結論を先に知らせておこう。クラス内通貨はいずれ撤廃される定めにある。しかしまだそれを語るつもりはない。一体どこからほころびが生じたのか考えながら読むのもいいかもしれない。ここから書くのはまだ豊かな繁栄の物語だ。今日は通貨そのものの話をしよう。
まず説明しておきたいのは飛鳥時代の通貨【和同開珎】だ
日本初の流通貨幣でありながら「まずこれは通貨なのか」の段階で一悶着起きた自滅通貨である。
流通当時国から「率先して使え」と指示されたにも関わらず見事に破綻した和同開珎。
その経緯をざっくりと書き出して説明しよう。
国内でも流通する程だった「唐銭」に張り合って作られたもので、それ自体に問題はないのだが肝心の
1)銅、資材足りていなかった。
鋳造は混ぜもので銅の配合率を減らしたり厚みを減らしたりして
2)存続のために質を下げた。
町人はシビアだった。当然だ。初期と比べて目に見えて価値が下がった薄い銭に同じ価値を感じろという方が無理だ。
3)劣化は通貨の不信に繋がったのだ。
特に信用によって成り立つ商人は扱いたがらない。通貨を使わない町人は物々交換に逆戻りだ。
ちなみにクラス内通貨となった牛乳瓶のフタにも劣化品があった。
曲がっていたりラベルが剥がれて薄くなっているものがそうだった。滑り出しはおおらかだったので選り好みはされなかったものの、次第に質を伴わないものは流通から弾かれていった。そのあたりはオセロの制作時につけた優劣と同じだ。
立場上結構簡単に言っているが牛乳瓶のフタを無事に取り出すのは難しい。針のようなものを刺して抜く文化も聞いたことはあるが、うちでは爪でこじ開ける決まりだった。
要するに毎日クラス全員に通貨を獲得するチャンスがあったのだ。通貨は毎日増え続ける。
1)資材は尽きない
相手や交渉次第で劣化品も使えたが
2)流通に応じて緩やかに品質は向上した
毎日平均的に質の上がる通貨は
3)クラスメイトの信用を得た
いやはや立派な通貨じゃないか。
うまくやれば確実に毎日手に入るなんて夢のようだと思わないか。
さてここで「うまくやれば」というのはそれが簡単に出来る奴の言い分だということを忘れてはならない。
技術を持っていてその日の牛乳が難敵でなければ成功率が上がる程度だ。
ここが重要なんだ。この通貨、『不器用な人間には獲得できない』のだ。
どんなにスポーツができても成績が良くてもモテても技術がなければどうにもならない。
相応の人気があればセルゲームで稼ぐ道もあるだろう。
それでも目の前の価値を一日一枚ずつロストするのは心が痛むだろう。
作れないことを悔い続けるのは生産的か?毎日の努力が報われるのはいつだ?
その苦痛になにか合理性があるだろうか?人間できないことはできないのだ。じゃあどうする。
かたわらに住む陰日向の技術者に目が行くまでそう時間はかからなかった。
お忘れかもしれないがこのクラスにはジョブ制度がある。
クラス内通貨の流通は新しい職を産んだのだ
「造幣師」である。
いやはや笑いが止まらない。
だって最初の頃に言ったろ筆者は
「牛乳瓶のフタを開けることくらいしか取り柄がない」って。