渋谷にある東急百貨店本店が昨年1月末に閉店した。
あまり行かなかったけれど、店内にあるジュンク堂で本を買ったことがあるので閉店は残念に思う。
跡地は再開発されて、高層ビルになるそうだ。
再開発の中身を見ると、低層階が商業施設、中層階がホテル、高層階が賃貸マンションになるそうだ。
私の感想としては「ああ、また無味乾燥な高層ビルが一本建つのね」である。
そんなビルはもう東京にイヤというほど建っているからだ。
渋谷が発達したのは交通の結節点ということもさることながら、文化の街であったことによることも大きいと思っている。
独特なカルチャーを求めて若い人々が集まり活気が出て商業が栄え、今なおハロウィンなどのイベントで賑わいを見せている。
閉店した東急百貨店本店に併設された「Bunkamura」もその渋谷の文化を代表するは一つだったのだと思う。
美術やコンサートなどの文化がこの場所から育っていった。「Bunkamura」自体は再開発後も残るのだろうけど、ズドーンと建った高層ビルの方が目立つだろう。
この東急百貨店本店跡地も含めて渋谷のあたりは再開発が活発で次々に新しい高層ビルが建っている。
そこに文化はあるのだろうか?
いずれも大小の違いこそあれ、オフィスだホテルだ賃貸マンションだと同じような構成だ。
人はパンのみにて生くるのみにあらず。文化もまた人に活力を与えるものではないだろうか。
そうすると、ここ20〜30年の日本の停滞感も理由が見えてくる。
とかく今の日本はビジネスや消費コンテンツに落とし込んでしまい、文化を軽視しているからだ。
人間を一個の消費者や一個の労働者と見做している。だからオフィスやホテル、賃貸マンションを挙って建てている。
人としての活力を増さしめるものが少ない。だから現状は維持できるだろうが、それ以上のものは積み上げられない。そんなところだろう。
それは日本だけでなく、世界的にもそうかもしれない。中国にせよアラブ諸国にせよ、日本よりさらに多くの高層ビルが建っているだろう。でも、そこに現代を彩る文化があるかは怪しいところだ。
こうした無味乾燥な時代の行く先はどうなるであろうか?
次の時代はどうしても「ルネッサンス」が来ると思っている。
かつてヨーロッパであったルネッサンスが封建性の反動から人間性の回復を求めた復古運動であるならば、個人を一個の消費者と見做す消費社会の反動として人間性を回復しようという運動が起こるはずだ。
今の時代から考えれば俄に信じがたいかもしれないが、片側に振れた振り子は反対側に振れざるを得ない。どうしても、そうした人間性の復古運動は起こらざるをえない。
中世のルネッサンスは科学的な発展の面も強かったという。次に来るルネッサンスは芸術として現れるのか、または他の面で現れるのか。その時期も判らないけれど。
いずれにせよ、新たな時代が来れば高層ビル群は消費社会の墓標となるのだろう。