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世界初の暗号通貨はビットコインではなく日本発のi-WATである、という話

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  • タカハシシンサク
  • 2022/11/01 09:17

ビットコインは世界初の暗号通貨と言われています。しかしそうではない、と言ったらみなさんはどう思われますか? 多くの人はまさか、とまゆにツバをつけることでしょう。それでも私はあえて言います。世界初の暗号通貨はビットコインではないとーー。

ならば、ビットコインに代わるそれは一体何なのでしょうか?

i-WATです。

i-WATは2003年に日本で開発された電子地域通貨です。ベースとなったのはP2P方式を特徴とする世界でも珍しい自律分散型のしくみをもつ、これまた日本発祥の地域通貨WATシステムです。地域通貨は一般に紙幣を交換することで取引を行うアナログな仕組みですが、それをネットでもできるようデジタル化したのがi-WATです。

WATシステム→
i-WAT→

もっとも当時は暗号通貨という概念がまだなかった時代です。そのため、開発にかかわったメンバーはそれを暗号通貨とは呼ばず、たんにオンライン地域通貨、あるいはデジタルマネーとだけ呼んでいました。

けれど、ビットコインの特徴がP2P(自律分散型)の仕組みと暗号技術にあり、そしてそのふたつが暗号通貨の定義であるとするなら、i-WATはその定義を十分に満たしています。

なぜなら、今述べたようにそれは基本的な仕組みとしてP2P方式を、また技術的な面ではビットコイン同様、公開鍵暗号方式を採用していたからです。したがってその定義からすれば、i-WATはまぎれもない暗号通貨といえるはずです。

さらにi-WATが誕生したのは2003年のことです。それに対してビットコインが誕生したのは2009年です。つまり、この世に産声を上げたのはi-WATの方がビットコインより6年も早かったのです。

これが、世界初の暗号通貨がビットコインではなくi-WATだと私が主張する理由です。

なぜ私がそんなことを知っているのか、といぶかしむ向きもあることでしょう。答えは簡単です。末席ではあるものの私もi-WATの開発チームに加わっていたからです。

さてこれらの事実を踏まえた上で、もうひとつ注目していただきたいことがあります。それはビットコインとi-WATとの間にある奇妙な類似です。

なかでも目を引く類似は今も述べたように、P2P方式であることと暗号技術のふたつです。しかもそれらは末節的な部分における類似ではなく、設計の根幹部分における類似です。そして、それは開発に関わった者の感覚からすると奇妙なといってもいいほど大きな類似なのです。平たくいうと、たんなる偶然の一致とは思えないということです。

それを示すエピソードがあります。

ビットコインが登場したというニュースが流れた直後のことです。

当時、開発チームはオープンなメーリングリスト上でやりとりしていたのですが、そのニュースを共有した瞬間、メンバーの間には「え、どういうこと?」とキツネにつままれたような雰囲気が漂いました。両者があまりにもよく似ていたからです。

といってももちろん、両者がそっくりだと主張したいわけではありません。当然ながら相違点もあります。

たとえばビットコインは貨幣の希少性を前提に設計されていますが、そのことは使用者の貨幣への隷属を必然的に強化することになります。それに対してi-WATは貨幣の希少性を解き放つことで貨幣をめぐる獲得競争から人々を自由にすることをめざしています。つまり貨幣への隷属から人々を解放することを最終的な目的としているのです。その意味からすれば、両者の設計思想はほとんど真逆といってよいでしょう。

けれど技術的な面にかぎっていえば、両者の間には複数の顕著なーーというより奇妙なといってよいほどのーー共通点が見られることはいま指摘した通りです。

しかし、そうなると新たな疑問が生じてきます。両者はなぜこれほど似通っているのだろうか、と。 

これに対する答えとして考えられることがひとつあります。それは今から20年ほど前に世界中を席巻した地域通貨ブームです。それが両者を近づけた可能性です。

地域通貨というのは、政府が発行する法定通貨とは別に市民が自分たちで発行する通貨のことです。現在の社会の行き詰まりは今の貨幣システム(法定通貨)の矛盾にあるとして、それに代わる新しいーーオルタナティブなーー貨幣を自分たちの手で作り出そう、というのがその根底にある考え方です。そしてその考え方に共感した人たちによって西暦2000年前後に世界各地で地域通貨のムーブメントが巻き起こったのです。

この地域通貨の観点から両者を比較してみましょう。

まずi-WATですが、その出自が地域通貨であることはすでに述べた通りです。

ではビットコインはどうでしょうか?

同じくオルタナティブ貨幣の開発を目指していた以上、その開発者であるサトシナカモトが地域通貨のことを知らなかったとは考えられません。そもそも、ビットコインが掲げる貨幣発行権を中央銀行から人々の手に取り戻すという旗印は、もともと地域通貨ムーブメントが掲げていたものです。

そうである以上、たとえ直接関わっていなかったとしても、少なからず影響は受けたでしょうし、理論的な面でもなんらかの知識なりヒントなりを得ていた可能性はあるとみなすべきでしょう。

あるいはi-WATがサトシナカモトにインスピレーションを与えた可能性もないとはいいきれません‥。

※i-WATの開発はオープンなメーリングリスト上で行われていたので、その内容はほぼ筒抜けでした。また開発後は公の場所でも実証実験が行われています。そのため、i-WATに関する情報はそうしようと思えば誰でも得られる状況にありました。

もっとも、これは私のただの個人的な憶測にすぎません。それに専門の研究者でもない私がここでいくら妄想をたくましくしても、ビットコイン誕生にまつわる謎が解けるわけでもありません。なので、素人の詮索はこのくらいにしておきましょう。

けれど、ここにはひとつだけたしかなことがあります。それはi-WATという暗号通貨が日本人の手によって世界ではじめて誕生したという事実です。

そして、その日本人というのは、地域通貨研究家の森野榮一氏とコンピュータエンジニアの斉藤賢爾氏(現・早稲田大学大学院教授)のお二人です。i-WATは、森野氏が考案したWATシステムをもとに斉藤氏がプログラムを組み、電子化したものです。他にも開発に関わった人は何人かいますが、i-WATは事実上このお二人が開発したものといってよいでしょう。

しかしながら、お二人とも自らの功を誇るのをよしとしないお人柄ということもあり、残念ながらその詳細を知る人は開発に関わったごく少数の人以外、ほとんどいないのが現状です。

けれど、歴史的ともいえるこのi-WATの業績がこのまま世に知られないまま埋もれてしまうのはしのびないこと、それになにより世界初の暗号通貨の開発者として森野氏と斉藤氏はそれにふさわしい評価を受けるべきであろうと思いましたので、当時開発チームの末席を汚していた不肖、私がこうして声を上げた次第です。

これをお読みになった方におかれましては、これらの事実を胸の片隅にでも留めておいていただけたら幸いです。そしていつかビットコインにまつわる謎が解明され、上記の「奇妙な一致」をふくむ真相が明らかになる日が来ることをともに願い、また祈っていただけたらなお嬉しく思います。

 

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