医療職や介護職として現場で働いている方もICFを正しく理解している方は案外少ないという印象がありますので、ここでわかりやすく解説したいと思います。
ICFとは、「International Classification of Functioning, Disability and Health」の略称で、日本語では「国際生活機能分類」といいます。
ICFは、元々WHO(世界保健機関)で1980年に制定された「ICIDH(国際障害分類)」の改訂版で、人間の「生活機能」と「障害」に関する状況を客観的に把握することを目的とした分類です。
ICFの考え方が提唱される以前は、医療分野での障害の捉え方はICIDH(国際障害分類)モデルでした。
ICIDHでは、身体機能の障害、生活機能(ADL・IADL)の障害、社会的不利(ハンディキャップ)で機能喪失や能力低下を分類するという障害重視の考え方であったのに対し、ICFでは、障害をマイナス面だけでなく「生きることの全体像」をとらえようという趣旨から、プラスの面も評価することが可能となっているのが特徴的です。
ICFは、「心身機能・身体構造」「活動」「参加」「環境因子」「個人因子」から構成され、「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つの要素は並列となっております。それら3つの要素を「生活機能」と呼びます。
この「生活機能」に影響を及ぼすものとして、「環境因子」「個人因子」があげられ、それら2つの要素を「背景因子」と呼んでいます。
図:ICFの構成要素間の相互作用
図のとおり、各構成要素はお互いが網の目のようにからみあっている作用し、1つの要素が変化すると他の複数の要素にも影響を及ぼすことが考えられるというわけです。
◇健康状態とは◇
病気、変調、傷害、怪我、妊娠、加齢、ストレス、先天性異常、遺伝的素質のような状況をさします。
◇心身機能・身体構造とは◇
「心身機能」とは、身体系の生理的機能(心理的機能を含む)をいいます。具体的には、手足の動き、視覚・聴覚、精神面の状態をさします。
「身体構造」とは、器官・肢体とその構成部分などの身体の解剖学的な部分をいいます。具体的には、手足の関節の構造、靭帯、胃・腸、皮膚などの体の部位の状態をさします。
▶︎プラス面
・認知機能:見当識に問題なし
・精神状態:不穏なく穏やかに過ごしている
・皮膚状態:良好
▶︎マイナス面
・関節可動域:左膝を伸ばす際に制限あり
・筋力:左膝を伸ばす力が低下
・痛み:荷重時痛あり
「活動」とは、個人として生活する上で、生きていくために役立つ様々な行為と定義されます。日常生活動作(ADL)や手段的日常生活動作(IADL)などの項目が含まれます。日常生活を営むために必要な食事や着替え、入浴、料理、洗濯など、そして、仕事や遊び、スポーツなども「活動」に該当します。
日常生活動作(ADL)
起居動作(寝返り・起き上がり・立ち上がりなど)、食事、整容(歯磨き・髭剃り・化粧など)、入浴(体洗・洗髪・浴槽移乗など)、更衣(ズボンや上着・下着の着脱など)、トイレ、車椅子または歩行(杖歩行や歩行器歩行など)、階段、移乗(トイレ移乗・ベッド移乗など)
手段的日常生活動作(IADL)
電話を使用する、買い物、食事の準備、家事、洗濯、運転や交通機関の利用、自分の服薬管理、財産や金銭の取り扱い、仕事、交際、趣味などの生活行為まで含みます。
「参加」とは、生活、人生場面への関わりのことです。ICFの「参加」は「社会レベル(人生レベル)」と表現され、社会的な出来事に関与したり、役割を果たすことと定義されます。
主婦として家事全般を行う、カラオケクラブに行く、自治会長として職務を行う、ゲートボールの集まりに行く、娘の結婚式に出席する、書道の展覧会に出品する、俳句のコンクールに応募する、家業の農家の手伝いをするなどが挙げられます。
ICFの活動と参加の違いは、その活動や行為が、個人の生活レベルであるか、社会や人生に関わるレベルであるかによって判断されます。生活するための行為は「活動」で、社会生活に関わることは「参加」と覚えておくと良いでしょう。
環境因子は以下の3つの要素で構成されています。
「物的環境」
・自宅に階段や段差がある
・自宅前の道路の交通量が多い
・最寄りの交通機関などにエレベーアー、手すりがある
「人的環境」
・家族構成が5人家族(本人・夫・息子・嫁・孫)で生活援助が依頼できる
・近隣に友人あり
・職場のスタッフとの交流が深い
「社会・態度的環境」
・日本国憲法などの法律
・医療保険あり
・介護保険あり(要介護2)など
個人の人生や生活の特別な背景と定義されています。
具体的には、性別、人種、年齢、体力、ライフスタイル、習慣、生育暦、教育暦、職業、過去および現在の経験、行動様式、困難への対処方法、価値観など。
(例)ICFの視点と移動・移乗の介助のアセスメントの関係
・脳卒中などの脳疾患、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、脊髄損傷、骨折、骨粗しょう症、認知症、身体状態(顔色、皮膚、表情、頭髪、眼、耳、口、鼻、喉、睡眠、食事、排泄、姿勢、歩き方、体重の増減、体調の変化など)
麻痺や拘縮、振戦の程度、筋力低下の程度、長期臥床による屈曲の程度、関節可動域、感覚機能の障害の有無、認知機能の低下の有無、言語障害の有無、意欲の有無(単なる気分の問題か、意識レベルはどうか、不満や不安、痛みや不快感などの反応を把握する)
「起き上がり・寝返り」
首は上げられるか、手を伸ばせるか、足や腰の回転ができるか、顔を寝返る方向に向けてあごをひけるか、手でベッド用手すりをつかめるか。
「座位」
背筋を伸ばすことができるか、体重を骨盤と足の裏で支えられるか、股・膝は直角に曲げられるか
「立位」
身体を前屈できるか、臀部を浮かし腰と膝を同時に上に向かって伸ばすことができるか、立ち上がって身体が後ろに反らないか
「歩行」
両足に体重を均等にかけることができるか、手すりがあれば歩けるか、杖を使えば歩けるか、歩行器があれば歩けるか
「その他」
コミュニケーション、意思の伝達能力はどうか
仲間や地域社会とのつながり、趣味、家庭での役割など
物的環境(居室内などの段差、家具の配置、生活動線、福祉用具の整備、配置、経済面など)
人的・社会的環境(家族介護力、近隣住民、友人、地域支援体制、制度・政策など)
知的状況・価値観・希望(大切にしているもの、健康観、生きがい、楽しみなど)
性格(前向き、恐怖心、心配性、依存症など)
生活暦、生活環境
これらを評価したうえで、介護の方向性を決定していく。