロックチェーン」とか「ブロックチェーン技術」と表現している人が多いのではないかと思います。

今回はこの言葉について好き勝手に語りたいと思います。

※ごめんなさい、書いているうちにかなり技術的な内容になってしまいました…



ちなみに「暗号通貨」という言葉について好き勝手に書いたのはこちら


そして「トークンエコノミー」についてはこちら



まず、記事にしようと思った発端はこれです↓


このDAG(Directed Acyclic Graph)は「ブロックチェーン」の仲間ではありません。

個々のトランザクション(取引データ)が直接チェーンで繋がった状態になっているものです。


このようにトランザクションを直接チェーンで繋いだものをデジタルな貨幣とする…というアイデアは基本的なもので、サトシナカモトの論文にもベースとなる電子コイン(electronic coin)としてまず定義されています。

細かい説明はいずれ魔法使いオズモンにでもさせますが、とにかく電子コインとしてはこの構造で一応成立しています。

Content image
Satoshi Nakamoto "Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System"より引用


問題となるのは、この電子コインをP2Pネットワークで共有したいときです。

P2Pネットワーク(ピュアP2P)とは、サーバを介さずに、各人のPC(ノードという)が近くの別のノードと直接繋がった網の目のネットワークです。

Content image
Wikipedia Commons

P2Pネットワークで一つのデータを共有・更新していく場合、データの更新情報が各ノードを順番に伝播していくことで最新の状態を維持します。

データの更新情報がすべてのノードに伝播するには時間がかかるので、ノードによって更新状態が異なることもあります。


そのような管理者(サーバ)不在のP2Pネットワークで電子コインのトランザクションを共有すると、例えば、手持ちの1BTCをAさんとBさんの両方に送るようなトランザクション(二重支払い)を追加しても、誰も監視していないのでまかり通ってしまうのです。


そんな面倒なP2Pなんて使わずに、普通のサーバ・クライアント方式を使って、サーバで一括して監視すればいいやん…と思う人もいるかもしれません。

でも、サトシナカモトやサイファーパンクの人たちが目指していたのは、特定の誰か(国家とか企業とかサーバ管理者とか)によってコントロールされない匿名のデジタル貨幣だったので、P2Pネットワークでそれを共有したかったのです。


詳細は省きますが、Bitcoinのすごいところは、そんなP2Pネットワークの上で、二重支払いや過去のトランザクションの書き換えといった不正をすることがすごく難しくなる仕組みを考案したことです。

逆に言えば、その不正防止が実現できるなら、Bitcoinとは異なる仕組みでも暗号通貨(クリプト)の要件は満たせるのです。DAGのように。




話がだいぶ横道に逸れてしまいましたが、「ブロックチェーン」とは、サトシナカモトの論文で提案された新しい電子コイン(Bitcoin)の構造の一部を指すものです。

Bitcoinは、個々のトランザクションを直接チェーンで繋ぐのではなく、複数のトランザクションを詰め込んだブロックを作り、そのブロックをチェーンで繋げる構造をしています。

論文内ではこの構造に特に命名はされていなかったのですが、後になって誰かが「ブロックチェーン」と呼び始めたんだと思います。


そのような構造にした理由は論文には書かれていなかったかと思いますが、Bitcoinではブロックの追加を承認するのに時間がかかる(現在は10分に1回)ので、それをトランザクション毎にやってたら日が暮れるからだと思います。

日が暮れていいなら、ブロックのチェーンにしなくても、トランザクションのチェーンでもいいわけです。


つまり、「ブロックチェーン」という構造自体には、Bitcoinの本質的な部分は含まれていません。(あくまで私見です)

そういう意味では、Bitcoin以降の暗号通貨(クリプト)の根幹技術のことを「ブロックチェーン技術」と呼ぶのはちょっと変ですよね。


ではなぜブロックチェーン技術と呼ばれるようになったのか?


私の憶測では、

1. 暗号技術を使ったデジタル貨幣自体はBitcoin以前から存在したので、それとはきっちり区別したい(暗号通貨技術やクリプト技術といった言葉は使えない)[参考記事

2. Bitcoinのもう一つのメジャーな特徴であるPoW(Proof of Work)も、単独ではBitcoin以前から存在したし、後続のクリプトではPoSやDPoSといった別のコンセンサス・アルゴリズムが採用されたので共通しなくなった

ということで、もう共通して残ってる特徴ってブロックがチェーンになってるところだけやん…ってなったのかなと。


そこに、トランザクションをブロックに詰め込まない方式のDAGが出てきたので、「ブロックチェーン技術」という言葉も使いづらい…

というのが現状かと思います。




ではなんと呼ぶべきなのでしょうねぇ…

暗号通貨技術とかクリプト技術…という表現は、前述したように、Bitcoin以前のデジタル貨幣も含まれてしまうかもしれませんし。別にいいんですけど。


Bitcoin以降のクリプトについての技術を指したいんだったら、Bitcoinが成し遂げたのは「P2Pネットワークで成立するデジタル貨幣」なので、もうちょっと短くして「P2P暗号通貨技術」…とか?

でも、XRPとかは厳密にはピュアP2P(完全にサーバなし)じゃないんですよね。ハイブリッドP2P(一部にサーバを使用する)でいいなら、Bitcoin以前から実現可能だったわけで。

Rippleの構想自体はBitcoin以前のものなのでXRPは加味しなくていいとしても、似たようなコンソーシアム型のクリプトは存在すると思いますし。


Bitcoinが達成したことを別の言葉でいうと「トラストレス(Trustless)」なんですが、「トラストレス技術」ってなんだかやだな…

トラストレスという言葉の意味自体は、この先、クリプト本体の技術を超えたところでも話題になると思うので。ビジネスモデルがトラストレスになっているか…とか。


という感じで巡り巡って、以前に「トークンエコノミー」という表現について同様に議論した結果を受けて、Bitcoin以降の暗号通貨を「クリプトークン」と呼ぶことにすれば、

これからは「ブロックチェーン技術」改め

クリプトークン技術

でいいんじゃないかな…と。


きっと億ラビくんは賛同してくれるはず…

(投稿から数十分後)

はい、きました~(笑)


クリプトチェーン技術


ってむっちゃかっこい響きじゃないですか?!

「クリプトークン」と同様、誤解を生まない範囲で使っていきたいと思います:)



☕余談

なぜこんなに言葉の表現にこだわっているかというと、先日まで“科研費”という国からもらう研究費の申請書を書いていたからなんですよね。

この申請書というのはなかなか難しくて、審査員は専門用語や業界用語を知っているわけではないけども、みんな研究者なので用語の定義には敏感なんです。

だから、専門用語の定義がかっちり決まっているときはその定義を述べてから使用すればいいのですが、業界用語というか流行り言葉は定義が定まっていないことも多くて。


「ブロックチェーン技術」や「トークンエコノミー」の言葉は申請書に使う必要があったのでざっくりと調べていました。

ちなみに「トークンエコノミー」という言葉を検索すると、「トークンエコノミー法」という行動療法の用語が出てくるんですよね。

先に挙げた石井さんの技術ブログでも触れられていました。

これ、英語で調べても同じでした。

"token economy"は発達障害の子どもに対する行動療法として最初に出てくる用語なんです。


もしかしたら、「トークンエコノミー」という言葉を「コミュニティ通貨による小さな経済圏」という意味で使い始めたのって、Bitcoin以降なのかもしれませんね。

これ調べるの、卒論テーマに悩んでる人、興味ないかな…?

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公開日:2018/11/01
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