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リリエンタールを忘れない

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  • tatsu3
  • 2020/01/11 19:50

僕が子供のころ、世の中はグローバル化していく、としきりに言われていました。その言葉の意味は分かっていなかったけれどーーというか今だって正確にはわかっていないと思うがーー、なんとなく世界中どこでも自由に人や物が行き来して、好きな場所で好きなことして楽しく暮らせるのかな、そうなったらいいな、とぼんやり思っていたのは覚えています。 

そのころには、歴史は終わった、という話さえ聞いたことがありました。(それが人間にとって幸せかどうかはわからないが、歴史は人間を専制政治やファシズム、共産主義など個人を抑圧するものから人々を解放するために存在し、冷戦とともにその戦いと「歴史」は終わり、あとはのっぺりとした、平和な世の中が続いていく、というような内容だったと思う。子供のころから歴史が好きだった僕としてはちょっとばかりがっかりしたものだった) 

残念ながらニューヨークでビルに飛行機が突っ込んだあたりから、世界はまた新たな歴史の1ページをつづりはじめ、今は僕が子供のころに教えられていた未来とはだいぶ違うものになりました。 
(そう考えてみると、そもそも21世紀は僕が考えていたものとはまるっきり違う)

 

僕が子供のころには(というか高校生の頃にだって)ブロガーやユーチューバーなんて職業はなかった。あと10年もしたら、今は存在しない仕事が子供たちのあこがれの職業になっているでしょう。はじめてMDプレーヤーが登場したときは、これで音楽に関するすべての問題が解決した、と思ったものでした。それがいつの間にかダウンロードにとってかわられ、さらに今では通信技術の発達でストリーミングにその地位が入れ替わっている。友達から借りたり、レンタル・ショップで必死に集めた僕のMDのコレクションはもはや再生するプレーヤーが存在せず、聞くことができない完全なデッド・メディアになり下がった(CDはいまだに残っている)。宇宙旅行はまだまだ高価だし、21世紀になってからは一度だって人間は月に行ってない。 

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PERLAN PROJECTより引用。アホウドリは一度もはばたかずに数百キロを飛行することが知られている。その秘密は大気の風が高度ごとに違うということを利用したもので、急激な機動を必要とするため有人機には少々難しいかもしれない。(だが、今後普及するであろう無人機には十分応用できる可能性がある)グライダー乗りが一般的に使う上昇気流は、熱上昇風、斜面上昇風、山岳波、収束風の4つとなる。そして特殊な上昇気流を使えば写真のように宇宙までガソリンなしで行ける。上昇気流に関する記事はまた今度にしよう。

 


車は空を飛んでいるはずだったが、それは当分実現しそうにない。どうもその代わりに自律飛行のドローンが無数に空を飛び、あらゆる空からの映像を届け、荷物を宅配してくれるという、空想すらできなかったような未来のほうが実現しそうです。 
 

だが、まあ。僕たちの時代には僕たちの夢がある。 
20世紀に人間は宇宙旅行の夢を見たが、僕たちは情報の海が人と人を繋ぐ世界の夢を見る。


けれども、あなたはこう思うかもしれない。ちょっとまて、と。違う。何かが違う。空を気軽に飛んでいるのは、そうだ、ドローンたちでなく私だったはずだ、と。

 

もっとも、自由に空を飛ぶ、なんてことはとうの昔に忘れ去られたカビ臭い古い夢のひとつなのかもしれません。でも、イカロスが蝋の翼を太陽に溶かされて死んでから、オットー・リリエンタールがベルリンの郊外で墜落死するまでの何千年にもわたって、多大な犠牲を払いながら(リリエンタールの最期の言葉は「犠牲は、払われなければならない」だった。自分自身がその犠牲に含まれているとは本人も思わなかっただろう)人類があこがれ続けた空を自由に飛ぶという夢。それは人間にとってある種の根源的な欲求のひとつなのではないかとも思うのです。 
 


そこでです。車が空を飛ぶのはまだまだ先のことになりそうだし、どうだろう、ここらでひとつグライダーでもやってみるというのは。それが今日僕がここで主張したいことです。

 

だが、僕が飛行機遊びを誰かにおすすめするとき、いつも手厳しい反論にさらされることになります。

曰く、飛行機って危ないんでしょ?

曰く、飛行機って高いんでしょ?

とまあだいたいこんなところです。でも、それはほとんどがくだらない思い込みによるものです。(もっとも、思い込みはすべてがくだらないが。これは時代だとか、世代だとか、そういうものに関係なく本質的にくだらない)

ですので、今日は僕の主張をすこしでも意義のあるものにするためにも、知識を提供することでそういった思い込みを一つ一つときほぐしていければな、と思います。

 

さて、まずはグライダーってなんやねん、という方が多いと思います。

乱暴にひとことで言うならば、プロペラのない飛行機、と思ってもらえればいいです。(正確にはプロペラがついているものもあるし、格納式のものもある)

 

いやいやいや、プロペラなかったら落ちてしまうばい、と思うかもしれません。だがそれはちがいます。飛ぶうえで最も邪魔なものが、プロペラと車輪です。この2つがなければ、飛行機の性能は格段に上がります(鳥を思い出してほしい。彼らにはプロペラなんてついていないし、足を折りたたんでいるはずだ)。

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プロペラなど抵抗になるものがないので性能は極めて高い。そしてエンジンがないのでエンジントラブルはない。翼の形が性能を決めており、翼が壊れない限り基本的にトラブルはない。離陸の時のみ、飛行機に連結して曳航される。

グライダーは何らかの方法で離陸したのちに、上昇気流を使って高度を稼いだり、稼いだ高度を利用してさらに遠くへと上昇気流を探しに行くスポーツです。じつは毎日毎日何千回と見上げてきた空には僕たちが無知で見落としているだけで、多種多様で強力な上昇気流がたくさん存在しています。それこそ装備を整えれば宇宙まで行けるほどの上昇気流もありますし、一日に何千キロも飛ぶことだってできます。

離陸の方法は大きく2種類あります。

ひとつはウインチ曳航。もうひとつは飛行機曳航。

・ウインチ曳航 
ウインチ(要するに巻き取り機)から1キロメートルほどワイヤーや化学繊維のロープを伸ばして、その先にグライダーを連結する。そして高速でウインチでロープを巻き取ることにより、グライダーを加速させます。十分に加速したグライダーの操縦桿を引くと、浮き上がり上昇をします。これを繰り返すことにより400メートルほどの高度に達します。高度が上がりきったところで、ロープを切り離し、滑空を開始します。まぁ要するに凧揚げだと思ってくれればいいでしょう。あなたが頑張って走る代わりに、ウインチで巻き取ることによりグライダーにスピードを与えるのだ、と。

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・飛行機曳航 
まあそのまんまです。飛行機の後ろからロープを伸ばし、そのロープにグライダーを接続する。そして目的の高度や場所になったら、ロープを切り離すというものです。 
 

グライダーの説明はひとまずおいておいて、ここでいったんグライダーをやるにあたって障害となる思い込みについて考えてみましょう。

 

私事で恐縮ですが、僕がグライダーをはじめたころに教訓となったひとつのエピソードを紹介します。

 

その当時、僕は記録を狙いにオーストラリアへと遠征を兼ねた旅行の最中だった。(どれくらいの記録を持っていたら、この紀章をもらえる、とかいうのが決まっているのだ。まぁランクみたいなものだと思ってもらえればいい)大学は冬休みだし、冬には大きな大会もない。クラブの同期と、アルバイトして金をためてひとつ腕試しに遠征でもしてみようか、という話になったのでした。

 

オーストラリアには高温と乾燥した空気、そして土地(地面の状態も重要)。広大で自由な空域(皮肉にもこれが最も得がたい貴重な資源と言える。まったくふざけた話だが、自然と戦うスポーツの最大の敵は、国境や規制、そして経済的な制約なのだ。21世紀になって20年も経つのに!まったくやれやれだ)、といった条件がそろっていたのです。

ですが僕が訪れた時期は例年になく雨が多く、天気に恵まれない年でした(それでも実際はなかなかの条件で飛べる日だってかなりあったのだが)。

毎日僕と同期は暗い顔を突き合わせて、文句ばっかり言っていた。

僕たちのテーブルに、がたいと元気のいいじじいが歩み寄ってきて、曇天の空を見上げた後に「今日は 素晴らしい天気だね!」と笑顔で声をかけて去っていきました。
僕はなんだこのじじいは、あたまおかしいんじゃねぇか、と思いました。 
「んだべや、あいつ?」 
「素人なんだろ」 

とふたりでバカにするようにあざけっていたところ、近くにいた僕たちのコーチに言われた言葉に対して、僕は返す言葉がありませんでした。

「ここいらじゃね、みんなそうさ。だいいち君たちはここに楽しみに来たんだろう?じゃあ毎日そんな暗い顔するのはやめたほうがいい。こんな素晴らしい場所にきて毎日暗い顔してるのはそれこそ君たちくらいなもんじゃないか。少しは見習ったらどうだ?朝起きたら、空を見上げて笑うんだ。そして今日はビッグ・デイ(素晴らしい気象条件で、記録が狙えそうな日)だ、って言ってみることだ。たとえそれがクソみたいな雨の日だったとしてもね。ただでさえ我々のスポーツは安全のために保守的な判断をしなきゃならないんだからね、物事の感じ方くらいは楽観的にならなきゃダメだ、think positive(考えは楽観的に),decision conservative(決断は保守的に)。考える先からそんな顔してたんじゃ、いつまでたってもいいフライトなんてできやしない」 

そのとき僕が感じたのは批判されたことへの怒りではなく、顔が真っ赤になるほどの恥ずかしさでした。


後で知ったのですが、頭のおかしいじじいはオーストラリア・ナショナルのチャンピオンにもなったことがあるトップ・パイロットでした。 

結局その年、僕たちは目的の記録を取ることはできなかったが(というかひどいものだった。相方は100キロ離れた空き地のどこかに場外着陸し、行方不明となりみんなで探しに行くというちょっとした騒ぎになったし、僕のほうではくだらないミスで飛行場からたった10キロしか離れてない畑に着陸するはめになった)、いくつかの貴重な教訓を得ることができ、それは今でも僕にとって大事なものになっています。それは、「暗い顔してたって、誰もついて来やしないし幸せにもならない」ということです。自分で目標を定め、それに向かって努力する。自分の限界に挑戦できるのは、すごくワクワクするような楽しいことのはず。なぜ暗い顔をして悲壮感を漂わせながらやる必要があるのでしょう?

それは例えるならば、あなたの人生を祝福するために妖精さんたちがあなたの家の庭に集まり、楽しいパーティを始めようというまさにその時に、同僚に電話をかけ始めてむかつく上司と、気に入らない同期と生意気な部下についての愚痴をたれ始めるがごとき愚かさだといえるでしょう。 

なぜそんなことになったのか僕は真剣に考えてみました。けっきょく、自分にはできっこない、という思いこみがあったからだ、と結論しました。だから、チャレンジ「しない」理由を探していたのだ、と。その当時取ろうとしていた記録はその時の自分の技術であれば全く問題なく取れるものだったと今になってみればわかります。だが、自分自身の思い込みがそれを妨げていたのです。 
 

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素晴らしい雲たちが大空を埋め尽くしている。グライダー乗りがいう、「おいしそうな」空。同じものを見てもそこから何を引き出すかは、けっきょくのところ人間次第なのだとおもう。


というわけでやらない理由を一つずつきちんと考えていきましょう。

 

まず、飛行機は危ないのでしょう?という質問がある。それについて聞かれたときは僕はいつも「ええ、危ないです。リスクはあります」と答えています。質問したほうはだいたい怪訝そうな顔をしますが、嘘をついてみたところで仕方がないし、本当のことだから隠しようもない。

それに、リスクがあることが問題だとも思わない。僕はいつも思うのですが、リスクがあることはそんなにおかしいことなのでしょうか? 

飛ぶことは危険なことであると思います。けれども、問題はそのリスクが受け入れ可能かどうかーー自分の脳みそを使ってーー判断することのはずですし、そのリスクを受け入れ可能な値に下げるまでに、どう工夫と努力をするのか?と考えるのが建設的でしょう。 
飛ぶことの危険性は僕にとって十分に受け入れ可能なくらい極めてーー本当にごくごく極めてーー低いものであり、なおかつ適切なトレーニングを受けることにより、さらにそのリスクを下げることができると思っている。ですからこのスポーツを続けています。

 

だいいち、リスクは本来どんなものにもあるはずです。

僕たちの時代はとても便利で快適で安全ですが、不便で不快で危険なことを排除している、というまさにその点において致命的な欠陥を抱えているといえます。(僕は自身の不健康で非文化的な生活を誰かに邪魔されたくはないし、それにときどきどうしようもなく、野蛮で不潔で不便で危険な環境に身を置きたくなる。きっと僕だけではないはずだ)人はどんなことからでも学ぶことができるし、危険や野蛮からもたくさんのことを学べると思うのですが。 

まぁとにかく。 

自転車に乗ることだってリスクがあるし、当然車にだってある。自分が事故にあうことだってあるし、もしかしたら人を事故で殺してしまうかもしれない。 
ある晴れた朝に、天使のようにさえずる小鳥の声を聞きながら美しい青空の下を気持ちよく散歩していたとしても、ハチに刺されてあっさり死んでしまう人もいるし、雨の日の会社からの帰り道に雷に撃たれる人もいる。ひょっとしたら隕石に当たって死ぬことだってあるかもしれない。(ちなみに隕石に当たって死んだ人間はいままでに一人だけいるらしい。もちろんなにひとつその人に責任はない)それが嫌なら、と僕は思うわけです。ぶるぶる震えながら部屋で布団にうずくまってればいいじゃないか、と(もっとも隕石が落ちてきたら布団をかぶっていても意味はないが)。

本質的にリスクはある。それが受け入れ可能か判断し、そのリスクを自分の責任において引き受ける(もしくは、自分には許容できないと判断して引き受けなくてもいい)。それが自由の本質のはずです。誰かが保証してくれた安心に従って生きるだけならば、それは自由からはほど遠い生き方といえるでしょう。 

まあ、要するに。

あなたのでべその母ちゃんが(もしあなたのお母さんがでべそでなかったらごめんなさい)よく言っていたはずです。「天気がいいんだから家でゴロゴロしてないで外で遊んできなさい!」と。

 

次に費用の問題です。

費用が高いのでしょう?

これもよく聞かれます。だがそれには答えはない。問いが間違っているからです。費用が高いかどうかを決めるのは、あなた自身だからです。 

ですがそれではあまりにもそっけないので、だいたいの目安を提示します。

クラブによって入会金が高くて年会費が安いところ、年会費が安くて月々のフライト料が高いところ、などありますので一概には言えませんし、あなたがどれだけ熱心に通うかによって変わります。けれども、だいたい月3万+αと考えればいいでしょう。なので年で30万~50万というところが相場となるかと。まじめに通ったらだいたい2年で自家用操縦士免許まで取れるので、免許取得まで100万円ということになります。自動車の免許を取っても30~40万かかることを考えれば、そこまで高くないと(僕は)思うのですが。1ヶ月グライダーで遊んで3万円。月に一回飲み会に行って、二次会まで行って、最後にカラオケ行ったら2万かかると考えれば。

やはりその人が何にお金を使いたがっているのか、という問題なのでしょう。

(いや、やっぱり飲んで食って歌って2万ならそっちのほうが、、、)

 

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操縦席の中から。計器類はシンプル。コンピューターがついたりしているが、結局のところグライダーにとって最も重要な装置はあなただ。グライダーは高価で高性能な最新機器によって飛ぶのではなく、あなたの操縦と判断と、なにより自由に飛びたい、という意思によって飛ぶからだ。あなたがグライダーに意思と判断力を提供すれば、グライダーはあなたの意志を実現させる体を提供してくれる。

さて、これで思い込みが少しでも解消されたでしょうか?

ですが思い込みを解消しても、グライダーを始めるにあたってはいくつかの高い壁があります。それは日本においてグライダーは極めて知名度と競技人口がない、ということです。

 

次にその壁の超えかたについて書いていこうと思います。せっかくグライダーをやろうと思った方が、情報がないという(この情報化社会においてそんなことがありえると思うだろうか?それがあるのだ。情報はあふれていても、あなたに必要な情報が提供されているとは限らないからだ。むしろ、このような弱小スポーツは情報があふれることによりさらに疎外されてはじめている)そんなくだらないことのために道をあきらめるのはあまりにも悲しい。

 

情報収集
とはいったもののネットで探しても、あまりいい情報は出てきません。あきらめて見学に行きましょう。じっさいのところそれしかないのが現状です。何しろ競技人口が少なく、クラブ員がボランティアでサイトを作っている、というのがほとんどだからです。活動場所と、連絡先ぐらいが確認できればよし、というところ。 
何度も言いますが、どこも人が少なく体験搭乗のメールを送れば喜んで対応してくれるはずです(返信は遅くなるかもしれないが)。そして、もし体験搭乗をした後に、自信なさげに小声でボソボソと、ちょっと入会に興味があります、、、とでもいえば喜んで迎えてくれるはずです。何しろ会員が少ないから。 

ちなみに最も大切な情報は、人によります。 
たとえば僕の場合で言えば、自分でいうのもなんですが僕は誰とでもうまく付き合えるタイプなので(少々傲慢な物言いに聞こえると思うが、これが僕の唯一のとりえなので大目に見てほしい)、人間関係はあまり気にしませんでした。いっぽうで休暇中は朝寝坊したいので、活動場所が近く開始時間が少し遅めなクラブを選びました。 

あとは曳航方法についても少しお話しておきましょう。

ウインチ曳航のほうが安いですが、離脱場所が同じになってしまうというデメリットがあります。まぁウインチ曳航をメインとするクラブでも、年に数回は飛行機曳航をやっているのがほとんどですので、あまり気にすることはないでしょう。一般的にウインチ曳航を使用するクラブは安くすみ、飛行機曳航を使用するクラブのほうが一発の飛行時間が長いので早く免許が取れる、と考えてもらえばいいでしょう。 

 

体験搭乗
まずは体験搭乗でいろいろなクラブに行き、感じをつかむのがよろしいでしょう(もちろん一つ目のクラブが気に入ればそこでいい)。 というかそれしか方法はありません。
だが、少し気をつけておいてほしい。かなりマイナーなスポーツであり、クラブ員も少ない。教官と言ってもプロはまずいません。クラブ員の中で意欲のある人が教育証明という資格を取得し、ボランティアでコーチを引き受けてくれる、というのがほとんどです。ほかにも、ウインチ曳航や飛行機曳航に使う機材のオペレーションも、クラブ員のボランティア、地上で無線局の運用や管制を行うのも、ボランティア。機体の組み立ても皆でやり、飛行場の整備や準備も皆でやる。という感じで、お金だけ払って、あとはすべて誰かがやってくれる、というクラブはほとんどありません。そしていずれはあなたも何らかの役割を期待されるはずです。 

そのあたりも含めて、クラブの雰囲気を見学に行くのがよろしいでしょう。 

ちなみにあなたが学生ならば、自分の大学に航空部、というものがあるか調べてみるといいでしょう。おそらくそれが一番リーズナブルにフライトをする方法であるはずです。航空部の力の入れ具合にもよりますが、だいたい相場としては月2~3万円ぐらいというところでしょう。 

問題は、体育会でやっていることが多く、また大学によってかなり毛色が違うということです。そしてあなたの大学には一つしか航空部はないので選択肢はない。毛色が合わないならば、やめておいたほうがよいでしょう。

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大学の航空部の活動風景。ウインチ曳航の最中。

 

 

訓練開始 
入会するクラブを決め訓練を開始する。それにあたって必要なことはだいたいはクラブ員が親切に教えてくれます。(しつこいようですが、会員が少なく新会員は貴重だから)
クラブによって、会則があります。飛行場の使い方のルールや安全上の注意点などが決まっていますのでしっかり覚えましょう。が、それは置いといて、まず法律上必要なことは、練習許可証の取得です。 

いやいや、許可証ってなんやねん、って感じですよね。わかります。まあ簡単に説明すると、役所が金儲けするために、、、ごほん、失礼。えー、要するに身体検査です。身体検査を受けないと、練習を開始できないのです。(もちろん体験搭乗はできるが、訓練の飛行時間には加算できない。そして決められた訓練時間を証明できないと自家用ライセンスを取得できない) 
そして、その身体検査を行うことができるのは国土交通大臣の指定を受けた医療機関ということになっている。1年間有効で、この身体検査証が練習許可証となるわけです。 

検査の内容は、 視力検査、聴力検査、目をつぶって片足立ちできるか、とかその程度。事業用ではないのでそこまで厳しくはないです。視力は矯正視力でいいので悪くても問題はないです。ただ、レーシックを受けている場合は少々ややこしいので、受診前にその旨を伝えたほうがいいでしょう。

そして一番の盲点が、色盲検査(色の細かい判別ができない)です。少々なら問題ないが、自分で気づきにくいこともあり意外とここで引っかかる人もいます。
(もっともそれで何か劣っているというわけでもない。むしろ、この検査で初めて気づく人もいる)

 

さしあたり買うものは、サングラス(空を見るのでまぶしい)とログブック(これにフライトの内容を記録しないと免許を取るときに飛行経歴の証明ができない)ぐらいなものでしょう。ログブックはホーブンという航空デパートで買える。これは航空人御用達、というかここでしか買えないと思います。免許の申請用紙もここでしか買えなかったはず。 何しろ競技人口が少ないから。

何十年も前には「風を聴け」というなかなかロマンチックなタイトルのーーそして中身も素晴らしいーー教本があったが残念ながら絶版になり、僕の学生時代にはまともな教本は一切ありませんでした。教官からの口伝という方法以外に技術を盗む方法がない(それが最大の問題なのだが)。僕が航空部員だった時分にはみなでボロボロになった原本を何時間もかけてコピーしたものでした(出版した方には大変申し訳ないが、、、だが言い訳させてもらえば、本当にそれ以外手に入れる方法がなかったのだ)。ちなみにどうもこの本は最近再版されているという噂を聞いたことがある。調べてみる価値はあるだろう。

 

さて、これでクラブでのトレーニングを始めることができました。あとはもう流れに乗ってしまえば免許まで皆がサポートしてくれるでしょう。

なので最後に、免許を取るまでの第一歩であるファースト・ソロ(一人で飛ぶこと。それまではインストラクターが一緒に乗って練習する)までの流れを紹介しましょう。

ちなみになぜソロに出なければいけないのか、と聞かれれば免許を取るために必要だからだ、と答えるでしょう。免許を取るためには単独飛行(ソロフライトのことです)を規定の回数以上おこなわなければいけないと定められているからです。ソロに出たあたりで、免許取得の半分まで来たというところでしょう。あとは試験科目の練習(車でいうS字カーブとか、縦列駐車、坂道発進みたいな感じです)と、ソロの経歴をためて、試験を受けるのみです。 
 

初飛行
まずは初飛行を楽しんでほしい。あなたのグライダー・ライフの始まりであり、記念すべき日となるでしょう。

 

1-5発
とりあえずわけが分からないと思うので、ぼんやりと乗っていればいいです。(と僕は思う) 
地形や、離着陸のルール、無線の使い方などを覚えればいいでしょう。

 

5-10発 
自分で離着陸をやりましょう。 
間違いなく教官に手直しをされるはずです。なぜなら離着陸が最も事故につながる可能性があるからです。だが、自分でやらないとうまくならないし、上達が早くなるのは、自分で操縦するんだ、という意思がある練習生だと思います。 
 

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下手な絵で申し訳ない。エルロン、エレベーター、ラダーをバランスよく使って飛ぶ。操縦桿を右に倒すと、両翼についているエルロンが動き機体が傾く。操縦桿をひくとエレベーターが動き、機体のピッチがかわる。ラダーは足元にペダルがあるのでそれで操作する。着陸の時は格納した車輪をおろすレバーや、エアブレーキを操作して決められた位置に着陸する。

10-30発 
離着陸 の練習。
あとは上空での慣熟や、15度から30度のバンク(機体の傾きのこと。傾きが多きいほど早く旋回できるが操縦は難しくなる)での旋回練習をするとよいでしょう。失速の練習も早いうちからやっておくことをお勧めします。低速でのコントロールがうまくなるし、着陸の練習にもなる。免許の試験でも何度もやることになる。それになにより、失速の特性をつかむことは新しい機体に乗ったら最初にやるべき基本です。旋回失速は難しいので水平失速からやりましょう。

 

30-60 発
離着陸 の練習。

45度バンクの急旋回、S字旋回、対地360度旋回など。
非常操作の練習もかねて旋回失速など上級の失速科目にうつりましょう。

また、離陸時のトラブルに備えた飛び方の意識もするようにしましょう。ソロに出す前に、教官は曳航者と打ち合わせて曳航トラブルの状態を練習生に体験させます。いきなりやることもあるので、イメージトレーニングしておきましょう。もっとも、本来は飛ぶときには上級か初級は関係なく常に曳航トラブルは意識します。

 


60発ぐらいソロに出れればいいペースでしょう。 
早い人は50発くらいで出るし、遅い人は100発くらい。僕は70くらいでした。別に何かが優れているというわけでもないので、気にする必要はないです。例えるならば、声がでかいというぐらいのことでしょうか。声がでかいと得することはあるかもしれないですけど、得をしたとか損をしただとか、まぁしょせんその程度のことです。グライダーで大切な、上昇気流を見つけたり捕まえたりする技術とはあまり関係はないと思います。
(ソロに出る前に無線の免許を取る必要がある。グライダーは無線を使用するからだ。航空特殊無線技士、というかっこいい名前の免許で、これを取らないとソロフライトには出ることはできない。難易度的には、2,3日勉強すれば取れるが、ひとつ注意がある。聞き取りの際に間違った答えを書くと大きく減点されるのだ。空白のほうが減点は少ない。なのでわからないところは、空白で出したほうがいい)

 

この後は自家用操縦士免許の取得が目標になるかと思います。

学科試験をパスして、口述。実技のために磨きをかける。ソロの履歴をためる。 
150発くらいで受験できればいいペースでしょう。  
自家用試験について書くと長くなるので(そして本来は教育証明を持った人がやるべきことなので)、今回はここまでにしましょう。 


読んでお分かりになったとおもいますが、ソロに出るうえで最も重要なのは、離着陸がうまくできるか、ということです。空中衝突での危険性は、離着陸の失敗に比べれば、はるかに少ない(十分に気を付けなければならないのはもちろんだが)。教官が一番見ているのはそこでしょう。もっとも、ソロに出す、という考え自体僕は嫌いですが。教官にソロに出してもらうのではなく、あなたがソロに出るのです。 

免許を取るとフライトプランの提出ができるし、行動範囲が格段に広くなる。(練習許可証で飛ぶうちは単独で半径9キロ以上離れてはいけない)他の滑空場に遊びに行っても、自家用を持っているかどうかは一つの目安になるし、所属するクラブでもーー所有しいていればだがーーさらに高性能の機体に乗れるようになる。 

自家用の先は、個人によって違ってくる。 
のんびり楽しんでもいいし、教官を目指してもいい。海外で記録を取りに行ってもいいし、レースに出てもいい。仲のいい数名でオーナーになって、機体を買ってもいい。アクロバット飛行のトレーニングを始めてもいい。飛行機の免許を取りに行ってもいい。 

と、まぁこんなもんでしょうか。

今日この記事を読んでくれた人が、すこしでも無意味な思い込みから自由になる助けになれたとしたら僕としては記事を書いたかいがあったのかな、と思います。

そして、この記事がきっかけでだれかがもしグライダーを始め、空を自由に飛び始めたとしたら、僕としてはこれ以上なくうれしいです。

もしあなたがグライダーを始めたら、空を見上げるだけでちょっと幸せになれるかもしれません。あなたには、空をただよう雲のどれが「おいしい」雲なのか見分ける能力が本来備わっているのですから。
 

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雲の下には上昇気流がある。それを探して飛んでいく。あたりまえだが、あなたの前には地平線のかなたまで地面が広がっている。右にも左にも、見えないが後ろにも地面が広がっている。どこへだって行っていいのだ。それは素晴らしいことだと思う。どこへ行ってもいい。これ以上に自由なことなんてあるだろうか?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

追記

ちょっと記事の趣旨とは変わりますが、僕の航空文化に対する考えを書きます。

僕がオーストラリアへ遠征をくりかえしていたある時、クリスマスの時期に行ったことがあった。クリスマスは日本の正月のようなもので、仕事を休む人も多い。僕はそれを知らなかった。

クラブの曳航パイロットがみんな休んだり帰省したりして誰もいないときがあった。僕がせっかく来たのに飛べなくて途方に暮れていたら、クラブ員の一人が、

「俺は明日から仕事だからね、仕事の昼休みに一発曳航してやるよ」と言ってくれました。

次の日ぼくがグライダーを準備していると、彼がやってきて格納庫の扉を開け、機体を引っ張り出す。 
そして手際よく一回り点検をし、おもむろにエンジンを回す。まるで朝起きて顔でも洗うかのようにごく自然で、その人に完璧になじんだ動きだった。 

これが文化だ、と思った。 
自分の国の悪口は言いたくない。広大な土地があるオーストラリアと違い日本は住宅が密集しているし、万が一墜落事故が起きた時を考えてみれば、だれかれ構わず空を飛びまくったら危ないというのもわかる。だが。文化として負けている、と思った。ちょっと飛ぶのに煩雑な手続きが必要なものが文化だろうか。それこそ、昼休みにちょっとやろうか、という身近で生活になじんだものが、文化ではなかろうか。こういう草の根レベルで(ジェネラル・アビエーションという)文化のすそ野がないところに、本当の産業は成り立たないと思う。(航空機産業を興そうと思って、国が大企業に大量の補助金をつぎ込んでも役に立たないと思う。むしろジェネラル・アビエーションの振興という、企業では担いにくい基礎的なところに支援をすべきではないだろうか?) 

また別のある時には、僕が着陸したあとに飛行機がおりてきて、隣に機体を並べた。中からはひげボーボーのおっさんが出てきたので軽く挨拶をした。

飛んできた飛行機のおっさんは、家族旅行だ、と言った。家族は後から車でついてくる、俺は先に飛行機で来たんだ、と言っていた。 


結局そのおっさんとはキャラバンパークでも一緒になった。

車でついてきた彼の家族は彼の妻と娘だった。娘さんのほうは、ひげ面のおっさんからこんなかわいい女の子が生まれたなんて、まさにキリストさまが水をワインに変えた以来の奇跡としか言いようがなく、おっさんはもっと真剣に神に感謝すべきだと思うような女の子だったが、おやじのほうは特に信心深そうなそぶりはなかった。あまり熱心な信者ではなかったのかもしれないし、鏡で自分のツラを見たことがなかったのかもしれない。

パントリー(食糧庫みたいなもの)でおっさんと一緒になって また軽くあいさつしたとき、おっさんがネズミ捕りにかかって死んでいたネズミを見つけた。
おっさんは嬉しそうにネズミをつかむと、食事を始めようとしていた彼の妻と娘の待つ食卓へと(というか共同のキッチンだったので、僕もそこで食事を並べていたのだが) ネズミの死骸を持ってあらわれた。二人は最初悲鳴を上げていたが、奥さんのほうはやがて猛烈に怒鳴り始めた。娘さんのほうはおやじから逃げまどっていたが、おやじはさらに嬉しそうに逃げ回る娘を追いかけまわしていた。机の周りをくるくると回るふたりはトムとジェリーのようだった。

その様子を見ていた僕は、本当に品がないおっさんだな、国が違ってもこういうおっさんっているんだな、まったく女性に対して なんてふざけた態度をとるんだろう、けしからんと憤り、二人を下品なおやじから助け出した、

というのはウソで僕はそういう下品なことが大好きなので、おやじと一緒になって笑っていた。 


次の日にその親子にあいさつしたとき、その天使のような女の子は昨日のネズミを見るような目で僕を見ていた。 
 

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おやじさんとは意気投合することができた。きっとお互い下品な笑いが好きだからだろう。

ここで大事なことは、日本でいう、わざとこたつの中で屁をこいて娘のひんしゅくを買うオヤジと発想が一緒で、 そういうオヤジは世界中どこにでもいる、ということではもちろんなく、飛行機が、ある特定の人だけが触れられる文化でなくこたつの中で屁をぶっこいてゲラゲラ笑う下品なオヤジでも、気軽に楽しむことができる。それが本当の文化ではなかろうか、ということです。僕は、立派な身なりの限られた金持ちが お上品にグライダーを楽しむよりも、下品なおっさんが気軽に始められるくらい身近になじんだ文化としてのグライダーのほうが、はるかに健全なのではないだろうか、と思う。

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