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誰もが持つ「死」への興味

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  • 安島譜人
  • 2020/12/07 10:09
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人間誰しも1度くらいは
「人は死んだらどうなるのだろう?」
と考えた経験があるはずだ。

それはすなわち、人間には共通して死への興味がある、ということである。

人間の本性

人間には未知の(知覚したことはあるがそれが何か未だ知らない)ものに対して興味を抱く性質がある。というのも、人は産まれた時から、未知なものに興味を持ち、自ら学びそれを既知とすることで成長する為、未知へ興味を抱く主体的特性は先天的に必要なのである。

また、知覚したことのない未知のものー死こそ正にその典型ーには人は不安を覚える。これは、得体の知れない危険性を伴う対象に距離を保つ為の、人間の動物的、受動的危機回避本能である。

未知なる対象を知った時にこうした不安は解消され、人は安堵を覚える。

死は興味の対象である。

当然ながら、人は死を自ら体験することは出来ない。しかし、その周りの人々、動物や植物達の死、つまり客体の死は経験する。

したがって、死は客観的知覚はされても、それ自体どういう事態なのかよく分からない対象であり、人が本能的に興味を抱く類型の対象なのである。

(自分の死は知覚もされない為、不安の対象になる。)

何故死を語るのを忌避するか?

ここまでで、人が死に対して興味を抱くのは、本能的な働きであるということが分かった。

それにも関わらず、死について語ることが忌避されているのは何故だろうか?

1つには自らの死を思考する不安の裏返しだということが考えられよう。死ぬのは誰だって恐いのだから、それを想像するのも怖ろしい感じのするのは当然のことである。

だが、もっと重要な要因は、我々が生活するにおいて人の死を感覚的に経験することが減ったからではないだろうか?

死への想像力

我々現代を生きる人間は、生身の人間が死ぬ光景に直面する機会が限りなく少ない。

私自身も生身の人間が死んでいく様を眺めたのはただの1度だけで、ISへ取材に行った後藤健二氏が拘束され斬首に処された映像を見たその経験に限られる。

得も言われぬ嫌悪感や惨たらしさを感じ、身が悶えたのを生々しく覚えている。

だが、近世までは斬首刑や絞首刑は公衆の面前で行われることが世界的に一般的であったらしい。また、戦時には至る所に死体の山が築かれ、川に死体が流れていたことなどを考えると、今の時代は圧倒的に生身の人間の死に触れる機会が減っている。

我々は死を知ることは出来ない。しかし、それを想像することは可能である。そして、生身の人間の死に触れる機会こそその一番の契機なのではないだろうか。

死について想像力を働かせなくなり、それについて考えなくなったことが、死を語る機会への忌避につながっていると考えられる。

メディアは死を映さない

生身の人間の死に触れる機会が減った要因についても軽く触れておこう。

人が死ぬ光景を目にしなくなったのは、それ自体平和であることの裏返しであり、喜ばしいことであるのは間違いない。

だが、それでも周りの人間が毎日亡くなられているのは間違いのないことであり、また、だからといって、人間の死への興味がなくなるということでもない。

昔は誰誰が死んだという情報を得るには、それを直接見るか、口承や文字媒体、絵によって確かめるしか方法がなかった。だが、今はマスメディアによって簡単に情報の手に入る時代である。

しかし、そのメディアが死を映さない。

私の見た後藤氏の斬首も主要なメディアではモザイク処理をされて報じられた。

我々が情報を得る最大のソースが生身の人の死を描くことがなくなったのが、その機会を減らしている要因なのである。

かと言って、人の死には興味が集まるため、殺人事件などは物語化して報道し、ドラマや映画では当たり前のように人の死を映す。こうして、死はよりファンタジーに近似していく。

「死にたい」を厭うな!

先に繰り返し述べたように、人が死について興味を抱くことはごく自然なことなのである。

とはいえ、生身の人間の死に触れることが稀になり、死への想像力の乏しい現代を生きる大多数の人間は、
「人は死んだらどうなるのだろう?」を「分からない。」で終結させる。

確かにそれはわかりようがない。だが、そこに想像を働かした人にしか見えないものがあるのだ。

今の世の中「死にたい」と心を吐露することは容易ではない。でも「死にたい」願望を持った人はたくさんいる。そして、「死にたい」に至るまでには、実に豊かな死の想像があったはずだ。

それは、痛々しく無残であることもあれば、愛おしく自分に寄り添ってくれることもあるのである。

だから、「死にたい」と言うひと、つまり、死への想像力を働かせた人を無下に厭ってはいけない。

結び

人は悉く死に興味を持つ生き物である。

だから、死を思う人を受け付けようとしない風潮には懐疑が残る。

生身の人間の死を体験しなくなった現在において、その死の興味を満たす方法が問われている。

死について語ることを忌避するということは、人生において絶対に避けることの出来ない死という問題から目を背けることでもある。こうした重大な問題から逃れようとする、楽観的人生の態度を取るのが流行となった時代はいかに変遷を遂げるのであろうか。

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