仮想通貨な世界　18話

<17話＞

部室には既に桜の姿が。

その姿を見た涼太はある人物と「同じ匂い」を感じると直感的に思う。

しばらくして、新入生を含めたサークルランキングが発表される。

「絵画印象派研究会」は天才2人が部員にいるため、

急に3位に躍り出る結果となる。

まじまじとその張り紙を確認した。

なんでも部員のトークンの平均値がそのまま順位になるらしい。

天才二人を入れた我が部の飛躍は凄まじかった。

そして、横の紙が視線に入り、さらにこわくなった。

少し固まった。

「おい」

「ん、どうしたの？」

「京一郎は、全学年含めても一位なのか？」

「そうだよ、知らなかったの？」

どうりで、教授が京一郎に敬語なわけだ。

…京一郎はなぜ大学に来たんだろうか？

「なぁ」

「今度はなに？」

「京一郎は昔からすごかったのか？」

「凄かったかは分からないけど、昔から全く変わっていないよ」

あれで変わっていないのか。すごいやつだな色々と。

彼女はゆっくりと、前に歩き出した。

「涼太も全然変わってないよね」

「大分変ったと思うけどな」

彼女の後をついていく。

「全然変わってないよ」

前を歩きながら弾むように、桜はゆっくりとそう答えた。

活動日初日のこと。

和也はバスケの練習からの欠席は容易に想像がついていたが

まさか、京一郎も休むとはおもっていなかった。

後に休んだ理由を聞くと、

「目が覚めたら、もうその時ではなかった」

実に彼らしい返答だった。

ちなみに部長も渡米して

いなかったので、

初活動が2人という

非常に心地の悪い空間となった。

桜はその日もキャンパスに想いを伝えていた。

静かな空間が部室の中を支配する。

うん、気まずいな…

特にすることもないし、

まず勢いで入ったはいいが活動内容すら決めていなかった事を

今さら後悔する。

とりあえずインスタントコーヒーに手をかける。

チラッと彼女に目を向ける。

コーヒーは、…いらなそうだな。

桜がキャンパスの世界に潜り込んでることが、

その目つきからすぐにうかがえた。

…気まずいな。

桜、俺のこと多分思い出してないだろうし。

ひとまず、

コーヒーを飲みながら彼女がこちらの世界に戻ってくるのを待つことにした。

しばらく時間が経った気がする。

「おーい」

遠くから少女の声がする。

周りは時計だらけで、独特の館内の香り。

野球帽に使い古されたグローブ。

肩をトントンとされているが、

身体はまだ動きたくないと叫んでいる。

寝返りを打つとグローブがころころと床に転がっていった。

野球をした後の帰り道のようだ。

少女は肩を叩くことをやめない。

その感覚に懐かしみを覚えていた。

身体はふわふわとした世界をさまよう。

「いった！」

頬に激痛が走って、急に世界が部室内に引き戻される。

部屋には、油絵の山。

絵描き部屋の香り。

「こんなこと昔もよくあったよね」

激痛を起こした張本人は手をどけようとはせず

微笑みを見せた。

横には書き終えた絵が一枚。

「あったっけ？」

「初めて出会った時もこうだったよ」

「初めて？」

「覚えてないの？」

「逆に、以前出会ってたこと覚えてたのか？」

「ううん、今起こそうとしたときに思いだした」

気まずさは天気雨の雲のように、

スーッと流れ去っていったように思えた。

「そうか」

思わず笑みがこぼれた。

少しずつ思い出を話していると、

話題が止まらなくなった。

桜と話せて嬉しいというより懐かしいという気持ちが強かったことが

自分自身でとても驚きだった。

彼女は初活動の日の終わりを

笑顔でその時もこう締めくくった。

「全然変わってないよ」と。

次回もお楽しみに！19話へ

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